6ー1 初代『贄の魔女』アル 1
幼い頃から、魔力だけは馬鹿みたいにあった。
魔法使いが多いこの村で、魔力が高い子供がいるのは当たり前のことではあったが、私の魔力は他とは質が異なる。妖精や魔物に興味を持たれやすい魔力の魔法使い、所謂魔女と言われる存在だ。
ただでさえ、魔物を呼び込みやすい厄介な存在であるのに加えて、私の魔力は彼らにとっては魔女の中でも特別に甘美で美味しいものであると妖精達は言っていた。
通常人間側から持ちかけるべき魔法の交渉は、黙っていても妖精から持ちかけられ、気がつくと彼らは私の回りに集まってきた。
どの妖精も私には愛想が良く、決まって魔力を対価とする。魔法使いは本来は薬や知識、食べ物などとを材料に魔法を教わる。魔女は魔力を対価に出来る者もいるが、大概は交渉材料を他に抱えている。
交渉を終えて魔力を吸わせると恍惚とした表情で言うのだ。
「魔女、魔女、あなたの魔力はなんて美味しいの」
集まってくるのは妖精だけではなかった。魔獣と呼ばれる弱い獣達や、魔物達が私の魔力欲しさに集まって来る。
両親は、私が赤子の頃に導師様の元に相談に来たという。日々対魔結界を張らなければ日常的な生活すら危ぶまれて、私が物心つく頃には村も私も捨てて出ていった。
父も母も疲れていたのは知っていた。
でも柵と結界に囲まれた小さな土地で過ごしていると、戻って来ない親を求め涙が出た。親に貰ったもので残っていたのは「アル」という私の名前だけだった。
「文字は全て書けるようになったのか、アル」
「はい······導師様」
「何才になった?」
「12に······もうすぐ13です」
導師様の教えは厳しかった。魔法使いは本来、言語に加え、自然の摂理、妖精や魔物、暮らしの知識全てに精通しなければならない。
物覚えの悪い私は、何度教えて貰っても身につかず、その度に叩かれた。
逃げ出したかった。
あまりの辛さに、対魔結界のある場所から抜け出し村の外まで行ったことが何度かあった。
その度に魔物に目をつけられ、村の魔法使い達が応戦し、私はまた村に戻され、村人から石を投げられ、導師様に殴られた。
妖精から教わった魔法は、コントロールが下手で私には未だ扱いきれていない。それなのに魔力ばかりが溢れていて、甘美な匂いにつられて、人外の種族は常にこの村を襲おうとした。
周りの魔法使い達は侮蔑の笑みを浮かべて言う。
「お前は魔力は高いが他に何の取り柄も無いな」
「魔女は本来特技を二つ名に冠するが、お前は魔物の生け贄になるぐらいにしか能がないなから『贄の魔女』だな」
「お前がいると皆が危険に晒されるんだ『贄の魔女』」
「お前を好きな人間なんて、居やしないよ『贄の魔女』」
「早く何処かに消えてくれ、邪魔者の魔女」
大人達の罵声は容赦なく、石と一緒に投げられた。私の衣服にはいつも血がついていて、今さら傷か増えたところで誰も気にはしない。
13才を迎えてしばらくたったある日、ついに魔物が大群で押し寄せてきた。
「お前のせいだ『贄の魔女』!」
「お前さえ死ねば村はこんなことにならなかったのに」
いつもより強い罵声と怒声。投げられる石も一つや二つではなかった。村が次々と魔物に責め込まれ悲鳴と怒号が当たりに響き、噴煙があちこちで立ち込める中、導師様と数人の魔法使いが私を引っ張って村の高台へ走った。
「もうこれ以上、お前を匿うことは出来ない。わかるなアル、この村を救うため、お前には悪魔召喚の生け贄になってもらう」
導師様と数人の魔法使いが、体中を、縄で縛った私を中心に召喚魔法を発動した。私の魔力が魔法で縛られ、体の自由がきかない。
一瞬青白くカッと強い光りが覆ったかと思うと、白い靄が包みだした。ゴゴゴゴと地が揺れ、聞いたことの無い声が唄うように辺りを包む。
「凄いぞ!ついに成功だ!こいつの魔力が増えるまで生かしていた甲斐があったぞ!!あーっはっはっは!!」
叫ぶ導師様の笑い声で私は初めて気がついた。
殴られても蹴られても生かされ続けた理由を
村の外に逃げても必ず連れ戻された理由を
私は、最初から生け贄になるために育てられていたのだ
「さあ、悪魔よ!召喚に応じたならば、生け贄を対価に願いを叶えろ!」
導師様の声が響いた瞬間、地に這いつくばっていた私の目の前に現れたのは、鳥の羽のように真っ白で、くしゃくしゃの髪と、血のように赤い目を持つ男の子だった。




