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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第7章 ユニコーン
61/139

7-3

 


 執務室に着くと、ハインリヒ様は深いため息をついた。


 私は少し驚いていた。彼は普段他人に対してあんな風に言葉を荒げない。


 ご友人のサミュエル様やアルレット様ならともかく普段は無視するような取り巻きにあんな風に怒る姿を初めて見た。



 落ち着いてもらおうと、すぐに紅茶の準備にとりかかり給湯室に向かうと、アルレット様がララとマティアスさんを引き連れて廊下を歩いて来た。


「おはようございます!アルレット様!マティアスさん!ララも!」


「······ティアナ?」


 ララが酷く困惑しながら私を呼んだ。


「まぁ、ティアナだったのね!庁舎の正門で、ハインリヒがピエロを連れてきたと噂になっていたのだけれど」

「ピエロ」


 思わず復唱してしまう。


「それ、自分で化粧したの?」


 ララは心配そうに聞いてきた。


「うん。今日は、ユニコーンを捕獲に行くから清らかな乙女を演じるつもりだったんだけど、まずかったかな」

「清らかどころか、ギラついた異星人みたいだよ」

「ララ、お止めなさい」


 アルレット様がピシャリと言うと、ララはそれ以上何も言わなかった。


「ティアナ、ユニコーンの捕獲に行くのは何時から?」

「ハインリヒ様が朝の事務を終えられたらすぐに向かいます」

「そう」


 アルレット様は濡れた赤い唇の両端を上げて微笑む。


「ティアナ、よければ今度我が家にいらっしゃいな。ララと休日に遊ぶのはイリス以来でしょう?美味しい茶菓子も用意するわ」

「ええっ?!宜しいんですか?!喜んで!」


 一も二も無く承諾した。アルレット様のお屋敷に行けるなんてこんな嬉しいことはない。


「ララ!お部屋見せてね!」

「うん。楽しみ~」

「あ」


 アルレット様のお家に伺うのに、友人関係にあるハインリヒ様の事前の承諾なしに答えてしまった。師匠でもある彼には一言さきに言うのが礼儀だろう。



「あの、アルレット様。ハインリヒ様に······」

「彼にはわたくしから連絡をするわ。後で執務室に伺うと伝えて。良ければ師弟二人でいらっしゃい。わたくしも楽しみだわ」

「わああ、本当ですか?私も楽しみです!」

「フフ。では、またね」


 カツカツとピンヒールを鳴らし、アルレット様は甘い香りを靡かせて歩いていった。



 朝の紅茶を飲みながら、ハインリヒ様はいつも通り執務をこなし、一時間もしないで二人で移動のために転移門のある別棟に向かった。


 国有地のサントリング湖付近一帯は、一般の人間が立ち入れないよう常に柵が立っている。


 この湖から森付近は、精霊や妖精が昔からいると言われ、またユニコーンなどの希少な魔物も存在するため、保全のために人間の出入りを少なくしているのだ。


 雇われている管理人が定期的に巡回をし、異変があれば魔術庁に報告をあげる。今回見つかった銀色のユニコーンも報告があがって判明したものだ。


「目撃されたのは湖付近ですよね」

「ああ、森の方も含め近辺を······と、いたぞ」


 噂のユニコーンは思いの外すぐに見つかった。


「では、予定通りやってみます」

「ああ」


 まずはゆっくりと、一人でユニコーンに近づいた。


 遠目に見ても銀色と言われた理由が分かる。魔力だ。銀色の魔力が白い体に纏わりついて、銀色の体毛に見えるのだ。


 だいぶ近くまで来るとキラキラと輝く体は、なるほど魔物というよりは確かに妖精のように美しいのがわかった。距離10メートルというところまで来ると、ユニコーンがピクリと耳を揺らし、顔をあげてじっと私を見た。


「ふひひ~!ユニコーンちゃぁん♡」


 持てる限りの演技力を総動員して、体をくねりながらユニコーンにアピールした。清らかな乙女像をこれでもかと演じ、ついでに投げキッスもしてみる。


「ブヒヒヒヒン!!」



 ユニコーンってこんな鳴き方するのか、と言う声が響き、歯茎丸出して私を睨んでいるように見えた。


 ちらりと後ろを見ると、ハインリヒ様は木陰で顔を手で覆って項垂れていた。



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