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「え、師弟ごとに分けたんですか?男女別ではなく?」
「そ。だから、ティアナちゃんはハインリヒと同室ね」
温泉地のホテルにチェックインするなり、サミュエル様に言い渡された部屋割りは二人一組、師弟同士の組み合わせだった。
「ここは、大部屋がないんだよ。全部屋が二人用になってる。ただ寝室は別になってるし、間にリビングもついているぞ」
「私は全く構いませんよ、ハインリヒ様は?」
「まあ、寝室が別なら······」
「大浴場は2階で俺たちの部屋は7階だ。ほれ、鍵。各部屋に露天風呂がついてるから、好きに楽しめ。ただし!飯は全員で食おうぜ!」
サミュエル様から注意事項だけ確認してとりあえず解散し、各部屋に一度荷解きに向かった。部屋につくと7階の部屋のリビングからは一面の雪景色が見えた。向こう側には山も見える。あれがレナルドが言っていたミナガ山だろうか。
「凄い······綺麗······」
「山も初めてか?」
「はい····!ハインリヒ様は山は初め······」
大きなベランダの窓から景色を見ていた私の背中に重なるようにハインリヒ様が体をくっつけていた。ライトグレーの上質なセーターに身を包んだ彼の腕は私の肩に回り、顔を私の頬に寄せて静かに言った。
「喜んでくれるなら、連れてきた甲斐があった」
「······ハインリヒ様?」
「馬車、離れていただろう。少し寂しくてな」
私は固まった。
寂しい?寂しいって言った?あのハインリヒ様が?
愚痴を言わないハインリヒ様が?
弱音をこぼさないハインリヒ様が??
「お酒飲んでます?」
「飲んでないさ」
「辛いこと、ありました?」
「無いよ」
すりすりと、私の頬に自分の頬を擦り付けた彼は、首を私の肩においた。
「と、とりあえず荷解きしましょうか。あとでララやレナルドと大浴場で待ち合わせしてるんです。一緒に行きませんか?」
「ああ、そうしようかな······でももう少しだけこのままでいてくれ」
ガラス越しに、彼がうっとりと微かに笑んでいるのが見えたが、笑う理由がわからず窓からしばらく雪景色を見ていた。
最近、ハインリヒ様の行動がおかしいのは気づいていた。しかも日がたつにつれて悪化している気がするのだ。
これはもしかして本人は言わないだけで、また一人悩んでいるのではなかろうか。
今日はサミュエル様やアルレット様がいらっしゃるから、夕食時には彼はきっとお酒を飲むだろう。
だから部屋に戻ってきたら聞いてみよう。一番の秘密を握りあっている私と彼の間ならきっと話してくれるだろう。
いつものようにお酒の力を借りて、身を寄せあって、二人で話してみよう。
願わくば、彼が悲しい思いをしていませんように。




