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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第7章 ユニコーン
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7ー2

 


 ユニコーンを対処しにいく朝、珍しく私は化粧を施した。ユニコーンは、清らかな乙女に引き寄せられるらしい。彼らは乙女の膝に顔を乗せて眠るのが大好きだと言われている。


 勿論最終的には魔力を餌にしての確保となるだろうが、私も10代の可憐な女子。まずは王道で、清らかな乙女として確保を試みてもいいだろうと思ったのだ。


 以前義務教育卒業と同時にママに買ってもらった化粧道具と、ララから貰ったお古の化粧品をガチャガチャと広げ鏡を前に、あまり無い技術で一生懸命乙女メイクを施した。



 ダイニングに『今日のお(ぐし)セット』を持参し、元気に挨拶すると、ハインリヒ様は硬直し、執事のフォルカーさんは顎が外れそうになり、メイドのアンナさんは腹を抱えて笑いだした。


「アンナさんは、何がそんなにおかしいの?」

「ティアナちゃん!勘弁してよ」


 涙を浮かべて笑うアンナさんに私は疑問を持ちながらも、いつもの通りハインリヒ様の髪に櫛を通すと、おもむろにハインリヒ様が口を開く。


「何の真似だ」

「何がですか」

「何故突然化粧を始めた」


 私は今日のユニコーン捕獲に向けて、清らかな乙女を意識している旨を伝えると彼はため息をついた。


 今日は可憐さをイメージし、ハインリヒ様にはクリーム色のリボンを結ぶ。

 サラサラと流れるアイスブルーの髪につけると、彼の方が清純な女性のようだった。


「化粧は、落としていった方がいいんじゃないか?」


 ちらりと私を見ながら新聞に目を通すハインリヒ様は呆れたように言葉を放つ。


「一回だけ、試させて下さい。もしかしたら私の膝でユニコーンが眠るかもしれませんし」

「怒って蹴り飛ばさなきゃいいけど」


 久しぶりにやる気が漲った状態で私は魔術庁に登庁した。


 馬車がゲートを潜り、ハインリヒ様が馬車から降りると相変わらず彼は女性達に囲まれた。黄色い歓声が庁舎入り口に聞こえたあと、私が馬車から降りると彼女達の顔が一瞬にしてひきつる。数秒後、広い玄関ホールいっぱいに笑い声が響いた。


「ちょっと!何あれ!アハハハハ!」

「信じられない、おっかしいわ!キャハハハハ!」

「ヴァンゲンハイム様のお隣にいるくせに。くすくす」


 何か面白いことでもあったのだろうか。彼女達はひたすら笑い続けた。中にはお腹を抱えている女性もいる。


 その場を離れようと足を進めようとしてハインリヒ様の足が止まっていることに気づいて、私は彼に声を掛けた。


「ハインリヒ様?行きましょうよ。どうし······」


「俺の弟子を笑わないで頂けますか」


 低く響く声が玄関ホールにこだまし、ピタリと女性陣の笑い声が止まった。


「まあ、······ハインリヒ様、私は、その」

「謝りますわ!ヴァンゲンハイム様、申し訳····」


「気分が悪い。行くぞ、ティアナ」


 眉間に皺を寄せ、ローファーの踵を鳴らし、足早に廊下を進む彼の後を小走りで追いかけた。



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