8-14
────······あれ、ここは何処だろう。
体が汗でベトベトだ。シャワーを浴びて来ないと。頭がぼーとする。
どっちだっけ。今の私はだれだっけ········。
むくりと体を起こすと、体が引っ張られていることに気づいた。神様と見紛う長髪美形が、私の手を掴んだまま、隣で寝息を立てている。
「········んん?」
何で隣に寝ているんだろうこの人は。アイスブルーの髪の天使か?いや、違う。これはハインリヒ様だ。というか、ここは何処だ。いつもの自室じゃない。
キョロキョロと辺りを見回してからスースーと気持ち良さそうに寝ているハインリヒ様の頭を撫でるとなんとなく思い出した。
ああ、温泉地に来ていたんだっけ。何だか遠い昔のことみたいだ。
確か、サミュエル様の部屋でみんなと年越しをしようとして······何でこの人とここにいるのか全くわからない。
近くのテーブルにあったコップの水差しから片手でなんとか水を入れて飲むと、何日も水分をとってなかったかのようにカラカラに乾いた喉が潤った。
とにかく起きなくては、とそっとハインリヒ様の手を外そうとした時だった。
「目が覚めたのか?」
うっすらと目を開けて、ハインリヒ様が問いかけてきた。
「······あの、私なんでここに?ハインリヒ様はどうしてここに?」
「ん。俺にも水をくれ······年越し前にサミュエルの部屋でお前寝てしまったんだ。部屋に連れてきて寝かせたけど、······凄く魘されてた」
同じコップに水を注いで渡すと彼は一気に飲み干してテーブルにコップを置いた。
「あ、すみません。煩かったですよね」
「いつもあんなに魘されてたのか。深夜、かなり辛そうだった」
グンッと引っ張られて、ベッドにひき倒されると、すぐに長い両腕が体を包んだ。
「辛かったよな。ずっと、気づかなくてごめん」
何でか分からないけど、ハインリヒ様は私に謝っていた。彼が悪いことなんて何一つ無いのに。
「あの、私汗凄いんですよ。かなりベタベタしてて」
「うん」
ハインリヒ様は目を閉じたままギュウっと腕の力が強めた。
「気持ち、落ち着いてるか?不安定になってないか?」
「え?」
「どっちが現実か分かるか?」
「······こっち。ハインリヒ様がいるから」
彼の髪に鼻をつけて、すうっと吸い込むとハインリヒ様の匂いがした。私の大好きな匂い。
「そうだ。こっちが現実だよ。俺がいるところがお前のいるところだ」
「いい匂い」
スンスンと何度も犬のように匂いを嗅いだ。首から耳の裏に鼻を近づけていたら、ハインリヒ様は目を開けて少し睨んでいた。
「······そういうことするから、俺を勘違いさせるんだよお前は」
「んー······?」
「······っ!ティアナ、だから····そこは····」
「ちょっと失礼」
勢いづいた私は、体勢を変えてハインリヒ様の上に乗り、彼が着ていたパジャマを上までたくしあげ、お腹から心臓まで手を這わせた。
トクトクと聞こえる心音が聞きたくて、耳を胸にぴったりとくっつけると、とても安心して、私はホウっと息を吐いた。
「うん······落ち着いてきた」
「おい······俺は火がついたんだけど。どうしてくれるんだ」
「火?」
気がつくとぐるんと体が反転し、見上げるとハインリヒ様が、私の上に馬乗りになっていた。
「ハインリヒ様?」
ゆっくりと私の肩に顔を埋めた彼は舌で舐め始めた。ピチャピチャと響く音に、急激に現実が襲って来て夢なんか何処かに行ってしまった。
「ティアナの汗は甘いな」
「嘘?!ヤダ!」
「全部舐めとってやるから」
「ヤダヤダ!舐めないでぇ!」
ゆっくりと丁寧に首筋を舐めとられて、ぱくりと耳を食まれると、舌でまた耳朶から耳殻まで彼の唾液でクチュリと音を立てる。
「ああん、やめてぇ!」
「ほんっとに······いつからそんなに女らしくなったんだよお前」
大きな手がパジャマの下に入り、下着ごと胸に触れられると、びくんと体が揺れた。
「······はぁ、柔らかいな、ティアナは」
「何やってるんですか!」
「もう少しだけ。何にもしないから」
「手止めて!やあ····っ!」
「ああ、いい声だ。もっと声聞きたいな。もう少しだけだから」
「やめ·····っ!ん····っ」
「声我慢しないで、聞かせろよ」
「ハインリヒ様のばかあ!ふ····っ····ああっ」
嬉しそうにぺろりと自分の唇を舐めた彼が体勢をずらした拍子にベッドから抜け出した。
「ううう!もう!ハインリヒ様触りすぎ!私はそんなに触ってないんだからー!!」
捨てずリフを吐いて私はシャワー室に逃げ込んだ。
◆◆◆
その後、私達は朝食を食べに6人で合流し、食後ホテル近くの商店街の売店をいくつか巡りお土産を買ったが、私はまたこっそりと雑貨屋をみつけてリボンを購入しているところを発見されララに笑われた。
そして楽しかった年末年始の旅行に終わりを告げ、また馬車で転移門まで移動し2泊3日の温泉旅行から私達は王都に戻った。
屋敷に戻ると私はすぐ執事のフォルカーさんやメイドのアンナさん達にお土産を渡し、年明けの挨拶をしてからまた荷物の準備を始めた。
明日から10日間は実家に戻る。
ハインリヒ様には、残りの休暇期間は新年の挨拶をしにしばらく実家に戻ることを事前に伝えてあったが、いつもなら快く送り出してくれる彼が、眉を下げて「寂しい」と漏らしギュウギュウと抱き締められた。それでも父母のところでゆっくりしてこいと、最後は送り出してくれた。
実家に帰る馬車の中から私は外を眺めながらため息をついた。
温泉旅行によりハインリヒ様の奇行の原因がはっきりとした訳だが、奇行をしている側だった頃は気づかなかったが、される側に回ると圧倒的に精神を消耗することがわかったのだ。
これからはなるべく自身の奇行を控えようと心に決め、私はパパとママの元に帰った。




