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藍上 おかきの受難 ~それではSANチェックです~  作者: 赤しゃり


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シーク・トゥルー・シーズ号殺人事件 -爆発編- ④

「……ん、オッケィ。 じゃあそういうことで、すぐに行くよ」


「山田っちー! のんきに電話してないで助けておくれよ、おいらの背丈じゃ民衆に飲み込まれちまうよ!」


「ごめん、頑張って一人で解決して! ちょっと新人ちゃんに呼ばれたから行ってくるからあとよろしく!」


「えぇー!? おいら過労死で死んじゃうぜそんなの!」


 宮古野の悲痛な制止も聞かず、通話を終えた忍愛は叩き割った窓から身を乗り出して姿を消す。

 一人残された宮古野はパニックを起こした乗客の波に抗うだけで精いっぱいだ。

 正確に言えば《《もう一人》》いるのだが、次にいつ爆発するかもわからない爆弾から逃げようとする乗客に紛れてしまい、宮古野とはぐれてしまった。


   「やだやだやだ!! こんなところで死にたくない!!」


 「おい押すな、子供がいるんだぞ!!」

                       「どけ、金ならやる!!」

           「おかーさーん!」


「くっそー、おいら一人でどうにかなると思ってるなら過信しすぎだぜおかきちゃん! でもどうにかしないとこれはまずいな……」


「――――Show Must Go On! 道行く紳士淑女の皆様方、どうぞご覧あれ!!」


 怒号にも似た喧騒に宮古野が飲まれかけたその時、すべての雑音を高らかな声が切り裂いた。

 一瞬だけパニックを忘れた人々の視線が集まる中、行儀悪くもテーブルの上に仁王立つのはウカ《《の姿をした協力者》》。

 衣装とウィッグをひとまとめに脱ぎ捨て、その下から正体を現したのは値千金の花役者、宝華ロスコその人だ。 


「失礼、今のは我が父が用意した特殊音響さ! リアルな揺れと衝撃はご堪能いただけたかな!!」


「ろ、ロスコっち!? 何やってんだあんなところで……」


「父の悪い癖でいてもたってもいられなく突発撮影を開始した! これより爆弾解除のシーンを撮る、どうか皆様にも協力してほしい!!」


 卓上のロスコはどこまでも通る芯の強い声で詭弁を振るう。

 そのあまりにも堂々とした振る舞いは恐慌状態でもあろうとも、人々に嘘を真実と思わせる力があった。

 少しでも本人に怯えや戸惑いがあればこうはいかない、この場において役者としての彼女は間違いなく“本物”だった。


「安心してほしい、私の友人は皆すばらしい才覚を持っている。 というわけで、エスコートは任せてくれるかな、宮古野女史?」


「……いやあ、その言葉そっくり返しちゃうぜロスコっち。 あんた最高だよ」


――――――――…………

――――……

――…


「初弾、効果あり! しかし船底へのダメージは軽微です!」


「よし、5分後にNo.2を起爆する! 念のため全員衝撃に備えろ!」


「了解!」


 狭い庫内の中、黒服を着たリーダー格の男がイタリア語で部下たちに指示を飛ばす。

 彼らは群青の秋茄子団、シーク・トゥルー・シーズ号に眠るバベル文書を狙う危険分子の1つだ。


「設置したのは残り4発か……ずいぶんな出費だが、まあいい」


 彼らがバベル文書を狙う理由はただ一つ、「金になる」という点ただ一つ。

 秋茄子団にとってはただの不気味な紙切れに過ぎないが、文書を欲するもの好きな連中はごまんといる。

 今回損失した人材や調達した爆薬や経費もろもろがバカらしくなる額の金が動く、秋茄子団が異常物品に手を出すにはそれだけの理由があればいい。


 何よりもただ金と組織のために動く、だからこそ彼らはSICKから危険団体と認定されているのだ。 どんな虎の尾を踏んでも懲りずに湧いてくるアリのような存在だと。


「……リーダー、報告があります」


「なんだ、トラブルか? 言ってみろ」


「浮いてます」


「……? 何のことだ?」


「浮いてます、この船が。 《《我々が乗っている潜水艇がどんどん浮上していきます》》!」


「…………は?」


 操縦手が示すモニターには、海面までの距離を測るメーターが忙しなく数値を動かす様子が映っている。

 遅れて異常に気づいたようになり出すブザーの数々、あれほど順調に事が運んでいた船内は一変して混乱に包まれた。


「なるほどねえ、船を沈めてブラックボックスを回収するならそりゃ自分たちは避難してるか。 沈没に巻き込まれないギリギリの距離で待てば勝手に向こうから飛び込んでくるもの」


「っ……! 誰だ!? あのイカれた教会の犬か!? どこにいる!!」


「悪いけどボク外国語よくわかんないから日本語で話してくれない? ……えっ、通信機に翻訳機能ある? もー先に言ってよ新人ちゃん」


 何者かの声と足音は潜水艇の外から聞こえてくる

 浮上中とはいえまだ水面から100mは距離がある、とてもじゃないが人間が生身で生きていける場所ではない。


「あーあー。 テステス、聞こえてなくても一回しか言わないからちゃんと聞いてねー」


「ひっ……ば、化け物……」


「海の藻屑になるか、爆弾の場所教えるか答えてね。 今すぐ起爆しようとは思うなよ、テメェの指がボタンを押すよりボクとパイセンがこのチンケな船潰す方が早いからさ」


 潜水艇の外からクナイを使って窓をノックしたのは、潜水服も着ていないたった一人の少女だ。

 その特徴的なピンク色の髪が海中に広がる様子は、彼らにとって悪魔のように見えたことだろう。


 戦意を喪失して投降した彼らが設置場所を吐き、宮古野が迅速にすべての爆弾を解除したのはそれから30分後のことだった。

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