シーク・トゥルー・シーズ号殺人事件 -後日談- ①
「はい、冷めないうちにどうぞ」
「……山田、なんやと思うこれ?」
「山田言うな。 まあ、見ての通りじゃない?」
「シチューですね、どうみても」
シーク・トゥルー・シーズ号爆破事件から数日後、無事に帰還を果たしたメンバーは学園旧校舎の秘密基地に集められていた。
そしておかきたちを集めた張本人である宮古野が全員の前にドンと突きだしたのは、ホカホカと白い湯気を立てる大きな寸胴鍋だ。
中身にはニンジン、ジャガイモ、タマネギなどの具材がゴロゴロ入った白いシチューで満たされている。
『おぉー、美味しそうっすね。 自分食べられないっすけど』
「なになに、船旅途中下車の詫び&慰労会ってこと?」
「それなら私たちは余計よね、場所だってSICKならもっとちゃんとした会場用意できるでしょ」
「ってか俺は魔女集会のボスなんだかここにいていいのか?」
「かまいませんよ、私がキューさんに許可をもらいましたから」
旧校舎の教室内にはあの船上を共にしたメンバーに加え、甘音、悪花、タメィゴゥ、ユーコたちが机を囲んでいた。
旧校舎住人のユーコと船に潜入していたタメィゴゥはともかく、おかきに招かれたほか2人は自分たちが呼ばれた理由に首をかしげている。
「で、このシチューはなんなん?」
「これね、バベル文書の中身」
「…………はい?」
「バベル文書の中身、AIに読み取らせて日本語に翻訳した内容がこれ。 美味しいシチューのレシピだったよ」
「へー、そうなんだ……そうなんだ???」
「ってことはうちら、シチューのためにあんな苦労したんか?」
「まあ、そういうことになるね。 なぜ紀元前にシチューのレシピがあるのかは知らないけど」
「「「はぁー……」」」
おかきたち3人は息を合わせたように脱力して机へ突っ伏す。
あるいは世界を一変させかねない代物と聞き、奔走した末に奪取したもの正体がシチューのレシピでは徒労感に全身の力も抜けるというものだ。
「まあまあ、文書の恐ろしいところは文字そのものと未解明の自殺誘発性質にあるんだ。 おいらたちの努力はきっと無駄じゃないよ」
「うむ、シチューもすごくおいしそうだぞご主人」
「食べていいですよタメィゴゥ……私はなんかもう、今までの疲れがドっと出てきました……」
「大変だったのねあんたたちも、私特製疲労回復ドリンクあるけどいる?」
「結構です……」
「まあ何事もなく無事に終わるのが一番さ、乗客全員生還とは行かなかったけど船も沈まなかったしね」
宮古野が船内の爆弾を解体した後、彼女はその足で船底の浸水個所を修復。
ついでにあり合わせの素材で出力の落ちたエンジンも代用し、シーク・トゥルー・シーズ号は無事に最寄りの港へたどり着くことができた。
パニックで怪我を負った乗客はそれなりにいたが、子子子子に唆された7名以外の死者は0。 秋茄子団の残党も確保し、SICKとしての成績はほぼ最良と呼んでもいいほどだ。
「というわけで祝おう労おう、人数分のお椀があるから今日はシチューパーティだ。 ごはんとパンも用意してあるぜぃ」
「結局慰労会になるんやな」
「はぁー、ボクはあの船で食べた高級料理が恋しいよ……ちょっとタッパーで持って帰った来たけどさ」
「貧乏くさいからやめなさいよ、今度私の行きつけ紹介するから」
「紹介されても絶対お高いところじゃーん、ボクの給料は全部推しのソシャゲに使っちゃったよ」
「いやどんだけつぎ込んでんねん。 ほらおかき、シチューよそうから器貸し」
「ありがとうございます。 悪花さん、器こっちに回してください」
「ん、ほらよ」
悪花からおかきへ、おかきからウカへとパスされた器にアツアツのシチューが注がれ、それがまた人から人へ回されて全員へと行き渡っていく。
ついでに教卓には箸を突き立てた一膳飯とシチューが供えられ、最後におかきが悪花と甘音の2人に配れば……
「はい甘音さん、熱いので気をつけて下さいね」
「ありがと、おかき……」
「ところで甘音さん、私たちに何か隠し事がありませんか?」
「………………」
差し出された器を受け取った瞬間、おかきから投げられた爆弾に甘音の動きが硬直する。
それは「隠し事があります」と自白しているようなものだ、当然そんなあからさまな動揺を見逃すほどおかきは不出来な探偵ではない。
「な、ナンノコトカシラー?」
「タメィゴゥがあの船のに乗り合わせていたんですよ、私は部屋に置いてきたはずなんですけどね。 本人は自力で食糧庫に忍び込んだと言っておりますが」
「いけね、俺ちょっと魔女集会のミーティングあるからそろそろ帰るわ……」
「ユーコさん、出入り口封鎖してください」
『うーっす』
「うおっ、開かねえ!? おい俺は関係ないだろ、出せ!!」
雲行きが怪しいと見た悪花はそそくさと退散しようとするが、すでに先手を打ったおかきによって教室の出入り口は硬く閉ざされている。
見た目こそボロボロの廃校舎だが、中身は天才宮古野 究が携わった秘密基地。 たとえ核が落ちてこようとも耐えられる設計をどうこうする力は悪花にはない。
「悪花さん、もう裏は取れているんですよ。 タメィゴゥの侵入経路は実に見事でした、まるで誰かが手引きしたかのように」
「俺とそこのタマゴに接点ほとんどねえだろ!?」
「直接的な接点は0ですね、ですが甘音さんとは2人ともとても仲が良いようで」
「の、ノーコメントである……」
「だめよタマゴ、それは敗北を認めてるようなものだわ! もっと言い訳なさい!」
「新人ちゃんって怒ると怖いよね、先輩とは別方向で」
「おうどういう意味や山田」
悪花と甘音が罠だと気づいた時にはもう遅い、教室はすでにおかき主催の尋問部屋となっていた。
薄々おかきの怒りに気づいていたSICKの面々は合掌、これから待ち受ける2人(+1匹)の冥福を祈る。
「全員正座です、今回は偶然状況が好転しましたが味を占められても困ります。 危険な真似は二度としないと、しっかり約束してもらいますからね!」
おかきは滅多に怒らないが、決して怒らせてはならない。
この場に居合わせた全員が、おかきに対する認識を改めたのだった。




