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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第7章 ユニコーン
66/139

7ー8

 


 ユニコーンの対処も無事に終わり、週末の公休日になると、私は一人でアルレット様のお宅に伺った。ハインリヒ様はお客様が来るというので、同伴出来ず私一人となったが、アルレット様もララも温かく迎えてくれた。


 夕方、馬車でヴァンゲンハイム邸に戻るとハインリヒ様とリビングにいたのはアレクシス様だった。


「元気かい?ティアナ!」

「アレクシス様!お久し振りです!」


 両腕を広げて笑顔で挨拶をしてくださるアレクシス様を見つけた途端、嬉しくて私も万歳しながら駆け寄るとそのままぎゅっと抱擁してくださった。


「フフ、捕まえた。相変わらず元気で可愛らしいね君は」

「アレクシス様こそお元気そうで何よりで····ぐえっ」


 笑顔で挨拶を交わすと首根っこをぐいっと引っ張られた。


「師匠に飛び付かない。距離は保って」


 制止したのはハインリヒ様だった。


「いいじゃないか、ハインリヒ。私は一向に構わないぞ」

「駄目です」

「フフ、やっぱりお前もそうなったのか」

「?一体、何の話ですか」

「まあ、いいか。それよりティアナ、少し見ない間に美人になったじゃいか」

「アルレット様のお屋敷にお邪魔して、お化粧を学んで来ました。美人に見えるのですか?」

「ああ、とても魅力的で美しいよ、なあハインリヒ?」


 振り返ってハインリヒ様を見上げると、彼は息を止めて目を大きく開いた。


「······ティアナか?本当に?」

「本当にティアナですよ。美人に見えるのですか?化粧の力は凄いですね」


 アルレット様が私を屋敷に呼んだ理由はメイクの仕方を教えるためだった。


 魔術庁の正門で、ハインリヒ様のファンが私を馬鹿にして笑っていたのが酷く不快だったそうだ。私には近くに女性としての指南役がいないことを慮り、必要があればアルレット様かララを頼るように言ってくださった。本当にお優しい。


 今日はアルレット様のご実家の商社の傘下にある化粧品会社の基礎化粧品からメイク用品一式を取り揃え、王都百貨店で販売員を勤める社員の方がメイクアップのいろはを教えてくれた。


 勉強嫌いの私がやる気になったのはララの一言だった。


「基礎化粧は覚えればハインリヒ様のお肌のメンテナンスに使えるよ!メイクアップ技術は覚えると誰にでも使えるんだよ。ハインリヒ様のお顔、いじって見たくない?」


 私の脳が、雷に打たれた。

 ララは、私が髪の毛の手入れの仕方をハインリヒ様のために覚え色々とオイルや櫛等を自分で試して実験していることを知っていた。彼女の一言で、技術を覚えることを決意したのだ。


 時間はかかったが、バランスの良い眉を整え方、パックの仕方、ベースメイク、アイメイク、唇のパックから口紅の引き方まで頭に叩き込んだ。



「アルレット様にフルラインでお化粧道具いただいたんです。これ、王都百貨店に入ってるメーカーなので凄く高いと思うんですが、アルレット様は全部持って帰りなさいって仰ってて」


「あ····ああ。アルレットには、俺から後で····本当にティアナか?」

「む。ティアナですよ。魔法使ってみせましょうか。せっかくハインリヒ様のために覚えてきたのに」

「俺のために······?俺に見せる為に綺麗になろうと?」

「いえ、違います。これで、ハインリヒ様のお肌のメンテナンスが出来ます!任せて下さい。肌やメイクに関する教本も頂いたんです。自分で色々と実験したら、今度はメイクアップもハインリヒ様にさせて下さい!」


 私はガッツポーズをしながら目を輝かせる。


「は?何故俺が化粧を?」

「ハインリヒ様が美形だからですよ!私がきちんと技術を身につけた暁には、色んな変装(コスプレ)をして頂きたいのです」

「何故、俺がそんなことをする必要がある?」

「私が自慢するためです」


 ガッと頭をつかまれ、締め上げられる。

「ふぎゃっ!痛い痛い!ごめんなさいぃ!」


 パッとすぐに大きな手が離れた。おかしい。いつもはもっとギリギリと締め上げられるに。


「化粧は自分の為にしろ。なくなったら俺が買ってやるから」

「え、私なんかが化粧したところであんまり面白味は無いかと······」


 腕組みをして、眉間に皺を寄せたままハインリヒ様は小さく溢した。


「······綺麗だよ」



 あの美しいハインリヒ様が、こんなチンケな私に綺麗と言うなんて。何かの間違いじゃないだろうか。


 クスクスと笑い声が聞こえ横を見ると、アレクシス様が口元を隠しながら眉を下げて笑っていた。


「あのハインリヒにこんなことを言わせるなんて、さすがはティアナだ。恋の力のなんと偉大なことか」

「······?師匠?」

「フフ、楽しいお話はまた今度のお楽しみとしようか。ティアナ、僕は君に話があってね、君が戻るのを待っていたんだよ」




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