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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第9章 レプラコーン
88/139

9-7

 


「わからないって何が······」


 ハインリヒ様は私に向き合ってくれた。いつぶりだろう。こうして真正面から見合ったのは。


 涙が止まらない。

 馬鹿みたい、こんなの。


「····っく。わ、私、ハインリヒ様がおかしくなってから、あなたが私に凄く近く接するようになって」

「······うん」

「気持ちが不安定なんだって、ずっと、何とかしなきゃって思ってたのに、何をしていいのかわからなくて」

「うん」


 ハインリヒ様が私の前にいる。

 ずっと離れて背中しか見えなかったのに、今歪む視界の間に彼の顔が以前のように近くにある。


 指で、私の涙を拭ってくれたのに、あとからあとからまた溢れて止まらない。


「それなに、何にも、私出来てないくせに······あなたに触れられる度に、嬉しくて、心臓が馬鹿みたいに早くなって······っ。何とかしなきゃいけないのに、自分もどんどんおかしくなって······」


「········っ」


「胸の奥は痛くて、いつも苦しくて。ハインリヒ様がおかしくなる度、私も何かおかしくて、いつも通りに振る舞おうとしてるのに、何でか出来なくて。何て言えばいいのかわかんなくて······私····」


「ティアナ」


 ハインリヒ様は、ポンポンと頭を軽く撫でると、長い腕を背中に回した。


 ハインリヒ様の匂い。私の大好きな匂い。


「·····っく。ごめんなさい。本当は何度もお部屋の近くまで行ったんです。でも······入っちゃいけない気がして」


「うん」


「ずっと考えてたんです。もしかしたら、ハインリヒ様がおかしくなったのは、私のせいかもしれない······!妖精が見えたみたいに、私の魔力のせいで、ハインリヒ様みたいな真面目で優しい人がおかしくなっちゃったのかもしれない。だから、あなたを遠ざけました······逃げてました······っ、ごめんなさい······!」


 ハインリヒ様が、微かに笑って私の目もとの涙を唇で吸い上げた。


「まぁ······確かにティアナのせいでおかしくなってはいるんだけどさ。考える方向がちょっと違うかなあ」

「ごめんなさい······私、もしかしたら変な魔法使ってしまったかもしれない······」

「俺が触れると、心臓が早くなるの?」

「はい·····私の魔力は昔からどこかおかしいんです!あなたを狂わせるつもりなんてなかったのに·······!」

「逃げたのは、魔力が原因だと思ったから?それだけ?全部話して。全部聞くから」


「··········恥ずかしかった」


 私は俯いた。いろんな感情がごちゃ混ぜでもう訳が分からない。


「ハインリヒ様はモテるから、ああいう事するのは日常茶飯事かもしれないけど、私は初めてで、凄くびっくりして······私······私、あんな風に触られたりしたことないから······あなたみたいに沢山の事知らないから」

「おい。俺をサミュエルと同格のように話すなよ」

「どうするのが正しいんですか······?私、あなたを魔力でおかしくさせているかもしれないに·····!」


 ぎゅうっと腕の力が強くなり、耳許にハインリヒ様の声が吐息と一緒にかかる。


「逃げないで·······。逃げられると辛いんだ。嫌じゃないなら受け止めて欲しい。でも怖いなら、ちゃんとそう言って欲しい。ティアナを傷つけたかった訳じゃないんだ。こんなに泣かせるつもりじゃなかったんだ。すまない······不安だったよな。これからはちゃんと言葉にしてお互い伝え合おう。俺だって初めてで、わからないことだらけなんだ。だから、二人で話そう。ちゃんと話そう?」


「······ひっく······はい」


 久しぶりのハインリヒ様の温かさに私もぎゅっと彼にしがみつきながら、また涙を零した。


「あのな、ティアナの魔力が影響して俺をおかしくした訳じゃないんだ」

「······本当·····ですか?」

「それに俺はティアナが言っていたような、特定の匂いや音で心を落ち着かせる体質って訳でもないんだ」

「え·······」

「俺は言葉が足りなかった。ちゃんとお前と話をするべきだったのに。衝動のままにお前に触れた。······これからはちゃんと自分の事を教える。だからティアナも俺にお前自身のことを教えてくれ。たくさん話したい。たくさんお前のことを知りたいから」

「······はい」


 少しだけ顔を離したハインリヒ様と目が合うと、いつもの優しい彼が居て、少し微笑(わら)ってからおでこをコツンと合わせた。


「良かった······もう、ティアナに嫌われてしまったのかと、落ち込んでいた」


 目を閉じたまま呟くハインリヒ様はホッと息をつく。長いアイスブルーの睫毛が雪のようにフワフワと揺れて私は嬉しくて微笑んだ。


「······私があなたを嫌うことなんてありませんよ」

「そうか······ずっと、ちゃんと話せなくてすまなかった。泣かせてごめんな······」

「これは······違います。鼻水です。鼻水が、あちこちから漏れました」

「ぷっ······どんな構造してるんだよ、お前。相変わらず変な奴だな。フフ、他にもおかしな特技あるのか?」

「······ハインリヒ様を手懐けるのが得意かもしれません」

「まったくだよ。こんなに感情を揺さぶられる奴、他にいないよ」


 おでこを合わせたまま、私たちは久しぶりにクスクスと笑いあった。



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