10-1
今日は久しぶりのお天気になった。連日吹雪になり、なかなか外に出る気力が湧かなかったか、今日は吹雪だろうと雷が鳴ろうと外出することが決まっていた。
ハインリヒ様のお誕生日だからである。
去年のお誕生日は、サプライズと称して朝イチでクラッカーを鳴らしプレゼントを渡したが、まあまあ冷たい目で見られ、上部だけの謝意を返された。あの時は1日ハインリヒ様のためになんでもやります!と息込んだにも関わらず、早く教本を覚えろと言われ、私は構築式の書き取りをして終了した。
昨年と同じ轍を踏まないように、今年は事前に何が欲しいか、何がやりたいかを伺っているのだ。
「よし、メイク完了!どうですか、アンナさん!」
「うん。上手になったよね、ティアナちゃん。私はピエロメイクも好きだったけど」
アンナさんが言っているのは、かつてユニコーンの角を採りにいった際に施した、皆の爆笑を誘うメイクのことである。ちなみにユニコーンは私を見て歯茎剥き出して怒っていたが。
「アンナさんが用意くれた洋服可愛いですね。有り難うございます」
「選んだのは私とフォルカーさんだけど、全てハインリヒ様からティアナちゃんへの贈り物よ?」
「誕生日なのに貰わずに、逆にハインリヒ様は私に贈るの?何でですか?」
「そりゃあ、デートだからよ」
「デートってそんなもんですかね?新しい下着もありましたが」
「それは私の独断で一緒に買ったのよ」
「何でですか」
「デートだからよ」
「デートってそういうものなんですね」
ハインリヒ様からの誕生日のご要望は「一緒にデートしたい」であった。
とりあえず、屋敷の主人が誕生日に家をあけるとなると、家人達のお祝いスケジュールがずれてしまうかもしれないと考え、立ち話をしていたアンナさんとフォルカーさんにことの次第を伝えた。
途端に二人の顔色が変わり、バタバタと準備が始まった。さすが、ハインリヒ様。私みたいな下っ端の弟子ごときと外を出歩くだけでも服を新調するんだな、と考えていたのだが、まさか私の服まで用意してくださるとは。
「さあ、1日頑張るのよ、ティアナちゃん!」
「??遊びに行くだけですよ?」
家人に盛大に送り出され、私とハインリヒ様は城下町へと向かった。
馬車の中では、ハインリヒ様は当たり前のように隣に座り、ドアを閉めるや否やニコニコと笑い私の手を繋いだ。手のひらを重ねてお互いの甲に触れてきゅっと握ると、ご機嫌なハインリヒ様に私は笑顔で言った。
「いつもの制服も格好いいですが、今日のハインリヒ様は凄く素敵ですね」
「ティアナ······ああ、お前可愛いな」
ハインリヒ様は、今日のデートプランの為にカジュアルな服装をしてくださっていた。真っ白でふわふわのセーターを上品に着こなし、下はダークブラウンの上質な厚手のトラウザーズを、そして紺色のハーフコートをお召しになっていた。チラリと首もとから見えるユニコーンの角のネックレスだけが唯一魔術師である名残を感じさせていた。
一方の私は黒生地にグリーンチェックのかかったのワンピースに真っ黒なタイツを合わせていた。白い丸襟がついていて、確かに可愛い服で、頭には同じチェックのベレー帽が乗っかっていて、黒のポンチョをコート代わりに羽織っている。胸元には、ハインリヒ様とお揃いのユニコーンの角のネックレスが揺れていた。
コツンとおでこを合わせ、私の頬を撫でハインリヒ様は嬉しそうに微笑んだ。アイスブルーの髪が流れるように肩にかかり、そこにはダークブラウンのリボンが揺れている。
最近のハインリヒ様は年明けの狂人ぷりから一転し、春の陽気のように穏やかな人になった。屋敷でも魔術庁でもやたら笑顔を振り撒き、この異例の事態にファンからは桃色吐息が漏れていた。
レプラコーンの洞窟で、私がメソメソと泣きながら自分の気持ちを伝えて以降、飢えたように私に触れるのを止め、会話をしながら少し触れるに留まっていた。
以前のようにちゃんと剣の相手もしてくださるし、頼んではいないが教本の勉強も教えてくれる。ご自身の勉強や鍛練にも真面目に勤しんでいる。
私が夜な夜な夢に魘されているのを知ってる彼は、朝方になるとこっそりとハインリヒ様のベッドに潜り込んでパジャマの匂いを嗅ぐ私をそっと抱き締め、頭をただ優しく撫でてくれていた。
そんな穏やかなハインリヒ様の願いを叶えるべく、私は事前にプランを練ったのだ。
「本当に平民のデートで大丈夫ですか?あまり礼儀正しい場所には行きませんよ?」
「俺はただの平民だよ。ティアナとおんなじ」
「ハインリヒ様がそれで良いのであれば······じゃあ、早速行きましょうか」
馬車を降りると、ハインリヒ様と手を繋いで予定していた公立公園に入った。




