ダチョウ・オブ・ザ・ハイウェイ ②
「事の発端は2日前だ、SICK職員の1人が休憩中にそのニュースを見て違和感に気づいた」
「車を見たらダチョウだと疑っていかないとこの仕事は務まらないんですかね……」
「大丈夫だぜおかきちゃん、発見した職員は職務の一環として抗認識薬を摂取していた。 ダチョウの発見はただの幸運だよ」
「認識に抗わなきゃいけない仕事も疑問なんですが」
「なあによくあることさ、ちなみにこのおいら特製サングラスにもほぼ同じ効果がある。 どう、似合う?」
「ええ、とても」
おかきの返答は満足いくものだったのか、宮古野はダッシュボードから追加のサングラスを取り出しておかきへ手渡す。
窓の外を見てみれば、いつのまにか忍愛もサングラスを装備してどや顔だ。 仕方なくおかきも装着すると……
「……なにも変わりませんね」
「そりゃそうだ、ダチョウの誤認識を看破するだけの装備だからね。 それ以外はただのサングラスだよ」
「だがドライブ中はそれを装着し続けてもらうぞ。 市街地に合流し、高速道路に乗ればそこはもう奴の出現エリアだ」
「それは刺激的なドライブですね……ところで局長、いまさらですがスピード出しすぎでは?」
「むっ、そうか?」
前提として、赤室学園は山の中に建っている。 ならおかきたちを乗せた車は今どこを走っているのか。
答えはひとつ、ほぼ獣道同然の斜面を猛スピードで駆け下りていた。
立ちふさがる木々は先行する忍愛が手持ちのクナイで切り払っているが、路面コンディションはほぼ最悪。 細かい凹凸や石を踏んでは車体がたがた揺れる絶叫アトラクションと化していた。
「いやー、それでも一周回って悲鳴すら出ないものですね。 この程度じゃ驚かなくなりました」
「染まって来たねおかきちゃん、いいことだ。 ポテチ食べる?」
「コンソメですね、いただきます」
――――――――…………
――――……
――…
「ふむ……なかなか手ごわいな、少し休息を取ろう」
「あぁーい、トイレ行ってきまーす。 女子らしく一緒に行こうぜ2人とも」
「なんで女子って全員揃ってトイレに行くんですかね、あれ」
「あっ、ボクあのジェラート気になる。 後で食べたい」
高速道路を走り続けて早2時間、おかきたちは給油のためにサービスエリアへと立ち寄った。
煽り運転の目撃報告から該当する地点をしばらく周回していたが、収穫はゼロ。 車両に扮したダチョウの姿は一匹も見つけられていない。
「しっかしなんでダチョウが車に扮して煽り運転しているんですかね……」
「その理由と原因を調査するのもおいらたちの仕事さ、今回に限っては多少の予想はついているけどね」
「ほう、詳しく聞きたいですね」
「認識のフィルターを外して詳しく調べたところ、どうもダチョウ君の動きは求愛行動に見える。 もしかしたら番を探しているのかもしれない」
「……車相手に?」
「車相手に。 おいらたちがダチョウを車と誤認しているように、ダチョウも車を仲間と誤認してるのかもね」
「とくにスポーツカーに発情することが多いらしいからさー、局長もわざわざ自分の車引っ張り出してきたんだよ。 新人ちゃんもジェラート食べる?」
「いただきます。 おお、あんこジェラート」
カフカを発症してから甘党となったおかきは、嬉々としてつぶあんが乗ったジェラートを受け取る。
気づけば朝の不調はどこへやら、食欲すら回復してコンディションも絶好調だ。
「うん、ダチョウの衝撃はおかきちゃんにはいい刺激だったようだ。 これで収穫がなくてもおいらとしては上々だよ」
「なんだか複雑ですね、ダチョウで体調が回復するの」
「新人ちゃん、そんなことばかり気にしてたらこの世界じゃやっていけないぞ」
「おい、そろそろ休憩は終わりだ。 はやく戻ってこい」
「「「はーい」」」
トイレ休憩と給油を済ませたカフカ3名は仲良く返事を返し、麻里元が待つ車へと集まる。
しかしただでさえ目立つスポーツカー、おまけに運転手も赤髪でモデル並みのプロポーションを持つ美人と来ている。
車の周りにはちらほらと野次馬が集まり、その中には改造単車を乗り回すガラの悪い男たちも何名か混ざっていた。
「うわー、ちょっと目を離しただけでこれだよ。 すごいねうちの局長さん」
「参ったね、あの中に可愛いボクがまざったらナンパは不可避じゃない?」
「悪目立ちするのは避けたいですね、すでに手遅れな感じもしますが」
『ブフブフォー』
「「「……うん?」」」
エンジンの駆動音に似た、しかしどこか有機的な“声”に3人が振り返る。
ここはサービスエリア、当然だが駐車場には車が並んでいるわけだが……その中に1体、やけに背丈のある異物が混ざっている。
サングラスを外せばただの茶色い車両にしか見えないそれは、誰がどう見てもあからさまにダチョウなのだ。
『ブフォフォフォフォー』
「……い、いたァ!! うおー、よかったちゃんと機能してるよおいらのグラサン!」
「待った待った、逃げますよあれ! 局長、早く車出してください!」
「少し待て、性質の悪いチンピラに囲まれてる。 掃除に1分だけ時間をくれ」
「ボク先に追いかけてくるから! もし誰かに見つかっちゃったら後処理よろしくー!」
逃げ出したダチョウを前に、まず忍愛が走り出してその背を追いかける。
おかきと宮古野は車に乗り込み、シートベルトを締める間にも1体と1人の姿はあっという間に駐車場から姿を消していた。
「待たせたな、ダチョウはどちらへ逃げた?」
「うわあ死屍累々。 ここでて左に曲がっていったよ」
「わかった、では少し本気出していくぞ――――舌を噛むなよ」
「えっ、ちょ、待っ――――」
おかきがベルトの装着にもたついている間にも、麻里元はためらわずアクセルを踏みしめる。
その瞬間、山道を駆け下るよりもはるかに刺激的な地獄のドライブが始まった。




