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私達は手を繋いで歩き続けた。
ハインリヒ様には、洞窟の入り始めた時のような暗さはもう無かった。注意深く辺りを見つつ、しっかりと歩きだし、たまに私の方を振り返ると笑ってくれた。
手が温かい。胸もぽかぽかしている。相変わらず灯りは松明しかないけれど、私はちっとも怖くなくなった。
洞窟は、進めば進むほど分かれ道になっていた。道々に、怪しげな石が置いてあったり、レバーが設置してあったが、よく見ると石の回りに魔力がこびりついていて、レプラコーンの仕掛けたトラップであることが分かった。
「ティアナ、上だ!」
「わあああ?!」
ハインリヒ様の盾の魔法陣の発動のお陰で難を逃れたが、大きな鉄塊がドスンと突然落ちてきた。周囲を見ると、さっき私が手をついた岩場が怪しげな魔力がこびりついていているのが見えた。
「死ぬ!死んじゃう!」
「落ち着け!死なない!盾の魔法陣は発動出来るか?」
ハインリヒ様に言われて出した魔法陣から出たのは小指ほどの小さな盾だった。
「おい······盾の魔法陣を教えたのは1年前だよな」
「あの時はドングリ程の大きさでしたが、いまは小指程になりました!成長しましたよね?私!」
「してない!こんな石ころ並みの大きさでどうやって防ぐんだよ!」
「防ぐ········あ!」
私は息を吸って魔力を取り込むと、一気に体から放出した。
キラキラとした黄金色の魔力バリアが半円状に広がり私とハインリヒ様の周りで輝いていた。
「対物結界張りました!二人分しかないから小さいけど、これなら怖くないです!」
「·········凄········王都の結界魔法陣を思い出した」
「あっちは対魔結界ですよ。妖精の魔法だから魔物は弾くけど妖精達は通しちゃいます。これは対物結界だから、物体なら何でも弾きます。魔力の消費が激しいから、あんまり魔法使いはやらないそうです」
ハインリヒ様が何か言いかけたが、後ろから何やら賑やかな声が聞こえて振り替えると、色とりどりの帽子を被ったレプラコーン達が現れた。
「魔女だ!魔女だ!ウマソウな魔女が来た!」
「人間だ!人間だ!儂らの財宝を盗みに来たぞ!」
おじいちゃんみたいな顔の小人がワイワイと六人程現れ次から次にこっちに向かって話かけてくる。
「魔女!魔女!魔力をちょーだい!」
「魔女!魔女!すんごいうまそう!」
小さな体からおっさんみたいな声を出すレプラコーン達に私はいった。
「私の魔力が欲しいの?なら取引よ。あなた達の財宝を頂戴」
「うぬぬぬぬ!人間め!やはり財宝狙いだな!」
赤い帽子のレプラコーンは酷く怒っていたが、私は気にせず言った。
「財宝ならまた集めればいいけど、私の魔力は今を逃したらあげないわよ?美味しいんだよ~?ほうら」
これみよがしに指から魔力を少し出して、ユラユラと振ると、レプラコーン達は涎を垂らし、目をキラキラと輝かせて私の指を見ていた。
「全部は取らないで、魔女」
「少しだけなら分けてあげるから」
「だから魔力をちょうだい!」
「魔女の魔力ちょうだい!」
彼らの涎は凄すぎて、地面はべちゃべちゃになっていた。
くるりと振り向きハインリヒ様に状況を伝えると
「全部なんてそもそも運べない。レプラコーン達が穏便に渡してくれるというのならこんな有難いことはない。ティアナの魔力が大丈夫なら、それで取引してみてくれ」
とこの内容での取引を承諾してくれた。
「りょーかいです!師匠!」
ビシっと敬礼すると、私は結界魔法を解いてレプラコーン達に言った。
「じゃあ、幾つか財宝を頂戴。代わり私の魔力を吸わせてあげるから」
「いいよ!魔女」
「全部じゃないなら、いいよ!」
1人ずつ私の指をペロペロと舐めると、レプラコーン達はうっとりと私を見ながらしばらく恍惚としていたが、しわくちゃの顔で笑っていた。
「こっちに来て魔女」
促されて私はハインリヒ様を呼んで二人で移動した。レプラコーン達の後についていき、てくてくと歩き幾つかの分かれ道を辿り少し大きな部屋についた。
ハインリヒ様がホゥ······と息を漏らす音が聞こえた。
床から天井まで金銀財宝が埋め尽くしている。黄金のカップや王冠、宝石の数々、金貨の山々がまばゆい光を放っている。
「凄すぎて笑えてくるな、ハハ」
ハインリヒ様はそう言ったが、私はブスっとしたままレプラコーン達を睨んだ。
「本物だけ出して。魔女にハリボテ見せて魔力を貰おうだなんて都合が良すぎない?」
レプラコーン達がアワアワと動き始めた。
「ふーん。私を騙すつもりだったのね。取引で私を騙したわね?」
「ティアナ?どういうことだ?」
会話の聞こえていないハインリヒ様は訝しげにレプラコーンを見た。




