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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第8章 師匠の奇行
75/139

8ー8

 


 食事も終盤にさしかかり、師匠方のお酒もだいぶ進んだ頃、レナルドの発案で、お酒を飲んでいない弟子組はゲームコーナーに行くことになった。


 ゲームコーナーと言っても、カードゲームやボードゲームなどが出来る簡素な娯楽スペースであるが、遊びのつもりがつい熱が入り、三人とも本気になってゲームをした。


 結果、レナルドはカードゲームが激弱であることが判明し、負けた罰として、魔術庁にサミュエル様が買った靴下を3日連続で履いてくることが決まった。


 やたらテンションが上がってしまった私は、部屋に戻ると若干冷静になり、さっき大浴場の後シャワー室で髪も体も洗わず出てきてしまったことを思い出した。ハインリヒ様がくる前にと、部屋のシャワーで洗い、せっかくなのでサミュエル様の言っていた露天風呂というものに入ってみることにした。


 常備されていた露天風呂用の女性水着を来て入ると、空からは雪が降り始めていた。


「すごい······雪見の温泉だあ」


 身体は暖かいのに、顔は冷たかった。肩にあたる雪はすぐさま溶け、湯気は夜の闇夜に消えていく。


「綺麗だなあ······」


 うっとりと、空から降る雪を見ていたら、ガチャリと音がした。振り向くと、露天風呂用の水着を来たハインリヒ様が少し顔が赤いまま入ってきた。


「え?!!!」


 そのままザバンと湯に入ると、彼は直ぐに認識阻害と聴覚阻害の魔法陣を発動した。


「な、な、な····っ!」


「あー、気持ちいいな。やっとゆっくり浸かれる」


 そんな大きくない露天風呂に二人。ハインリヒ様は明らかに酔っぱらっていて、楽しそうに鼻歌を歌いながら真っ黒な空から降る雪を見ていた。


 とても驚いたが、せっかく温泉地に来たのに女に追い回され、ゆっくり浸かることも出来なかったのだからここは多めに見ておこう。


「······ハインリヒ様ったら。鼻歌なんか歌うの初めて見ました」


 くるりと彼に背を向けて、縁に腕をのせながら言った。


「歌っていたか?気付かなかったな」


 クスクスと笑いながら彼が首を傾げるのを顔だけ少し後ろに向けて見ていた。


「酔っぱらい、ですね」

「たまには許せ」

「フフ、いいですよ。普段のあなたは超がつく真面目ですから。······サミュエル様達とたくさんお話出来ましたか?」

「話したけど······」


 急に黙り込んで少し口を尖らせた。


「·····どうしました?また辛いことありましたか?」

「少し、体を貸せ」


 風呂の縁に頬杖をついて話をしていた私に後ろから覆い被さるように彼は寄りかかる。この台詞を聞いたのは久しぶりだ。


 普段溜め込んでいる辛さを吐きたいとき、ハインリヒ様は「体を貸せ」と言って私を近くに置いた。この言葉が出る時は、彼が辛くなっている時。やはり、何か問題を抱えているようだった。


「寂しかった」

「······何がですか?」

「ティアナが、先に行ってしまったから······」


 頭の中は疑問符でいっぱいになった。この人が何を言っているのか全く理解出来ない。


「四六時中一緒にいるでしょう?昼間も言ってましたね。何が寂しいのですか」

「お前、楽しそうに出て行った。俺を置いて」


 混乱した頭がさらに混乱し、唸りながら考えてみたが全く結論が出ない。


 子供がオモチャをとられたように、私が友人達に取られて悲しくなってしまったのだろうか、と無理矢理結論付けようとした時だった。


「ひゃん!!」


 一生懸命考えていたら、背筋に伝う物があって私は跳ねた。


 ビックリして振り向くと、ハインリヒ様が不思議そうな顔しながら私を見ていた。


「へ······?何······?」


「······うなじ、綺麗だな。ティアナ」


 指で首の後ろから背中を一直線に、長い指が辿る。


「やん······っ」


「······何だよ、そんな声出して······」


 また大きな手が触れ、ビクンと体が反応し、背が大きくしなった。


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