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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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シーク・トゥルー・シーズ号殺人事件 -後日談- ②

「……ふむ」


 SICK地下基地、しんと静まり返った局長室に椅子がきしむ音が虚しく響く。

 無事にサンタ隠蔽作戦を成功させ、無事に基地まで戻ってきた麻里元は、卓上の報告書に随時目を通していた。

 そして今手に持っているのはおかきたちが携わったバベル文書回収任務について報告、その中に含まれる気になる一文が目に留まる。


「うへえぇえへへへぇへぇ……局長ぉ、無事に目撃者の記憶処理終わり……っておサボりですか?」


「飯酒盃、酔いすぎだぞ。 私が持っている報告書が目に入らないか?」


「ああすみません、残業お疲れ様です。 なにか気になる内容でもありました?」


「そうだな、一つ少しひっかったところがある」


 麻里元がペン先で示して見せたのは、報告書の終盤付近。

 そこにはおかきが甲板で子子子子を追い詰めた際のことが記されており、見事にブラックボックスとバベル文書を手に入れたとハッピーエンドで締められているのだが……


「えーと、“甲板上で藍上 おかきが何者かの存在を認識、しかし同現場に立ち会った稲倉 ウカは存在を感知できなかった”……これですか?」


「ああ、ただの気のせいならかまわないが、それで終わらないのがこの業界の常だ。 何か裏があるのではと疑っている」


「そうですね、感知能力なら常人の延長である藍上さんより稲倉さんの方が高いはずです。 ですが気づいたのは藍上さんだけ、と」


「バベル文書を狙う第三勢力が居合わせていたか、もしくはあえて藍上 おかきにだけ自分の姿を見せつけたのか……」


「見せつけたって、何のためにですか?」


「さあな、私は探偵ではないからさっぱりだ。 今度時間を取ろう、気になった以上は本人から聴取するほかあるまい」


――――――――…………

――――……

――…


「……うーん」


「なんやおかき、さっきから上の空やな」


「あれじゃない? 初めての生rグボベェッ!!!」


 不用意な発言を口にした忍愛の頭部にゲンコツが振り下ろされる鈍い音が教室に響く。

 仮にも神の膂力で殴りつけた威力は本来なら床が抜け落ちるほどだが、核シェルター級の防御力を持つ旧校舎はこの程度では揺るがない。 そして後方で起きるやかましい乱闘にもおかきは上の空だ。


「おごごごお腹が……ボクのキュートなフェイス&ヘッドが……! 大丈夫? まだちゃんとくっついてる……?」


「おう、残念ながら仕留め損ねたから安心しい」


「おいおい、たしかに頑丈な設計にはしたけどあんまり暴れないでくれよ? デリケートな代物も扱っているんだぜぃ」


『そうっすよ、あんまり人んちでドッタンバッタンしないでほしいっす』


 ウカと忍愛がいつもと変わらぬコントを繰り広げる中、迷惑そうな顔で教室に入ってきたのは何段にも重ねた段ボール箱を抱えた宮古野と、念動力でその手伝いをするユーコだった。

 箱には呪符のようなテープが何枚も貼り付けられ仰々しい雰囲気を醸し出している、その道に精通するウカも思わずぎょっと目を見開いたほどだ。


「キューちゃん、なんやそれ? 盗難防止にしてもちょっと物騒なもん仕掛けてるやん」


「ああこれ? SICKから預かった一時保管品だよ、どれも異常特性持ちの物品」


「えぇ……そんなの持ち込んでいいの?」


「なぁにどれもこれも低危険度のオブジェクトさ、今SICKの管理倉庫を改装中でね。 ちょっと整理手伝ってほしいなーって」


「ああ、それでうちら呼んだんやな。 まあ冬休み中はヒマしてるしええけど」


「えー、ボクは寮でゴロゴロしながらア〇プラでドラマ消化しようと……いやなんでもないです手伝います手伝わせてくださいパイセン拳おろして」


「まあ大した量じゃないから全員でかかればすぐ終わるよ。 おーい、おかきちゃんもこっち手伝って」


「えっ? あっ、はい今行きますー」


 ユーコと上の空だったおかきを含めて5人、異常現象にゆかりのある面子が段ボール箱の前に集まる。

 宮古野が慎重に呪符を剥がして蓋を開けると、中にはエアパッキンで包まれたガラクタが所狭しと詰め込まれていた。


「……センパイ、お先にどうぞ」


「なんでやねん、尻込みすんなや」


「だからそんな危険物は入ってないってば、例えばこの剣のキーホルダー」


『修学旅行のお土産で見かけそうなやつっすね』


「こいつでつむじを3回押されると3分後とてつもない腹痛に襲われる」


「「こえー!!」」


『逆に3分もラグあるのが恐怖を膨らませるっすね』


「これは転がすとランダムに1~100の出目を出力する3面ダイス」


「へー、なんやちょっと便利そうや……うん?」


「これは40枚×2の束にして2名のプレイヤーを用意すると無意識にカードゲームを始めてしまうプロ野球カード。 最長対戦時間は3カ月と5時間19分、なお対戦時のルールは詳しく解明されてない」


「キューさん、これは結構危険物では?」


 宮古野が説明をしながらたんたんと並べていくオブジェクトを、他4名が次々に教室脇の棚へ並べていく。

 ときおりウカが祝詞を唱えて封印してはさらに棚へ置き、5人がかりで繰り返していけば段ボール数個分の異常物品などすぐに片付いてしまった。


「やあやあ、あっという間だね。 みんなお疲れさん、こいつで最後だよ」


「これは……で、電話ですか?」


 宮古野からおかきへ手渡されたのは、ずしりと掌にのしかかる重みの電話だ。

 まるでバッグのように肩掛けベルトがくっついた受話器と台座がくっついた代物は、おかきが知る電話機とはかけ離れた形状だった。


「おお、ショルダーフォンやん。 いやなっつ」


『なんすかこれ、まさかこれ肩にかけて持ち歩けと?』


「そういう時代があったのさ、ついでに言うとこれはもうどこにも繋がらない」


「壊れているだけじゃないのそれ」


「いやいや、おいらが直々に修理したし現代スマホとも通話できるように調整済みだよ。 それでも繋がらないんだからこれは異常物品なのさ、名付けて鳴らずの電話」


「はぁ、そりゃまたみょうちきりんな……」


 あきれたおかきはただの重しでしかないショルダーフォンを下ろし、そのまま棚にしまい込もうとする。

 だがその瞬間――――鳴らないはずの受話器から、着信を知らせるベル音が響きだした。

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