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「ノエルー!助けて!」
声を上げた瞬間、リン······と鈴の音が聞こえ、体がフワリと宙に浮く。
「呼んだ?」
私は白いくしゃくしゃの髪の男の子に抱き抱えられたまま、二人でフワフワと地上2メートルぐらいを浮いていた。
「ノエル、ハインリヒ様に従ってくれる?」
「ティアナがそう言うならいいよ」
ノエルは無表情のまま私を見ていた。
「ハインリヒ様!いいですよ!」
地上で走っていたハインリヒ様が大声をあげる。
「ノエル、テリズの弱点が何故か克服されている!体内の進化状況を確認し、殺せ!」
ハインリヒ様が叫ぶとノエルはハインリヒ様とテリズの間に降り立った。
私はフワフワと宙を漂い、ハインリヒ様の体の上にドスンと落ちた。お尻の下から「ぐえっ」とカエルが潰れたような声が聞こえた。
「進化ねぇ······」
赤い眼を細めて顎に手を添えたノエルは魔物を見る。
「もう何もわからないか。弄られたな」
ノエルがほんの少し口角を上げた瞬間、魔物はパァン!と音をたて、流れる風とともに全て目の前から消えていた。カサカサと葉の擦れる音しか聞こえなくなった森は再び静かになった。
ノエルはくしゃくしゃの髪を軽く撫で上げ
「もういい?」
と聞いた。
「ノエルー、転移門慣れないから私達二人を王都の家まで連れてってほしいな」
「ティアナが言うならいいけど」
「ハインリヒ様ー♡」
満面の笑みでハインリヒ様を見たら、苦い顔をしたまま手を腰に当ててため息をつかれた。
「なんでティアナはいつも話を勝手に進めるんだよ。せめて一度聞くとかしてほしいんだけど」
「でもこっちの方がいいでしょ?」
「······はー、もう。説教は後だ。ノエル、王都まで俺とティアナの移動させて」
「いいよ」
ノエルは無表情のまま答えた。
瞬きをした瞬間にヴァンゲンハイム邸の私の部屋に三人でいた。
「ふぁ、疲れましたねーハインリヒ様」
「ああ、······ノエル」
ドサリと椅子に座りながらハインリヒ様は宙をみつめた。
「なに」
静かに立っていたノエルは私を見ていた。
「魔物が進化した原因はなんだ」
「······人間て変だよね」
「あ?」
「自分達で変えたのに、原因がわかんないの?」
「自分達って······あの魔物を変えたのは人間なのか?」
「アイツらの中になんか入ってた。入れたのは多分魔術師」
「入れた奴の特定は出来るか?」
「·······小腹がすいたんだけど。昨日も食べてない」
ジッと私を見たままのノエルに、ハインリヒ様は軽くため息をつく。
「ティアナ、今日はもう仕事終わりにしていいからノエルにごはんあげて。俺は魔術庁に戻らないと」
「わかりました。ノエル、おいで?」
「······にゃあ」
少年がいた場所には白猫がいた。
首輪の鈴を鳴らして白猫は私の腕の中に飛び込んでくると、私に体を擦り付けた。頭を軽く撫でたあと、喉をくすぐると赤い瞳を軽く細める。
私は自室のベッドにノエルを置いてから一緒に寝ころぶ。
「昨日、あげられなくてごめんね、たくさん食べていいよ」
「にゃあ」
静かに目を閉じると、私はそのまま意識を失った。




