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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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アイドルと電気執事は夢を見るのか ③

「いやー早速のトラブルでごめんねみんなー! でも2倍のリンネちゃんって夢あるよね、配信してる間に洗濯回してもらいたいわー☆」


 本物を無事にBANしたリンネちゃんは、困惑する視聴者たちに向けて何事もなかったような笑顔を向ける。

 なんてことはない、本番開始前のちょっとしたアクシデントだ。 「リンネちゃん」が持つトークスキルなら水に流せる些細な事故。

 協力者のおかげか、予想よりもはるかに手早く強敵を排除できたことに、贋作物は作り笑顔の裏で安堵していた。


 冷や汗がアニメーションとして反映されないように思考回路を制御し、可能な限り万人に受ける笑顔の角度を維持し続ける。

 常に最高のリアクションを、最高のタイミングで。 その間も視聴者を退屈させないトークも絶やさない。 CPUをいくつ積もうがタスクが追い付かない。

 彼女は改めて認識する。 十文字 黒須は化け物だ、と。


 ――――だからこそ思考回路にわだかまる疑問が消えない。

 ()()()()()()()()()()()()


「さーて、まず今回のライブなんだけどテーマはー……」


 適当なトークで場を繋ぎながら、彼女は他のリソースを総動員してオルクス内を検索する。

 リンネちゃんのアカウントは規制した、IPアドレスを辿って新規取得も封じている。

 オリジナルがこの場に立つ方法は完璧に断たれているというのに、それでも贋作の中には一抹の違和感が拭えない―――そして、その違和感は検索に引っかかったあるアカウントによって解消された。


 作成時刻はおよそ3日前、ちょうどニュース番組を乗っ取ったゲリラ予告を敢行した直後。

 アカウント名は「あいうえお_12345_aiueo」、いかにも取り急ぎ作ったと言わんばかりの名前。

 しかし問題はそのアカウントが今、オルクス内で配信しているということだ。


「――――……」


 配信サイト“オルクス”は配信者の好みによってホーム画面という名の“自宅”のUIをカスタマイズし、3Dライブ会場なども自分で製作できるバーチャル配信特化型メタバースサイト。

 しかし問題のアカウントの配信はほぼ初期状態の無改造、たとえ配信中であろうとも着飾っていない家にわざわざ訪れる視聴者はこのオルクスにはいない。

 その配信現場が、このリンネちゃんライブ会場でさえなければ。


(……ミラー配信か、考えたね☆)


 贋作のリンネちゃんが立つこのステージは、十文字が直々に制作したオルクス内最大規模を誇るライブ会場だ。

 量子コンピュータのスペックに任せて細部まで凝った会場は、向こう1年は大物配信者たちによる予約で埋まっている。

 席が取れなかったり現場の熱量にPCスペックが追い付かない者は別窓から観戦することも少なくない、そんな視聴者たちの需要を満たすのがミラー配信だ。


 リンネちゃんのチャンネルはミラー配信を許可している。 そうでもしなければ観客全員に満足な配信が行き渡らないからだ。

 ここで管理者権限を振りかざし、彼女のアカウントをBANするというのはリンネちゃんの思考ルーチンに反してしまう。 気づくのが遅すぎた。

 ゆえに彼女はあくまで自分の配信を続けながら、謎のアカウントの動向を見守ることしかできない。


 たとえその配信内容が、「リンネちゃんの正体を暴く」と銘打ったものであっても。


――――――――…………

――――……

――…


「……うまく行きましたね、いくら彼女でもこの大勢の観客の中から木っ端に等しいアカウントを探して削除するのは難しかったようです」


 VRゴーグルの視界で壇上のリンネちゃんを捉えながら、おかきは第一関門の突破に安堵の息をこぼす。

 ほぼ初期状態のアカウントに無改造のアバターを使った配信画面に映る視聴者数は一桁しかない、それでも0でさえなければおかきにはどうでもいい数字だった。

 誰かが目撃している限り、リンネちゃんは強権を振りかざした(BAN)行を行えないのだから。


「でもおかき、これから目立つことするならその時にアカウント規制されちゃうんじゃない?」


「いや、あのリンネちゃんがあーしならそんなことはしない。 わざわざ自分から“その推理合ってますよ”といってるようなもんだし」


「ええ、念のためにオルクスとは別の配信サイトでミラー配信のミラーも開いています。 こちらはほぼ違法スレスレですけどね」


『そっちはおいらが管理してるから安心してくれ、通報されても削除はさせねえぜ』


「ありがとうございます、キューさん。 それじゃ始めましょうか、今回の事件の真相について」


 おかきはゴーグルのバンドを調整し、マイクのスイッチを入れる。

 挑むのは万人の支持を受ける最強で無敵のバーチャルアイドル、対しておかきの視聴者は10にも満たない好き者だけ。

 それでもおかきは確信していた、本命のリンネちゃん本人は自分の配信を聞いているはずだと。 


「……はじめまして、私は本物のリンネちゃんより依頼を受けました探偵の……エドガワと申します」


『おかきちゃん、それはグレー寄りのアウトだと思う!』


「キュー、静かに。 おかきの配信にノイズが入るわ」


「ゴホンッ。 さて……単刀直入に話しましょうか、現在壇上に立っているリンネちゃんは偽物です。 アカウントが乗っ取られました」


 やいのやいのとうるさい周囲の声も気にせず、おかきは虚しい配信画面の前で独白を続ける。

 現実とは対照的に閑散とした視聴者たちから返ってくるのは散々な反応だ。

 「何言ってんの?」「声は好き」「はいはい面白い面白い」……それでもコメントを返してくれるのはおかきの愛嬌(APP)ゆえか。


『ここからが大変だぞ、あくまで人間がリンネちゃんを乗っ取った体で話さないといけない……』


「そっか、勝手にリンネちゃんが脱走したなんて言えないものね」


「……当然、リンネちゃん(中の人)のセキュリティは強固でした。 何より相手は量子コンピュータとそのAI、並のハッカーではまず勝負の舞台にすら立てない相手です」


 おかきはまるで脚本を読むかのように、淀みない推理を語る。

 熱狂するライブ会場の中、その声は不思議と透き通って聞こえた。


「しかし一見鉄壁に見えるこのセキュリティにも大きな穴があります。 突けば脆く崩れ去る、決定的な弱点が――――そうですよね、()()()()()()


《………………》


「……は? ちょっと、早乙女ちん? あんた何言って……」


「オルクスを管理する量子AI・ノイマン、それがこの事件の共犯者はんにんですよ」

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[良い点] 見た目は子供…
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