神のみぞ知る舞台裏 ④
『――――えー、それでは赤室学園祭今年度の優勝店はー……西B-1区の未来屋機構店です!!』
「「「「「うわー! 負けたぁー!!」」」」」
学園祭最終日、最終集計を終えた放送が学園内に流れ出と、カフェ内の学生たちが崩れ落ちる。
5日間の経営を終えたおかきたちの売り上げは惜しくも3位、残念ながら優勝に手が届くことはなかった。
「くっそー! 届かない差じゃなかったわ、あともう少し詰められれば……!」
「すみません、最後2日はシフトにも入れず……」
「いやおかきは十分ようやってくれたわ、むしろ下駄履かせてもらったうちらが不甲斐ないなこの結果は」
ウカはしょぼくれるおかきの肩を抱いて慰める。
立地が悪いこのカフェに客を招く呼び水となったのは、来店したWebライターの腕とおかきの写真が要因だ。
むしろおかきがいたからこそ、ここまでの売り上げで善戦できたともいえる。
「まあ悔しいけど仕方ないわ、来年また頑張りましょう。 けど未来屋機構店ってなに?」
「たしかキューちゃんところのクラスやろ? 名前からしてメカニックな店っぽいけど」
「私も気になって少し立ち寄ってみたところ、こんなものを売ってました」
おかきは懐から手のひらサイズの杖を取り出すと、その根元に取り付けられたスイッチを押し込む。
するときらびやかな音楽が鳴り響き、飾りっけのない杖は一瞬にしてピンクピンクしいファンシーな見た目へと変貌した。
「ポリピュアDX変身警棒、空間投影技術を用いて衣装変化や必殺技のエフェクトも再現できるそうです」
「キューちゃん何してんねん」
「これでも現代科学技術で再現できる範疇らしいですよ」
「版権元の許可取ってるのこれ?」
「ちなみに仮面アクター……によく似たオリジナル機構の変身ベルトも販売してました」
「そっちは許可取れなかったのね」
「そら売れるわな、男の子大好きやろ」
浪漫はもちろんだが、キューが発明した学生でも組み立てられる最新技術の塊は幅広く需要の高い代物だった。
ゆえに法が許すギリギリまで効率化された生産ラインはほぼフル稼働し、在庫も残さず完売する結果となった。
ちなみにおかきもちゃっかりベルトは1本確保していたりする。
「すごいですよこれ、全身の動きをセンサーで感知してオリジナルの変身シークエンスを設定できるんです」
「へーすっご、発光めっちゃ綺麗やん……うおっ、こんなところまで動くんか」
「わかんないわねー男の子心は……ってそろそろキャンプファイアーの時間よ、全員撤収準備ー!」
「「「「「はーい!!」」」」」
甘音が号令をかけると、思い思いの方法で嘆いていた同級生たちが一斉に動き出す。
そのままカフェの清掃とレジ金の回収を素早く終えると、手荷物をまとめたものから次々に旧校舎を飛び出していった。
「キャンプファイヤー?」
「後夜祭のお決まりよ、みんなで集まって売れ残った商品や食料を持ち寄って好き勝手やるの。 今日だけは消灯時間を超えて夜更かしも許されるわ」
「へえ、楽しそうですね」
「ちなみにこの後夜祭で告白すると結ばれやすいジンクスもあるわ」
「おかきさん、僕と一緒に後夜祭に行きましょう!!」
「藍上、俺とともに売れ残りの焼きそば食おうぜ!!」
「ウカの姐御、俺が焼いた油揚げ食べちゃくれませんか!!」
「ええい散れ散れ、うちらはうちらで忙しいねん。 あと焼きそばは刻んで油揚げに包んで一瞬だけ炭火で炙ってみ」
「「「くそっ、旨そうだ……!」」」
恋愛成就の伝説に浮かされた男子生徒たちはウカに一蹴され、腹を鳴らしながらすごすごと撤退した。
よく見れば彼らのほかにも、校舎の外にはおかきたちの出待ちをする生徒がちらほら待っている。
「狙われてるわねー、おかき。 一応聞くけど気になる男子とかいる?」
「今のところその予定は爪の先ほどもありませんね」
「まあ元同性にモテたところでな、うちらが前張るからおかきははぐれんように気をつけとき」
「おらおらー、退きなさい男子共! もしくは全員採血させなさい、10Lほどで勘弁してやるわ!」
「「「「「確実な死!」」」」」
甘音が注射器(型の水あめ菓子玩具)を振り回すと、隠れていた男子たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
これには草葉の陰でおかきたちを見守っているSICKエージェントたちも苦笑いだ。
「おかき、今夜は寝かさないわよ。 後夜祭の楽しみ方を骨の髄まで教え込むわ!」
「それは楽しみですね、ぜひともお願いします」
夕暮れる空の下、甘音に手を引かれながらおかきは走る。
球技大会、学園祭、そしてキャンプファイヤー、カフカがなければどれも経験することができなかったものだ。
そう考えればこの病気も悪いことばかりではないのかもしれないと、少しバチが当たりそうなことを考えておかきはほほ笑んだ。
――――――――…………
――――……
――…
「うぎゅうぅうぅ……おのれカフカ……」
「おかきー、この前借りたノート返しに来た……いや何があったん?」
なお、その後バチはしっかり当たった。
無事に学園祭を終えてからおよそ1週間後、おかきは寮の自室でとろけているところをウカによって発見された。
「どないしたおかき、季節外れの5月病か?」
「ウカさん……いや、どうにも体調がすぐれなくて……」
「赤飯が必要な案件か?」
「違いますよ。 ……あれ、もしかして“それ”って私にも来るんですか?」
「うちは経験ないからよう分からんなあ。 けどそれなら変なものでも食ったか?」
「いや、ここ最近はとくに変なことは何も……」
おかきは鉛のように重い身体を動かして首を左右に振る。
体温は平熱、食事も3食きっちり健康的に摂取している。 特に体調が悪化するような心あたりはなかった。
はじめはウカが疑ったように赤飯案件も考えたが、特に血を見るような事態でもないことは確認済みだ。
「なので理由は一切不明ですが、とにかく怠いんです……たぶん私たちの体質に起因する何かだと思うんですけど」
「ああ、それなら簡単や。 そうかそうか、思えば最近平和やったからな」
「えっ、わかるんですかウカさん」
「うちがどれだけカフカやっとると思ってんねん。 そいつはなァ、うちら特有の“平和ボケ”みたいなもんや」
「…………へっ?」




