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サミュエル様のお誘いの後、年越しの温泉旅行をとても楽しみにしていた私だったが、時期が近づくにつれ魔術庁は馬鹿みたいに慌ただしくなった。
魔術庁の年越し休暇期間は15日間あるが、この休暇の前後は我先に対処を求める平民で魔術庁の受付はごったがいをする。勿論地方の受付支所からはひっきりなしに依頼書が来る。
休暇期間は、当番の魔術師が王都に残るが、よっぽどの緊急案件でない限り動いてもらえないからである。
よって、庁舎内はとにかく職員が忙しく走り回り、弟子達も駆り出され、呪いのブローチやら、幸福の女神像やらの胡散臭い物品をひたすら魂抜きしていった。例に漏れず私も呪いの絵画なるものの魂抜きをした。
魔術師達はこの時期ばかりは弟子とは別行動で、転移門からあちこちに飛び、ひたすら魔物の対処に追われる。
そんな多忙な時期を私は頑張った。
全ては休暇に行く温泉のため、全力で頑張ったのだ。
そしてついに私達は仕事納めとなり、翌日から2泊3日の温泉地への旅に行く日を迎えた。
私は朝からハイテンションで、ハインリヒ様の髪には桃色のリボンをつけると、鼻歌交じりにくるくると踊り、ハインリヒ様は嗜めることなく笑ってくれたのでさらに調子に乗ったら、屋敷を出発する頃にはさすがに怒られギリギリと頭を掴まれた。
そして一行は、転移門から近くの都市に飛び、そこから馬車で移動を行った。イリス程栄えていないこの温泉地は、最も近い転移門から馬車で一時間半はかかるため夏の旅以上に私達はお菓子を持ち込んだ。
「マティアスさんは今回は来ないのか?」
「死ぬ程残念がっていたんだけど、どうしても年末年始は親御さんのところに戻らないといけないんだって」
「残念だなぁ。はあ~。マティアスさん忙しそうだから、久しぶりに話をするの楽しみにしてたのに」
「うん。もうすぐ弟子会も卒業するからね。確かに準備に追われてる感じ」
マティアスさんと裏で推し活を続けていたレナルドがララからマティアスさんが来ないことを聞いて肩を落とした。
落ち込む友人を慰めるべきではあるのだが、彼を見ていたら慰めようと言う感情は1ミリも湧かず、私は冷静に口を開いた。
「······レナルド、突っ込んでいい?」
「突っ込まれる前に言う!師匠がこの旅のために特注した!これは俺が欲しがった訳じゃない!」
これ、とレナルドが言ったのは彼の被っている帽子のことである。レナルドの冬用の帽子はオレンジなのに、真っ白でもあり、七色でもあった。
「どういう作りかだけ聞いてもいいかな。気になりすぎて、全く無視出来ない」
ニヤニヤとレナルドに問うと、レナルドは顔を真っ赤にして半ばやけくそ気味に喋った。
「ああいいさ!オレンジ色の冬帽子に白狐の毛がアクセントを効かし、天頂に刺さっている5枚の羽は孔雀だ!優雅さを醸し出してるらしい!これで満足かよ!」
私とララは腹を抱えて笑いだした。
彼の師匠、サミュエル様の服装センスは常人のそれではない。弟子であるレナルドもまた、師匠の奇抜なセンスに巻き込まれ、幾度も素晴らしい衣服を纏ってくれたが、今日のは一際凄い。
「さすがサミュエル様。期待を裏切らないわよね」
「俺、資格試験合格まで普通の格好出来ないのかな」
「しなくていいよレナルド、ずっとそのままでいてよ、私達の楽しみのために」
笑いと期待と楽しさに包まれながら馬車は温泉地に進んでいった。




