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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第7章 ユニコーン
67/139

7ー9

 


 外出着のままであったが、場所をハインリヒ様の書斎に移した。執事のフォルカーさんが三人分の紅茶をセットし、部屋から退出すると、ハインリヒ様によってすぐに鍵の魔法陣、聴覚阻害の魔法陣を部屋に敷かれた。


「ユニコーンの角を取りに行った日のこと、ですよね?」


 先に口火を切ったのは私だった。


 アレクシス様は薄く笑ったまま頬杖をつき、ハインリヒ様は眉を下げたまま黙って私を見ていた。


「すまない。吐血までしたのに······あんまり思い出したくないだろうけど······」


 ハインリヒ様が慎重に言葉を選ぼうてしているのが分かった。私の吐血がなければすぐにでも聞き出しただろうに、彼は私の体調面だけじゃなくメンタル面が整うまで待ってくれたのだ。


「大丈夫です。これでも私、魔術師の弟子で、『贄の魔女』ですもん。平気ですよ」

「すまない······あの話は、魔術公安もそうだが、師匠にも伝えているんだ。あの黒髪の男、あれが誰かティアナは知っていたか?」

「魔術庁の事務官だったんですよね?言われてみれば確かに私もなんとなく見たことあるような······」

「あいつが言っていたこと、正確に思い出せるか?」

「正確に······ですか?うーん。じゃあ······ノエルにやってもらいます」


 呼び出すと同時に、リン······と鈴の音がして、くしゃくしゃの白い髪から赤い目を覗かせて彼は私の隣に立っていた。


「ノエル、あのね······」


  耳打ちすると、ノエルは首を傾げて聞き直す。


「覗いていいの?」

「ちょっとだけだから。ちょうどあの湖で黒髪の男と話した記憶だけ切り出して映せる?」

「いいよ。君が言うなら」


 ノエルは私の後ろに立ち、肩に顔を乗せて両腕で背後から私を抱き締めると目を閉じた。


「私と手を繋いで、目を閉じて頂けますか?」


 左手をアレクシス様に、右手をハインリヒ様に差しだし手を繋ぐと、私はゆっくりと目を閉じた。


 パッとあの日の黒髪の男の記憶が脳裏に写し出された。あの時聞いた木の葉の揺れる音も聞こえる。


「便利でしょう?いま、私の記憶をお二人に流してます。頭の記憶じゃなく、ノエルを介して魂の記憶から繋いでいるので正確なんです」

「凄いな。本物みたいだ。ティアナの視点か?」

「はい。私が感じた私の記憶です」


 映像の中の私が男を見て言った。

『あの、ユニコーンが近くにいるんです。危ないから逃げてくだ·····』

『······ハインリヒ・ヴァンゲンハイムの弟子だな』


『······誰?あの····』


 咳き込んで血が手元にビチャっと跳ね、ガクガクと震えながら立とうとする映像を見ていたら、あの時の苦しさが思い出されて、少し嫌だった。


『王家の血筋の魔術師······ならば弟子のお前も王家の者の可能性があるな』

『な·····っ』


 映像はそこまでて止め、写し出した黒髪の男は静止し、頭の中の映像は溶けるように消えた。


 目をゆっくり開け手を離すと、アレクシス様は私をじっと見つめた。


「会話はこれだけです」

「······なるほど。怪我をしていたのに、すまなかったな、ティアナ」


 アレクシス様が眉を下げて微笑んだ。


 ハインリヒ様は、あの時と同じようにまた辛そうな顔をしていた。傷は残ってないって言ったのに。ハインリヒ様は優しすぎるうえに心配性だ。


「大丈夫です。すぐにノエルを呼んだし、ユニコーンの角も舐めましたから。でも、ごめんなさい。私······焦って魔術で対応できなくて、すぐにノエル呼んじゃったんです······だから、見られてしまいました、ノエルを」

「ああ、それは今後対応しなくてはならないな」


 ちなみに、あの時ノエルが割ったユニコーンの角の欠片はハインリヒ様にネックレスにしてもらうことにした。二人でおんなじネックレス。お揃いなのが実はとても嬉しくて楽しみなのだ。


 あの黒髪の男のことは不安だが、何はともあれ無事に戻ってこれたし、ハインリヒ様に危害が無くて本当に良かった。しかも今回はユニコーンの角のプレゼント付き。ネックレスにしたら弟子会でみんなに自慢を······


「······あー!!」

「なんだ?どうした」

「思い出した!私、この人見てる!」

「どこでだ?」

「弟子会ですよ!この人いっつも荷物運んだり書類持ってきてたの!運搬の人なんだと思ってた!」

「荷物······?」

「うん。私ね、講義のあとしょっちゅう残されてたの。ぼやっとしてるとか、話聞いてないとか、ラクガキするなとか注意うけてて」

「おい、初耳だぞ」

「隠してたんですもん。ハインリヒ様に怒られるから。へへへ。······んで、残されてる時はもう他の弟子達はいなくて、その時に大体荷物持ってきてたのこの人」

「······荷物を受け取ってたのは誰だ」

「グラーツさんに決まってるじゃないですか。弟子会の講義は全部あの人がやってるんですから」



 ハインリヒ様とアレクシス様は沈黙のまま目を見合った。



「あれ?どうしました?」

「······お手柄だ、ティアナ······!」


 アレクシス様は私の手を再び掴み、ぐっと力強く握った。


「何がですか?」

「ハインリヒ、居残りは許してやれ。お陰で主犯に繋がった·······!」

「仕方ないですね」


 ハインリヒ様は笑いながら私を見ていた。


「内部犯だとは思っていたが、まさか弟子会とはね。ふふ。確かに庁内にいて、事務官とも魔術師とも近い距離にいながら、事務室にはほとんど誰も立ち入らない。絶好の隠れ蓑だ······!やっと蜥蜴の胴体を掴んだ。これから一気に事態が動くぞ」


 アレクシス様のイエローグリーンの瞳が細められ、口角は細く高く上がった。



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