無理難題 ③
なんてことはない、ウカがやってみせたのはただの力技だ。
収束させた雷に神力を上乗せし、強引に洞窟の天井を貫く。 それがいまのウカに起こせるギリギリの奇跡だった。
当然天井が崩れればおかきたちも生き埋めになりかねないが、それ以上にコロポックルたちは崩落を看過できないのだ。
自分たちの心臓である祭壇に何かあれば自分たちの存在も泡沫と消えてしまう、ゆえにコロポックルたちはターゲットの抹殺よりも祭壇の死守を優先した。
そこでコロポックルたちは一塊に集まると、今にも瓦解せんとする天井に向けてその全身を伸ばす。
そのまま天井を支える巨大な柱となった群れは、一部個体を融解させて天井に広がったヒビへ浸食させていく。
さながらドス黒い金継ぎともいえる一連のコンビネーションにより、崩落を阻止するまで物の数秒と掛かっていない。
「――――そしてその数秒が命取りだな」
「……っ!!」
ウカが落とした雷には2つの役割があった。
1つは洞窟を塞ぐ天井を破壊し、コロポックルたちの注意と戦力をそちらへ向けること。
そしてもう1つは――――目も眩む閃光の中、静かに走り出した悪花の姿を隠すことだ。
「殺ぽー!!」
「悪花ァ! 顔下げぇ!!」
「うおおおおお!? ざっけんな、俺のせいで二度も暁 悪花を殺してたまるかよ!!」
間一髪、コロポックルが投擲した草刈りカマが悪花の頭上を掠める。
ウカや忍愛から見れば悪花の走りはひどくもどかしいものだ、足も遅ければフォームもなっていない。 ただ祭壇を破壊するだけなら飯酒盃を走らせれば危なげなく完走もできた。
だが、それでは駄目なのだ。 別世界にある2つの心臓部を同時に破壊するという無理難題は、暁 悪花と山田 忍愛にしかこなすことができない。
「コロッポォー!!」
「ご主人の友達を傷つけさせはしないぞ」
「ころぽぉー!!?」
「うわあお前そんなの食うな!?」
天井を支えるスクラムからはぐれた個体があわや悪花を強襲――――するかという寸前、彼女の背中に張り付いていたタメィゴゥが不埒なコロポックルを丸のみにした。
そのまま数秒ほど殻の中でドラム缶を叩くような音が響き、やがて吐き出されたのはウズラサイズのタマゴ型に成形された黒いヘドロだった。
「ふむ、やはり倒すと泥のような姿に戻るようだな。 背中は任せよご主人の友達よ」
「オメーだけは本当よくわからねえんだよな……まあ味方なら頼もしい限りだ、このまま突っ込むぞ!」
「全員悪花を援護せえ、ここが正念場やぞ!!」
「わかってるわ! 弾持ってきて弾ー!!」
崩壊する天井を支えるために総数の7割以上を裂いてしまったコロポックルたちは、祭壇へ接近する悪花への対処に1手遅れる。
残る3割が死に物狂いでこれ以上の進行を止めようとするが、タメィゴゥの護衛や飯酒盃の射撃で撃墜されてさらに1手。
だがそれでも祭壇に近づくほどコロポックルの密度は厚く、悪花の行く手を遮った。
「ぐっ……!」
「殺ぽぉ!」
距離にしておよそ1mほど、伸ばした腕にはクワやカマが容赦なく振るわれ、肉を切り裂いて鮮血がしたたり落ちる。
祭壇は目の前……しかし悪花の手はその縁に届くこともなく、足に絡みついたあまたのコロポックルたちによって止められた。
「ああもう弾切れ……! 稲倉さん!!」
「チィッ……! クッソ、アカンこれ以上は意識持ってかれる……!」
「悪花さん!!」
「来るんじゃねえ! 安心しろ――――届いた……!」
「ころぽ?」
悪花の首筋に到達し、小刀の刃先を構えたコロポックルが首をかしげる。
彼女が伸ばした掌は何もつかむことなく空を切った、そのはずだった。 しかし祭壇に溜まった泥を押しのけ、ドボンとしぶきが上がる。。
まるで見えない何かが器の中に放り込まれたかのように。
「はっ、他人に譲渡しても使えるとは思ってなかったぜ。 サンキュー透明人間」
「('◇')ゞ」
「クラップハンズだ! 覚えて帰れ!!」
「悪い悪い……けど怒るより先に全員伏せろッ!!」
そして悪花が喉元のコロポックルを掴んで後ろ向きに倒れた瞬間、器へ投げ込まれた見えない手りゅう弾が炸裂した。
内側から爆ぜた衝撃を耐えられるほどの強度はなく、周囲を固めるコロポックルこと吹き飛ぶ祭壇。
しかし同じく至近距離で爆風を浴びた悪花は、自分に群がるコロポックル(とタメィゴゥの殻)を盾にしたおかげでほぼ無傷でやり過ごすことに成功した。
「はっ、大成功ぉ! だが……!」
「うむ、天井が崩れるな」
目論見通り祭壇の破壊に成功したが、コロポックルの大部分が爆発に巻き込まれせいで、彼らが支えていた天井が崩れ落ちる。
洞窟の入り口付近まで撤退していたおかきたちはまだ逃げる猶予がある、しかし崩落の中心地点まで接近していた悪花とタメィゴゥは別だ。
あくまで身体能力は常人でしかない悪花が、この崩落に巻き込まれて生き残る可能性は限りなく低い。
「……だが、テメェなら別だろ? お前がいつ石板を砕くかなんて目つむっててもわかるんだよ、いつでも仕留められるように穴が開くほど調べつくしてんだからなァ!!」
「やめてねこんな土壇場で助けるの躊躇っちゃうよボク!?」
あわや大質量の岩が悪花を押しつぶさんとするその寸前、彼女の身体を抱き寄せた桃色のつむじ風が迫る岩を蹴り上げる。
目を開けずとも暁 悪花は知っている、何百㎏あるかもわからぬ岩を紙屑のように蹴り飛ばせるような怪物の正体を。
悪花の全知全能が自分を補足していると信じ、絶妙なタイミングで石板を破壊してくれた存在を。
「ドーモ、悪花様! 可愛くてプリティーな忍愛ちゃんです、助けに来たよー!」
「ああはいはい、そういうのはいいからまずはここ切り抜けるぞ。 手ぇ貸せ、お前の力が必要だ」




