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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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探さないでください ②

「……しっかしついてないわね、偶然立ち入ったコンビニが強盗中だなんて」


「甘音さん、あまり妙な動きはしない方がいいですよ。 犯人は気が立っています」


 結束バンドで拘束された腕を居心地悪く動かす甘音を小さな声量でたしなめながら、おかきは状況を冷静に俯瞰する。

 犯人はパーカーを目深にかぶった男1人。 身長は目測で170cm以上、今も落ち着かない様子で鼻息荒く店内を闊歩している。

 店内におかきと甘音以外の客はいない、レジにすら人影がいないのはすでに逃げた後か。


(いや、あるいは……)


 強盗犯が片手に握りしめている出刃包丁には、べっとりと赤黒い血がこびりついている。

 何も知らずに店内へ入ってすぐに拘束されたため、おかきたちが刺されたわけではない。

 包丁を握る当人も流血しているようには見えず、ならば残るのはあの刃先にこびりついた鮮血の主は誰かという疑問だ。


「う……うぅ……」


「おい、静かにしろ!! お、お前らも助けを呼ぶとか変なことは考えるなよ! 俺はすでに一人殺してんだからな!!」


「…………」


 レジの向こうから聞こえてきたうめき声に、最悪の予想が当たってしまったおかきは内心舌打ちを鳴らす。

 刺された被害者が見えないということは、おかきの視界外で倒れているということだ。

 おそらく強盗犯は初めに店員を刺し、逃げる暇もなくおかきたちが入店してしまったのだろう。 


ご主人(ごすずん)、血の臭いが濃い。 レジ奥の人間、まだ息はあるがおそらく出血がひどいぞ)


(どうやら時間はないようですね、しかしどうしたものか……)


「クソッ! まだこねえのかよ!!」


 強盗犯は苛立ちを隠そうともせず、店内をうろついてはすでに現金を強奪したレジを開けては乱暴に閉めるという行動を何度も繰り返している。

 一度人を刺せばタガが外れる、腹いせに振り回されるあの凶刃がいつおかきたちへ向けられてもおかしくはない。

 しかし不可解なのは、なぜ強盗犯はすぐにこの場を立ち去らないのかという点だ。


(まだ来ない……誰かを待っている?)


(闇バイトというものか? 我もニュースで見たことがあるぞ)


(でもああいうのってもっと高級店を狙うんじゃない? コンビニ襲わせるのは効率悪すぎるでしょ)


(まあ、口ぶりからして協力者がいるのは間違いないでしょうけど……)


 つまり時間は限られている、このまま手をこまねいていてはいつ増援が駆け付けてもおかしくはない。

 助けを呼ぼうにもここは人通りの少ない過疎地域、店外に見える景色ものどかな田園風景と野菜の無人販売所ぐらいだ。

 最悪の場合、リュックに隠れたタメィゴゥが飛び出せば包丁の刃ぐらいなにも怖くはないのだが、それはそれでSICKが隠すべき異常存在が表社会に暴露する危険を帯びている。


「クソッ! おいお前、こっちにこい!!」


「うわったった」


「おかき! ちょっとあんた、女の子はもっと優しく扱いなさいよ!」


 しびれを切らした犯人は拘束したおかきの首根っこを掴み、乱暴に持ち上げる。

 そのままタメィゴゥ入りのリュックを投げ捨てて小脇に抱えると、小金が詰まったカバンを抱えて一目散に出口へと向かっていく。


「うるせえ、刺すぞ! こいつは人質だ、ガキならサツが来ても俺ごと撃てねえだろ!」


「高等部です!!」


「嘘つくなこのガキ!! いいからお前は喋んじゃ……」


「――――すみませーん! 誰かいませんかー!」


 男が店を出ようとピロリロと入店音を鳴らして自動扉を開いた瞬間、運悪く新たな客が飛び込んでくる。

 走ってきた勢いのまま強盗犯にぶつかったのは、髪を金髪に染めた女性だった。

 外は息が白くなる気温だというのにまるで夏に取り残されたような薄着で、目じりには涙を貯めてまるで男に縋りつくかのように離れない。


「な、なんだこいつ!?」


「お願い、助けて! ヤバイ奴に追われてんの、あいつ銃持って私を殺す気なんだよ!」


「ハ、ハァ!?」


「あんたナイフもってんじゃん、それであいつ殺してよ! ねえ、もう誰か殺してんでしょ!? 1人も2人も一緒じゃん!!」


 強盗犯に喋る暇も与えず、その胸にしがみ付いた女性は必死にまくしたてる。

 あまりにも鬼気迫る表情は冗談とも取れきれず、男は迫力に押されて息を呑む。

 銃と包丁、向かい合ったらどちらが強いなんて火を見るよりも明らかだ。 人を殺した、という興奮も男の表情から潮のように引いていく。


「来るよ、すぐに私を追ってくる! ほら、ほら……すぐに、今にもやって来る! 今、今、今……今!」


 ――――急かす女性の声が合図だったかのように、パンパンと乾いた音がどこからか響いた。


「う、うああああああ!!!! チクショウ、付き合ってられるか!!」


「ふべっ」


 分が悪いと判断した男はその場におかきと現金入りのカバンを投げ捨て、一目散に逃げだす。

 姿も見えぬ銃を持つ危険人物に怯えた結果、乾いた音の出所が女性の胸ポケットにしまわれたスマホからとも知らずに。


《ユーザー、目標の撃退に成功しました。 作戦通りです、通報も完了しています》


「OK、ナイスノイ。 君たちー、怪我無い?」


「あいたたた……今しがた鼻をうちつけたところですが」


「そこの人、結束バンド解いてバンド! 刺された店員処置しないとまずいわ!」


「ん、ケガ人おるん? ノイ、救急車も頼んだ」


《承りました》


 女性はスマホで誰かと会話を交わすと、商品であるハサミを開封して甘音たちの拘束を切り裂いていく。

 そして両手足が自由になった甘音は礼もそこそこに商品の包帯などをかき集め、レジの奥へと飛び込んでいった。


「ほい、そこのお嬢ちゃんも手出して。 怖くなかった? 大丈夫?」


「大丈夫ですが……声色ひとつで強盗を撃退ですか。 さすがですね、()()()()()


「……んー? ごめん、なんか見覚えあるけどどこかで会ったことあったっけ?」

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