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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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180/555

探さないでください ①

「……それで、おかきの先輩たちに会うのは良いんだけど」


「どうして我々は行く先々でトラブルに巻き込まれるんでしょうか」


ご主人(ごすずん)、気にすることはないぞ。 ご主人のせいではない」


「おいそこ! なにうだうだ喋ってやがる!!」


 結束バンドで両手を拘束されたおかきたちにギラリと光る包丁がつきつけられる。

 赤い液体が滴るその刃先からは、いやでも肉を突き刺す切れ味を連想させられるものだ。

 もたれかかったドリンク棚(リーチイン)の温度とは異なる冷たさがおかきの背筋に走る。 同時に脳裏に浮かぶのは「どうしてこうなったのか」という当たり前の困惑。


 2人(+1匹)はただ、コンビニへ立ち寄っただけだというのに。


――――――――…………

――――……

――…


「それでおかき、これから会いに行くあんたの先輩ってのはどんな人なの?」


「化け物ですね」


「あんたの先輩評価だいたいそれじゃない」


 あくる日の朝、おかきと甘音の2人は学園を離れて久々の外界へ躍り出していた。 これから待ち受ける運命も知らずに。

 目的は早乙女 雄太が所属していた部活の先輩たちに接触すること、そのために選んだ目的地がここだった。


「なんというか……のどかね、駅から離れるとみるみる建物減ってきたわ。 本当にこんなところに先輩がいるの?」


「まあ首都でも県庁所在地でもないですからね、それに場所は間違っていないはずです」


 よく言えば牧歌的、悪く言えば田舎らし雰囲気に慣れない甘音はおかきの服の裾を掴みながら不安げに後ろを歩く。

 そんな甘音とは対照的に、おかきはズカズカと舗装されていない砂利道を歩きながら、その視線を手元のスマホ落としていた。

 画面に映っているのは今回唯一の手掛かりとなる……いわゆる「バーチャル配信者」のゲーム実況動画だった。


「ご主人、歩きスマホは危ないぞ」


「ああ、すみません。 ただ喋るときは声量に気をつけてくださいね、タメィゴゥ」


「うむ、気をつけよう」


 おかきが背負うリュックの中でもごもごとタメィゴゥがうごめく。

 ぬいぐるみと言い張るにしてもタメィゴゥの存在はあまりに目立つ。 苦肉の策として用意した登山用のリュックサックだが、これはこれで目立つのではないかといまさらになって後悔するおかきだった。


「しかし今でもちょっと信じられないわね、本当にこの“リンネちゃん”がおかきの先輩?」


「ええ、こんな芸当ができるのは私が知る限り1人しかいません」


 リンネちゃん、それがおかきが現在視聴しているバーチャル配信者の名前だ。

 チャンネル登録者数1000万越え、今まで配信した動画の総視聴回数は100億回を超える超がつく大物個人動画配信者。

 そんな彼女の記念すべき最初の動画は、ある一本の「歌ってみた」から始まった。


「……うーん、何度聴いても信じられないわね。 本当にこれ全部ひとりの人間が歌っているの?」


「それどころか3Dモデルの作成から動画の編集にいたるまですべて1人でやってますね、あの人はそういうことをします」


 おかきが再生している動画の中では、アニメを切り抜いたような美麗な3Dモデルが画面内を激しく踊りながら、当時人気だったアニメソングを高らかに歌っていた。

 歌詞に合わせて表情や表現を変えるだけでなく、時には渋い男性の声、時には甲高い幼女の声など使い分けながら歌う様は、複数人の歌声を切り貼りしたものだと言われた方が納得できる。

 だがおかきは知っている、こんな人並外れた芸当を成し遂げられる人物をたった一人だけ。


「リンネちゃん、多くの企業動画配信者をぶっちぎりで置き去りにする人気を誇る個人勢。 かつての3Dモデルに革命を起こした破綻が起きないモデリングソフト”モルフェウス”の無料提供、独自の動画配信配信プラットフォーム“オルクス”()()()()()()A()I()“ノイマン”の開発……なんか経歴だけ読むと配信者というより技術屋ね」


「視聴者を楽しませるためならプログラミングでもイラストレーターでもなんでもやりますよ、あの人は《《魅せる》》ためならどんな手段も努力も惜しみません」


「すごい信頼ね、ちょっと妬けるわー」


「それでご主人、なぜこのリンネちゃんを最初の標的に選んだのだ?」


「標的と言い方は物騒ですね、まあ理由はこれですよ」


 スマホの表示をホーム画面に戻し、ニュースアプリを開いたおかきは画面いっぱいの記事を甘音とリュックの隙間から覗くタメィゴゥに向ける。

 そこには「リンネちゃん、突然の活動休止宣言!?」と大々的な文字が躍っていた。


「ほぼ毎日動画投稿・配信を続けていたリンネちゃんが3日ほど前に突然の休止宣言、理由は多く語らずSNSなどの投稿もぱったり停止……へえ、こんな事件あったんだ」


「学園内だと外のニュースに疎くなりますからね、私も当たりを付けて調べなければ知りませんでした」


「つまりこのニュースを見て異常事態と判断、優先して接触を図るってことね。 でもどうやって場所を突き止めたの?」


「これだけ人気の配信者だと厄介……失敬、熱心なリスナーがリンネちゃんさんの活動拠点を特定しようと奮闘しています。 配信中に聞こえた電車や救急車の音、天気の話題などから最近はこの近辺に住んでいると絞られたそうです」


「こわ……」


「うむ、人間の執念とは恐ろしいものだな」


「あまり褒められた行いではないですが、おかげで私たちは助かっているのでよしとしましょう。 あとは足で探し回るだけです」


「根気と体力勝負ってわけね、それならそこのコンビニでちょっと休憩しましょうよ」


 甘音が示したのは、都会では5分も歩けばどこにでも見当たるようなコンビニエンスストアだ。

 しかしこの街ではなかなかのレアエンカウント、この機会を逃せば次のコンビニと出会うのは数時間先になるかもしれない。


「そうですね、ついでに食料と飲み物も補給しましょう。 あと現金も少しおろして……」


――――――――…………

――――……

――…


「――――動くなテメェら!! 全員床に伏せてスマホを全部出せ!!」


「「……え、えぇ~……」」


 そして運悪く目についたコンビニに入店したおかきたちは、冒頭の場面へと戻るのだった。

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