7-6
「······一人でやらせるんじゃなかった·····っ」
長い腕がぎゅうっと私の体を包んだ。
何事かと思い、慌てて話かけたが肩に顔を埋めたまま彼はしばらく動かなかった。
「ハインリヒ様、どうしたの?どっか痛いですか?」
ゆっくりと顔を上げたハインリヒ様の目が少し潤んだのが見える。白く長い指が私の頬に触れた。
「バカ······血塗れじゃないか」
彼の指先が微かに震えているのがわかった。
「平気ですよ。ノエルがユニコーンの角をなめさせてくれたから。多分もう傷は塞がって回復しています」
「口も、手も、こんなに······吐血したのか?痛みは?」
「無いですよ、元気です」
いつものように笑ったら、ハインリヒ様はまた泣きそうな顔で私を大きな手で抱き締めた。
「すまない······すまない、ティアナ」
「どうして、ハインリヒ様が謝るんですか」
ハインリヒ様は答えなかった。彼の忠告を無視して、一人でユニコーンに立ち向かったのは私なのに。彼はまた私の肩に顔を埋めたまま動かなくなってしまった。
フワリと石鹸とも花ともとれる匂いが鼻を掠める。
ああ、ハインリヒ様の匂いだ。私の大好きな匂い。
「言うこと聞かないでごめんなさい······」
「お願いだから、無茶はしないでくれ······」
ぎゅっと包まれる両手はとても温かかった。
「ティアナ」
ノエルはユニコーンの角の私が舐めた箇所を、石ころサイズに割り私に手渡す。
「しばらく持ってて。それから、お前も」
私より一回り小さなサイズにもう一度割ってから残りの長い角と一緒に、ハインリヒ様にポイと投げて渡してきた。
「ノエル、ハインリヒ様にも····有り難う!」
私はノエルにお礼を言った。あのノエルが私以外に配慮するなんて初めてではなかろうか。
「どういう風の吹きまわしだ······?」
「契約を守ってるだけ。お前を守りたい訳じゃない」
「?」
ハインリヒ様は割れた角をぎゅっと握り、ノエルに視線を戻した。
「なあ、ノエル。お前はティアナの生命の危機にはティアナが呼ばなくても強制的に助けるんだよな?」
「そうだよ」
「さっき、ユニコーンがティアナの腹に食らいついた時、あれは危機にはならなかったのか?吐血したのに」
「······お前にはわかんないよ。ティアナに本当の命の危険があれば、前段階で魂が揺らぐ。僕はそれを見逃さない」
「魂が揺らぐ?」
風で木の葉がサワサワと揺れ、ユニコーンがピクリと動いたのを見た。
「あ!そうだ!ハインリヒ様、この人!」
「え?なに······誰だ?コイツ······みたことあるな」
「知ってるんですか?この人、私にハインリヒ様が王家の血筋の魔術師だから、弟子の私も王家の者の可能性があるとか言って近づいてきて······」
「なんだと······?」
「王族だったの知ってるぐらいの仲の方ですか?」
「そんな訳あるか!サミュエル達ですら知らないに。こいつ、見たことある。魔術庁の事務官だ」
「ああ、確かにこんな人いた気が······もしかして『鈴蘭』の······?」
ユニコーンがムクリと起きて、パカパカと駆け出す音が聞こえた。
男も目元がピクリと動き出すのを見て私は言った。
「ハインリヒ様!こいつ、しばらく眠らせて!」
「ああ、わかった」
すぐさま魔法陣を展開すると、少し動き始めた男から寝息が聞こえ始めた。
「すぐに魔術公安にコイツを連れていかないと。ティアナ、体は本当に大丈夫か······?」
「もちろんですよ!早く戻りましょう!」
肩に黒髪の男を担ぐハインリヒ様と私は転移門を開いた。




