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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第1章 師匠と弟子
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1-6



「ヴァンゲンハイム様、緊急です。国境前西の森で魔物が出現致しました。ご対処願います」


 魔術庁の事務官がハインリヒ様の執務室に駆け込んで来たのは翌日のことだった。報告書を受け取り、彼はすぐに移動の準備にかかる。


「ティアナ、魔力は今どのぐらい?」

「夜の間に元に戻っちゃいました。満タンです」

「ついてこい」


 耳元にあるエンブレムキーのピアスのロックをかけると、ハインリヒ様はローブを靡かせ歩き出し、私は後を小走りで追いかけた。


「現地の民間人が複数人襲われた。魔術師がすでに三人派遣されているが返り討ちにされている」


 報告書を見ながらハインリヒ様は私に概要を聞かせる。一通り見ると私に渡した。


「で、ハインリヒ様は他の魔術師の尻拭いを?」

「仕方ないだろ」


 私は報告書を折りたたんで革の腰バッグにいれると、ハインリヒ様と大きな石造りの別棟に向かった。


 ここは国家魔術師が使用する魔術庁の専用転移門だ。別棟内部の大きな魔法陣を通じて、私達は王都から離れた国境前の西の森入り口付近に降り立った。


「転移門って慣れないですね。頭がぐらぐらする。ノエルの移動の方がスムーズだなあ」

「アレと一緒にするなよ」


 軽口を叩きながら周囲を見渡した。

 鬱蒼とした森から見える道には人影は見えない。この辺は昔から定期的に魔物が出現するため人の手があまり入らない場所だった。


 交易のため一部道路を開通させたが、道路を通過する人間を魔物が狙うため、結局遠回りでも別の道を使うか海路を選択する商人がほとんどである。しかし稀にこの道を使う人間がいる。今回の犠牲者のように。


「どうやって魔物を誘き寄せるんですか?」

「お前がいるだろう?ティアナ」

「人使い荒いですね」


 私は腰の剣を抜剣し、下から斜めに空を切り、高々と空に剣を上げた。


 集中して、一気に剣に魔力を集める。長い刀身から陽炎(かげろう)のように金色の魔力が揺らめく。

 ぐっと力強く握ると、剣から一気に魔力が吹き出した。


「ギィィイイ!!!」


 地響きと共に、2メートル弱の魔物が5体現れた。針葉樹の尖端が歩く度に震えている。


 グロテスクな見た目でテロテロと赤黒い濡れた体が、ところどころボコんと沸騰したように泡を吹いた。大きな目玉が体の前に一つついている。血走った赤い瞳がギョロギョロと動き、私を捉えた。目玉の真下についている口がニタリと笑う。


「ハインリヒ様、アレあんまり強そうに見えないですけど」

「『魔物大図鑑』ちゃんと見たのか?アイツは『テリズ』。人間の感情を揺さぶるタイプだ。見目で恐怖を煽り、畏怖したところで幻覚を見させ殺す。普通の人間なら、恐怖の夢を見ながら目覚めることなく死ぬ」

「まあ、とにかく魔物は集めましたからあとお願いします、師匠」

「都合良く師匠扱いするなお前は」


 ハインリヒ様は右手をかざし、まずは一体に向けて火炎の魔法陣を展開した。


「燃えろ」


 陣から一気に炎が上がり 勢いよく魔物を襲った。ハインリヒ様は次々に魔法陣を展開し、五体全てが炎に包まれた。


 ゴウゴウと燃え続け、いけるかなと私が偉そうに手を腰にあてた瞬間、炎の中からギョロリと目玉が見えたかと思うと5体ともジュワアアアと音が鳴り火が消えた。


「ん?火に耐性がある······?」

「弱点が違うとか」

「いや、従来の種は火が弱点······おわっ!」


 突然魔物がびちゃっと粘液を飛ばしてきた。予想外の行動に私達は一旦後方に走った。各個体から次から次に粘液を飛ばしてくるので、木が生い茂る場所に隠れたが、当たった近辺の樹木が真っ黒になり萎びた。


「なるほど!従来の弱点が克服されて、謎の粘液攻撃が出来る生物に進化したんですね!これなら魔術師三人やられるわけだ!」

「喋ってないで走れ!」


 謎の粘液は不定期に飛んで来るので、盾の魔法陣を出しながら逃げ回った。ハインリヒ様が上手く二人分の陣を出しながらカバーしてくれていたが、だんだん息が上がり始め埒があかないと踏んだ私はついに彼を呼んだ。



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