贄と供物 ④
「あの雪山……仮に霊峰とでも呼ぶか? あそこにゃ本物の神はいねえ、全部ハリボテの作りもんだ」
「なんでそんなことがピエロにわかるんだよ」
「本物ならどっかの変態シスターが黙ってても寄って来るだろ?」
「あー……」
おかきたちが融解するウェンカムイと対峙しているころ、元の世界へ弾き出された忍愛もまた納得の吐息をこぼしていた。
その一方でクラウンは何かを探しているのか、降り積もった雪をシャベルで掘り返しては埋めるという作業を何度も繰り返している。
「あの霊峰は舞台で、誘い込まれた連中は強制的に役割を振られた演者さ。 襲う側と襲われる側で繰り広げられるパニックホラーってかHAHAHA!!」
「舞台って言うなら人為的に仕込まれたってこと? 誰が何のためにそんな……」
「決まってんだろ、人が誰かを殺すためだ。 そこにあるのは報復か復讐ってのが相場だろ」
その時、クラウンが振り下ろしたシャベルがガキンと堅い音を立てて何かに突き刺さる。
そしてそれこそが目的のものだったのか、クラウンはショベルから火炎放射器に装備を変えると、たちまちに周りの雪を溶かして目的物をあらわにした。
「……おいピエロ、これ何さ?」
「フライパンや土鍋にでも見えるか? 見ての通りだよ、石ころでできた板切れだよ! 肉が焼けそうなのは変わりねえかHAHAHA!!」
「別に料理できるかはどうでもいいんだよ、問題は何が書いてあるかさ」
クラウンが雪の下から掘り当て、忍愛に目の前にドスリと投げ捨てられたのは分厚い石板だった。
大きさは畳一枚分ほど、自重だけで地面にめり込んでいるため見た目以上の密度を持っていることが分かる。 クラウンはこれを片手で投げたわけだが。
しかしその表面は長年の風雪で劣化してしまったのか、忍愛の目と知識では読み解くことができなかった。
「読めねえのは仕方ねえ、そいつはアイヌ文字だ。 うちのジェスター君なら読めたかもしれねえけどな」
「はぁーうちだって新人ちゃんか悪花様に任せれば読めると思いますぅー……ってお前も何書いてあるのかわかってないじゃん!」
「HAHAHAバレたか! だが俺にはわかるぜ、この石板に込められた笑えねえ憎悪! 何十年も熟成されたヴィンテージものだぜ!」
「だから誰が何のためにだよ! 結局この石板ってなんなのさ!?」
「じゃあ結論だけ先に置くか、そいつ元凶だからぶっ壊せばいいんだよ」
「早く言えよそれをォ!!」
聞くや否や忍愛はクナイを取り出し、迷うことなく石板へと振り下ろす。
しかし忍者の剛腕で振り下ろされたその一撃は、横から伸びてきたクラウンの指一本で止められた。
「な、何すんだよお前……!」
「HAHAHA、ピエロの言葉は最後まで聞くもんだぜ! そいつを今ぶっ壊しちゃ興ざめだ、“条件”がある!」
「条件……?」
「ああ、耳かっぽじって聞けよぉ? ここからがショーのハイライトだ!」
――――――――…………
――――……
――…
「――――理解したのはついさっきだ、一手遅かった。 思えばこの世界はどこかおかしかった」
「そうですね、普通の雪山でないことは明白でした」
「考察するのは結構やけど今か!? 今その話する必要あるか!?」
一方そのころ、おかきたちは洞窟内にて苦戦を強いられていた。
ただしその相手はウェンカムイではなく、物騒なクワやナイフを構えながら群がってくる数百体のコロポックルたちである。
祭壇からなみなみと溢れては数々の亡骸を飲みこみながら襲い掛かる様は濁流のようで、飲み込まれてはひとたまりもないことが容易に想像できる。
「どないなっとんねん、ウェンカムイが融けたと思たらその雫が全部ちっこいのになってもうた!」
「あれは粘土みたいなもんだ、役目が終わったら次の形に姿を変える。 今は俺たちを殺すために数で押せって考えなんだろうよ」
「そりゃ合理的やなぁ、実際しんどいしムカつくわぁ~!!」
「イデデデ!! おいちょっと打ち漏らしあるぞイデデ私の膝を刺すな膝を!!」
「(゜Д゜;≡;゜д゜)」
「あーもう、銃じゃこんな数相手にしてられない! 誰か手投げ弾!!」
「こんな閉所でそんなもん使えるかぁ! おい狐、お前前回みたいにもっと悍ましい真似はできないのか!?」
「ふざけんなやこっちは暴走抑えるのに手いっぱいやねんぞ! 四尾になったらうちいがい全滅や!!」
「おいSICK、お前たちこんな爆弾戦力を抱えているのか!?」
「ウカさんは頼りになる味方ですよ、爆弾なんかじゃありません」
「訂正させたければ何とか活躍させてみろこのお荷物どもがー!!」
周囲に群がるコロポックルをウカが電撃で牽制する拮抗状態の中、戦力にならないおかきと悪花の2人はジェスターが持つ大量の義手によって宙に担ぎ上げられている。
これに関してはジェスターが仲間意識に目覚めたわけではない、ただの損得勘定だ。
なぜなら死体を飲みこんだコロポックルたちは、目に見えてその総体積を増やしているのだから。
「絶対にそこを動くなよ! お前たちがコロポックルの餌食になればそれだけ私の敵が増える!」
「わぁってるよ! どのみち四方囲まれてんだ、俺たちが加勢したところでリスクの方がデケェ」
「ご主人、いざとなれば我に乗れ。 ダチョウとて頑張れば空も飛べるはずだ」
「それは悪手ですよタメィゴゥ、私だけが逃げたところで詰みです。 祭壇を攻め落とすチャンスは今だけなのですから」
「ということはあの祭壇が要ってことね、藍上さん!?」
「おそらくは。 そうですよね、悪花さん」
「ああ、まず前提としてこの世界は全部作り物だ。 雪はバカクソ降ってるくせに一定量以上は積もらねえ、どこ行ってもおかきが埋もれねえのが証拠だ。 おまけに描写範囲外の風景は適当なアセットを素組みしたような手抜きと来てる!」
「ちょっと待ってください私の背丈を物差しにしましたか今?」
「今はそこ重要じゃねえからスルーしろ。 んで事前にSICKに集めてもらったデータとこの雪山を実際に見て歩いて得た情報をまとめりゃあとは俺の仕事だ、結論は見えた」
横から突き刺すおかきの視線を無視しながら、悪花は得意げに指を鳴らす。
集めたピースから結果を推理する探偵とは異なり、情報と時間さえ与えられれば全知無能はどんな無軌道な結論だろうと正解を導き出せる。
わざわざ魔女集会のリーダーが危険を冒して現場に駆け付けたのもそのためだ。
「全員聞け、先に結論だけ言うぞ! この環境は妄執が生み出した呪いだ、そして心臓部はあの祭壇にある!」
「ちゅうことはアレぶっ壊せば解決か!?」
「その通りだけど先走んなよウカァ! ただ壊すだけじゃねえ、ここからが肝だ! そいつはなぁ――――」
――――……
――…
「HAHAHA! いいか、よく聞けよ面白忍者ちゃん。 その石板はただ壊すだけじゃダメだ その石板はな――――」
……――――
…――
「「――――対となっているもう一つの祭壇《石板》と
同時に破壊する必要がある!」」




