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早朝に目が覚めた私は朝からシャワー室へ行った。起きた時にはもうノエルはいなかった。
遠い記憶を夢にみてぼんやりとしていた意識が、シャワーを強く浴びたらはっきりしてきた。静かに目を閉じ、あの日の想いをお湯で流す。しばらくしてから流れるお湯を止めて、シャワー室を後にした。
◆◆◆
「何かわかりましたか?」
「まだだ」
ハインリヒ様は、ダイニングでブスッとして腕を組んでいた。執事さんが朝のコーヒーをお出しすると一口飲んでから軽く息を吐いた。
そんなハインリヒ様とは対称的に今日も私は陽気に鼻歌を唄い、食事を摂ろうとしない彼に、先に髪の手入れを行った。
「今日は深緑のリボンにしようっと」
「だからそれは何のイタズラなんだ?」
艶々の髪をリボンでくくった。ハインリヒ様は今日も絶好調に美しい。
ゆっくりとコーヒーを飲む彼は、今日はまだ新聞さえ読んでいない。じっとカップを見つめたままだ。
「今回の件······魔術公安はもう動いているようだ」
「ノエルにも探してもらいますか?」
「いや、昨日ごはん抜きで働かせて機嫌を損ねたからな······魔術庁で少し聞き込みする。お前、弟子会で探れるか?」
「はい、ハインリヒ様」
目の前の朝食に手をつけずにいるハインリヒ様に私は言った。
「朝食美味しいですよ?せっかく作ってもらったのに」
「······そういえばお前、なんでいつも先に朝食も夕食も一人で食べるんだよ。前にも言っただろう?一緒に食べればいいじゃないか」
「私はハインリヒ様の髪を整えるという崇高な使命を持っているので。それに色々準備もあるんです。だから食事は早めにとります」
「色々ってなに」
「どんなリボンにしようかな、とか」
「ティ~ア~ナ~」
ガシッと頭を掴まれた。
「いたたたた!だって、ハインリヒ様は一応屋敷では主人じゃないですか!」
「だからどうした!」
「私、ただの弟子ですから!」
「俺はただの弟子だなんて思ってない!理由はそれだけか?!」
「魔術師資格試験に落ちたら将来はここのメイドさんで雇ってもらいたいんです!だから魔術庁や外はともかく、屋敷では立場を弁えようと思って······いだだだだ!!」
「お前をメイドなんかにはしない!試験が駄目でもお前はこのまま俺の隣にいろ!」
「何で怒ってるんですか!!痛いです!!」
クスクスと笑うメイドさんの声が聞こえた。
「仲が良くてよろしゅう御座いますねハインリヒ様。そろそろお時間ですが」
と執事さんに促され、顔を赤らめたハインリヒ様が咳払いをした。
「いくぞ!ティアナ」
「ふぁい、ハインリヒしゃま······」
朝からぐちゃぐちゃの髪型のまま、私は体を引摺り馬車へ向かった。




