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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第5章 サラマンダー
50/139

5-5

 


 サラマンダーの対処後の翌日から、ハインリヒ様が脅したとおり厳しい勉強会が始まった。


 毎日、勤務後ヴァンゲンハイム邸に戻ると私の部屋で行われた。いつもは別々にとっていた夕食もダイニングで強制的に一緒に食べることになり、夕食が終わるとすぐに自室での勉強会が再開された。


 今までサボっていたのはハインリヒ様にはバレバレで、とくに教本に落書きがされているページの復習は目付きが険しくなった。


「魔物についても、もう一度最初から復習するぞ」

「えぇ~?!それもですか?」

「俺のお前に教えた勉強のモットーは何だ」

「『記憶、実践、反復』です。師匠」

「ならやれ」



 手垢の少ない『魔物大図鑑』を机に出すと、頁を開く前に質問が飛んだ。


「一般の動物と、魔獣、魔物、妖精、精霊の違いを簡単に説明しろ」

「ええっ?えっと······普通の動物は······魔力が無くて······」

「それで?」

「魔獣は魔力があるけど、弱っちくて、魔石もとれるけどあまり大きくなくて」

「魔物は?」


 何度もされる質問に、しどろもどろに記憶を辿って説明を続けた。記憶といっても教本の記憶ではない。私の実体験の記憶の方だ。


「う、うーんと、魔獣より魔力が高くて強くて、魔法が使える。あ、質がいい魔石も採れます」

「そうだ。だから、狩猟者が魔石を採りに行って亡くなるケースもある。じゃあ、妖精は?」

「ええ~っと、妖精も魔力があって魔法が使えます。魔法使いが魔法を教えてもらうのはほとんどが妖精からです。あ、魔石は採れません」

「そうだ。妖精は通常人間には見えない。魔力の高いとされた、過去の魔法使いと魔女がその姿を捉えたとされている」

「うんうん。気まぐれですけど、私には割と好意的ですよ」

「それ、他の人間には話すなよ。じゃあ精霊は?」

「妖精より上位の存在で、魔力も多いです。最近は空想上の存在とかいう人もいます」

「そう。だから矢鱈めったらに見たとは言うなよ」


 ハインリヒ様は腕組みをしながら大人しく椅子に座る私に言い聞かすように言った。私は『魔物大図鑑』をチラリと見ながら不意に彼に聞いてみた。


「悪魔は?」

「ん?」


 突然の質問にハインリヒ様は私の顔を見た。


「悪魔って何だと思います?」


「それば······教本通りに言えば、魔物の上位の存在、だろ。取引材料によっては人間と交渉もするし、魔力も圧倒的に高く魔法も高度だ。そもそも悪魔は伝説上の生き物だとする学者もいるくらいだ。神が存在するかどうかと同じレベルの話だろ」


「でもハインリヒ様は悪魔を毎日見てるでしょう?伝説なんかじゃないですよ。それに、魔法使いと取引や交渉をするなら妖精や精霊と変わんないです。だとしたら、悪魔って何だと思います?」


 急に質問を深く掘り下げてみたら、ハインリヒ様は困った顔をしながら、自身の顎を触り首を捻った。


「わからないな。何せノエル以外の悪魔を見たことが無いし」

「私もです。でもね、ハインリヒ様。私ね、前にノエルに魔法を教えてほしいって頼んだことがあったんですよ。ノエルは私なんかよりも多種多様な魔法を使うから」

「習ったのか?」

「教えて貰えなかったんです。私にはノエルの魔法は使えないからって」

「どういうことだ?」


「魔法の質が違うんです。人間が使っている魔法は、元は妖精や精霊が使っていた魔法。世界の理と世界の魔力をこの身に受け入れ、私の魔力に溶かし混ぜてまた世界に放つの。全てが巡って循環するの。魔獣や魔物ですらこの摂理から外れない。彼らも体に取り込んでる。世界の理を受け入れて、また放っている」


「そう、なのか?じゃあノエルの使っている魔法は?」

「巡らない。ノエルだけは。ノエルの魔法は突然現れて突然消える。そこに循環はない」

「······いや、すまない。理解が追い付かない」


「この世界でノエルだけが異質なんです。ノエルだけが、変わらない。ノエルだけが記憶を操れる。ノエルだけが魂を見分けられる。彼だけが自分の魔力をゼロの状態にコントロールできるし、それを維持しながら只の猫に変身できる。妖精も精霊も高度な魔力と魔法を使えるものは、相応の魔力がないと見ることすら出来ないのに、ノエルだけはこの世界の全ての生き物が視認できるんです。ノエルだけが異質で、ノエルだけが特別なんです。それなのに『悪魔は魔物の上位の存在』ってなんか違和感があるんですよ」


「······異質······」

「私ね、ずっと不思議だったんですよ。ノエルのことを見たものはみんな彼を『悪魔』だって言ったの。ノエルを召喚した魔法使いもそう言ったの。でもね、ハインリヒ様、私現世に転生して、一つ気づいたことがあるんです」

「なんだ」

「ノエルは自分のことを悪魔だと名乗ったことは一度も無いの。もし、ノエルが悪魔じゃないなとしたら、ノエルって一体何なんでしょうね」


 私の問いに彼は答えなかった。



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