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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第6章 贄の魔女 【1】
55/139

6ー2 初代『贄の魔女』アル 2

 


 靄がだんだんと晴れ、白い髪の男の子はゆっくりと私に視線を向けじっと見つめる。


 汚れきった私と違う。なんて綺麗な子かしら。


「······喚んだのは君だね。僕が来ようと思うなんてなかなかないんだけど」

「······?」

「ああ、その匂いだ。こんなに芳醇な香りは嗅いだことがない」


 言っている意味はわからない。でも。

 真っ白な髪の間から、赤々と宝石のように二つの瞳がキラキラと輝いて見えた。


 綺麗。悪魔ってこんなに綺麗なのね。


 美しい悪魔を最後によく見ておきたくて、私は殴られて赤く腫れた顔を上げた。汚れた髪が揺れ、視界に彼が映っただけで目からはポロポロと涙が零れる。


 こんなに美しいものを見ながら死ねるなんて。


「君は、僕に何を望むの?」

「······え?」


 静かに言った彼の言葉をすぐには飲み込めなかった。


「まて悪魔!願いを言うのは俺······!」

「うるさいね」


 口端を少し上げると、導師様の体が破裂し、次いで取り囲んでいた魔法使い達が次々と弾け、粒子になり、風に流されるまま目の前から消えた。


 何が、起こったのだろうか。


 導師様が、村の魔法使いが消えてしまったの?


「みんなは····導師様は····どこにいったの?」

「消した。魂ごと消した」


 少しずつ、少しずつ恐怖が体に染み込んでいく。


「消····、死んでしまったの····?あなたが殺したの?」

「消した。二度と転生出来ないように」

「····私が·····私がちゃんと生け贄にならなかったから?私が····私がみんなを殺したの?」

「違うよ」


 ふわりと私の前に屈むと、体を縛っていた縄が溶けるように消えた。


 もう動ける筈なのに、体が震えて動かない。涙だけがあとからあとから溢れ出す。


「······助けて······!」


 震えながらやっと口から出た言葉はあまりにも無力だったのに、彼は赤い目に白くて長い睫毛を乗せたまま静かに頷いた。


「わかった。君のことを助けるよ」

「··········え········」

「それが君の願いなんでしょう?」

「ねが·····?」

「そのかわり、僕と友達になってくれる?」

「······友達······?」

「友達。僕、君の魔力が食べたいんだ。何度も食べたいんだ。君みたいな芳しい匂い初めて。君を消したり殺したりしたら、二度とその魔力を食べられないから、寿命までの間命の危険がある時は必ず僕が助けてあげるよ」

「······私があなたをよんだら、あなたは必ず私を助けてくれる?」

「いいよ」

「私····お腹痛くなったり、具合が悪いと魔力あげられないかもしれないよ。それでも、私を助けてくれる?」

「いいよ。友達になるなら」


 無表情のこの生き物の提案に、僅かなからの希望を見いだした私は、足りない頭を一生懸命動かして考えた。


「友達ってどういうこと?私、友達なんかいたことないよ······」

「友達は『親しく利益を交換する者』だよ。契約も取引もしない。利益は渡せる時に渡し合う。僕は強いからいつだって君を助けてあげるけど、君は弱くて小さいから、渡せる時でいいよ。出来れば毎日食べたいけど」


 当たり前のように、淡々と話を続ける彼を見た。

 この悪魔と言われる存在が、自分をこの世で初めて助けてくれると言ってくれた。


 私の意識は村の存亡よりも導師様の生死よりも、生まれて初めて手を差し伸べてくれた人外の生物への感謝と、生きることが出来る希望でいっぱいになりまた涙が零れた。


「·····魔力ってどうやってあげればいい?妖精達みたいに指を舐めるの?」


 まだ涙が溜まったままの(まなじり)に彼は口を寄せて舐めた。


「ひゃあ!」

「ああ、甘くて美味しい。どこからでも貰えるよ。涙からも口からも。君の手に触るだけでも貰える。······妖精達もこれ食べてたのか。勿体ないけど、君が魔法を知る対価は確かにこれが一番だものね」


 彼は無表情のまま、小首を傾げる。


「君をなんと呼べばいい?美味しい人間?」

「違······私、私はアルだよ。みんなは『贄の魔女』って馬鹿にして呼ぶけど」

「アル······アル。僕の友達。僕の魔女」


 噛み締めるように目を瞑って彼は言った。


「あなた、なんていう名前なの?」

「名前は無い。好きなように呼んで。さっきの不味そうな人間は『悪魔』って僕を呼んだよ」

「そんな風に呼べないよ······じゃあ、『ノエル』ってどう?素敵な名前じゃない?」

「ノエル······僕はノエル······」

「気に入った?」

「魔女が初めて僕にくれたものだ。僕の魔女が僕に名前をくれた。アルが僕に名前をくれた。僕はノエル」

「そうだよ、ノエル。これから宜しくね」

「宜しく?ふぅん。じゃあ、アル。早速だけど、僕は君をどうやって助ければいい?」

「とりあえず、村から離れて住むところが欲しい。魔物が来ないところでゆっくり寝たい。お腹も······空いてきちゃった。助けてくれる?ノエル」


「いいよ、アル。君が言うなら」




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