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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第7章 ユニコーン
59/139

7ー1

 


 窓から見える庁舎の中庭の木々がだいぶ葉を落としていた。


 給湯室からティーポットにお湯を入れて戻ると事務官と執務室のドアで入れ違い、部屋の中ではハインリヒ様がレザーの上質な椅子に深く腰掛けて依頼書を見ていたが、戻ってきた私にそのまま書類を手渡した。


「ユニコーン?」

「そう。しかも亜種だ」


 王都から北西にある国有地の湖で、一角獣(ユニコーン)が目撃され、各魔術師に調査と捕獲依頼が出されていた。ハインリヒ様より先に既に数人の魔術師が調査と捕獲に向かっている。


 ユニコーンは、魔物ではあるがその角には薬草を遥かに越える鎮痛と解毒、回復成分を含んでおり、粉状にしてから薬として魔物からの外傷や毒等のために主に病院で使用されている。貴重なため、粉薬一回分で王都に家が一軒建つぐらい高価なものだ。


 ユニコーンを捕まえるのはなかなか難しい。彼等は逃げ回るのが上手だし、攻撃をすることは少ないが危害を加えられると噛んでくる。魔術庁では一頭見つかると多数の魔術師に依頼が出されているがなかなか捕まえられない。


 現在ユニコーンの個体数も少ないため、捕獲後は角だけ切ってまた離している。かつて魔法使いがユニコーンを乱獲した時代に激減した個体数を少しでも守るため、魔術庁はユニコーンを殺処分を厳禁としているのだ。魔物の中で殺処分が許されていない種は稀なので、魔物とはいえいかに珍重されているかがわかる。


 ちなみに亜種とは、通常真っ白なユニコーンの色違いや若干の風貌の違いの個体のことである。亜種の場合、平均的なユニコーンの角より突出して効能が高かったり、変わった効能があるため通常のユニコーン以上に価値が上がるのだ。


「銀色?」


 報告書を見ながら呟く私にハインリヒ様は頷いた。


「そう。体毛と言うより、銀色の光を帯びたユニコーンらしいんだ。まるで妖精のようだと大学の研究者達が調査を楽しみにしているらしい」

「妖精はもっと小さいですよ」

「それを比較出来るのはお前ぐらいだ」


 妖精と魔物・魔獣の判別の1つとして、視認出来るか否かがある。どんなに美しい見た目でも、普通の人間が視認出来る個体は妖精ではない。妖精は、魔法使いや魔女のような魔力値の高い人間か、視覚の認識を彼らに合わせてくれる人間以外には姿を現そうとしないからだ。


「ユニコーンの好きなものと言えばアレですね」

「······清らかな乙女、か?」

「フッフッフ。私の出番じゃないですか!」

「お前、自分が清らかだと思ってんのか」


 ハインリヒ様は執務椅子に座り長い足を組み替えながら、チラリと私を見た。


「人のシャツをランドリーから漁ったり、勝手にパジャマを脱がす奴は変態と呼ぶんだぞ」

「変態の中では清らかな方だと自負してます」


 偉そうにふんぞり変える私にハインリヒ様は半眼で腕組みした。


 ランドリーから定期的にワイシャツを拝借していることがバレて以来、ハインリヒ様は私の夢見の悪い朝には勝手に自室に入ることを許可してくれるようになった。


 これ幸いと、私は定期的に朝っぱらから堂々とハインリヒ様の自室に侵入し始めたのだ。


 彼のベッドに勝手に潜り込み、勝手にパジャマの上着を脱がせ、寝ている彼のベッドの端で、脱がせたパジャマの匂いを嗅いで、心音を聞いていた。


 一応言い訳をすると、最初は寝具の匂いを嗅いで満足したら起こす前に帰ろうとしたのだ。だが、若干精神的に不安定な日に、いざ彼の部屋に足を踏み入れると、やはり本人を目の前にして寝具だけでは物足りなくなり、結果ベッドに侵入し、追い剥ぎのような真似をした訳である。


 目覚めると半裸の自分の横で、弟子が自分のパジャマを抱いてクンクン匂いを嗅ぎながら胸に耳を寄せ心音を聞いていたのを見るな否や、ハインリヒ様は絶叫し、飛び起きてまた顔を真っ赤にしていた。


「許可したのはハインリヒ様じゃないですか」

「ベッドに入っていいとは言ってない。起こせばいいだろ」


 報告書に一通り目を通し、書類をお返しした。

 蒸らした紅茶をティーポットからカップに注いでハインリヒ様の机に置く。


「ま、清らかかどうかはともかく。私なら誘き寄せられると思います。討伐しないのであれば、魔法使わないと捕まえられないと思うので許可してください」

「人のいないエリアだからそれは良いけど······はぁ、報告書に何て書こう」


 いつも私が魔法やノエルを使う度に、報告書の内容に頭を悩ませるハインリヒ様は少し唸り、ティーカップを持ち上げた。


「なんせ絶品の魔力(えさ)がありますから。飛びつかない魔物はいませんよ、ハインリヒ様」



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