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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第1章 師匠と弟子
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1-9



 魔術庁に登庁するなり、私はすぐに弟子会へ行った。今日はララが来ていない。私は話しかけられそうな人がいないか探すと、ちょうどいい獲物を発見した。


「レナルド!」


 いつもは向こうから突っかかって来るが、今日は私が彼の腕をむんずと掴んだ。


「な······!何触ってんだよ、ばかティアナ!」


 レナルドは頬を赤らめて怒り、私はパッと手を離した。


「え?ああ、ごめん。ちょっと聞きたいんだけど」

「な、なんだよ」


 私達は部屋の隅に移動し、小声でボソボソと話し始めた。


「国境前の西の森の噂とかなんか聞かない?」

「西の森?さあ······仕事絡み?」

「うん。魔物がさ、従来の弱点を克服してた」

「克服······どんな風に?」

「昨日ね、ハインリヒ様と緊急案件で行ったんだけど、テリズって魔物がさ、火が弱点のはずが耐性つけててしかも変な粘液飛ばしてきて大変だったんだ」

「大丈夫だったのか?」

「ハインリヒ様が対処してくれたから」


 レナルドは珍しく私の心配をしてくれたようだ。じっと私の顔を見たあと、少し考え込んでいた。


「ティアナ、あのさ。西の森じゃないんだけどさ」

「うん」

「俺、この間師匠と一緒に北のほうにある山に魔物の対処にいったんだよ。その時も、同じように弱点を克服した魔物がいた」

「うそ?!いつ?なんの山?」

「······二週間前だよ。エスピリア地方のミナガ山ってとこ。そこにさ、昔っから住み着いてる魔物の一種なんだけど······待って」


 彼は自分の荷物からガサガサと『魔物大図鑑』を取り出し、ページを捲って付箋が貼られた箇所を指差した。


「コイツだ。『マクリーン』ってやつ。出たのはメスだと思うんだけど、弱点が火って書いているだろ?だからもちろん俺も師匠も火炎の魔法陣を使ったわけ」

「うん」


 視線を本に向けながら、なんだかばつが悪そうに彼は続けた。


「でもいくら火炎を浴びせても倒れないんだよ。俺、パニクって色んな属性の魔法陣を展開してとにかく攻撃したら、運悪く氷の魔法陣浴びせさせちゃって、魔物が逆に元気になっちゃて」

「魔物の属性の魔法陣だなんて餌あげるようなもんじゃない」

「わかってるよ!パニクってたんだ。······結局師匠が、銀の剣で力任せに殺してくれた。メスで良かったよ。オスだったらもっと大変だった」

「レナルドは怪我してない?大丈夫だったの?」

「······師匠が守ってくれた。怪我と言えば師匠にゲンコツ喰らったぐらいだ」


 レナルドの師匠サミュエル・プレーガー魔術師はハインリヒ様の同期の魔術師。お二方ともあの若さで魔術師国家試験を通過するくらい優秀な方々だ。


 魔物は銀の剣が苦手だから、どんなに魔術耐性が変わっても、銀の剣で刺せば確かに殺せるだろうが、相当力が必要だったはずだ。流石はサミュエル様である。


「サミュエル様は魔物について何か仰ってた?」

「帰ってからずっと調べてるみたいだけと、俺には何も」

「そっか······レナルドも大変だったね。話、聞かせてくれて有り難う!」


「ティアナ!」


 その場を離れようとして、今度はレナルドに腕を掴まれ、引き留められた。


「あのさ、お前んとこ······ヴァンゲンハイム家って古い家柄だし、弟子の取り方も特殊だって聞いたし、他とはなんとなく違うっていうのは分かってる。お前とヴァンゲンハイム様の関係も、もしかしたら普通の魔術師の師弟関係とは違うかもっていうのも、なんとなく理解はしている。だけど······」

「?」

「俺は、お前とは友達だ。だから何かあったら俺を頼れよ」

「······レナルド、私と友達だと思ってくれてたの?」

「当たり前だろ」

「そっか······嬉しいな。有り難う!私もレナルドと友達だよ!」

「無理すんじゃねーぞ!」

「有り難う!レナルドもね!」


 私は大きく手を振りながらその場を後にした。




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