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退勤時刻になった私をハインリヒ様はローブと鞄を持って迎えに来てくれたが、たくさんのぬいぐるみに埋もれて仰向けに横たわる私を見ると、ポケットから錠剤を出して口の中に無理やり押し込んだ。
「配分も考えずに馬鹿みたいに魔力放出するからだ」
ヘロンヘロンの私を抱えてハインリヒ様は馬車で屋敷に帰った。
高い塀に囲まれた大きな門をくぐると古めかしくも広い大きな屋敷が姿を現す。ヴァンゲンハイム家は魔術師としてはかなり古い家柄であり、この屋敷もかなり古いものだと聞いた。
「しゅみまひぇん·····」
「いや、もう今日はいいから」
おろおろするメイドさんをよそに、私を担いだハインリヒ様はそのまま二階の私室のベッドに下ろしてくれた。
「ノエル!いるか?」
「······にゃあ······」
リン······と鈴の音が鳴り、何処からともなく白猫が現れた。
「ティアナが魔力不足で動けないんだ。取り敢えず市販の魔力回復剤飲ませたけど、お前、あとでティアナの着替えさせられる?」
「······にゃあ······」
「そんな風に見るなよ。仕事だったんだ。明日の夜には回復してるさ。そしたらティアナから貰え」
白猫は目だけが赤々と輝いている。
じっと見つめる白猫に、ハインリヒ様はまるで独り言のように語りかけていた。
「ノエルごめん。お水飲みたい~」
「にゃあ」
私がふにゃふにゃのまま声を出すと、白猫はフッとその場から消えた。
「すみません師匠······」
「無理して師匠扱いしなくていいと言ったのに、ティアナ」
「······ハインリヒ様」
「ティアナ、お水持ってきた」
リン、とまた音がなったかと思うと白猫がいた場所に真っ白なくしゃくしゃの髪の男の子がコップを持って立っていた。猫と同じく目だけが赤々と宝石のように輝いている。
ハインリヒ様は寝ころぶ私を少し起こし、口に水をいれてくれた。
「どんくさいね、ティアナ」
白い髪の男の子が私を見下ろした。
「ごめん、ノエル」
「あんなに有り余ってた魔力を全部放出するってどうやったら出来るの?ま、いーや。明日の夜は僕のごはんもちょうだいね」
「うん、有り難う」
ノエルはまたふらりと姿を消した。
「······どのぐらい魔力放出したんだ」
「空になるまでずっと······」
「バカ」
「魂抜きしていて思ったんですけど、ゼロになるまで魔力を出したら、リセットされて普通の人間になれるかもしれないなあと思って」
「······死にたいのか?」
「いーえ。ただの実験です。実際はゼロになる前に倒れましたし。周りがふかふかの人形だらけで良かったですよ。魂抜き自体は終わらせてますから大丈夫です」
「どうせ、いつもみたいに魔力で捩じ伏せたんだろう?なんでも魔力の多さで片付けようとするな。魔術はそんなに魔力を必要としない。もっと効率良く出来たはずだ。技術を学び足りてない証拠だ」
「ごめんなさい」
「謝る以外に特技はないのかお前は」
「白猫を手懐けるのは得意ですよ?」
「お前の唯一役に立つ特技だな」
ハインリヒ様の大きな手が私の額に触れた。
私はそのまま朝まで眠り続けた。




