表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第5章 サラマンダー
49/139

5-4

 


『ハインリヒ・ヴァンゲンハイム様の魔術はまるで芸術ね』


 以前彼をそう評していた女性魔術師がいたけど、確かにハインリヒ様の繰り出す魔術はまるでダンスを見ているように優雅だ。


 アレクシス様程ではないにしろ魔法陣の展開も非常に早い。私の魔法陣の展開と比べると神とゴミくらい違う。


 華麗な水の魔法陣が一段落すると泥沼は泥の湖のような状態になっていて、サラマンダー達はひっくり返ってプカプカと浮いていた。


「ティアナ、こっちに来れるか」


 呼ばれて私は岩場から両足でジャンプして地上に降りた。ハインリヒ様が魔法陣からポンポンと降りてきたのを見て思わず両手を上げて歓声を上げる。


「さすがハインリヒ様!見事な対処でした!」

「褒めなくていいから。あそこにまだ生きているサラマンダーがいるのが分かるか?」


 泥の湖の中でなんとか動こうと踠いている個体が見えた。


「はい」

「アイツはおそらくまだ火球を放つぞ。足場は俺が作ってやる。一人で対処できるか?」

「やってみます!」


 ハインリヒ様がぴったりと後ろに寄り添い浮遊の魔法陣を大きく展開してくれた。地上から約3メートルの高さから両手を翳す。

 わたしはまだ足場を作るほど魔法陣を使いこなせない。片手で一つずつ、小さめの魔法陣を展開するか、両手で大きめの魔法陣を一つ展開するのが精一杯だ。


「落ち着いて、ゆっくりでいい。魔法陣は大きく展開しろ」

「はい」

「構築式は丁寧に描く。思い出せ、水の魔法陣は俺と何度もやったはずだ」


 ──ハインリヒ様と。

 そうだ、水の魔法陣は初めてハインリヒ様が見せてくれた魔法陣だ。魔術など何も知らなかった私に、魔女である私に、彼は寄り添って一から教えてくれた。


 集中しながら大きく陣形を描く。ゆっくりと発光する構築式が宙に浮かび上がった。


「そうだ。最後まで気を抜くなよ」


 サラマンダーがクワッと口を開け、火球をこちらに放つ。すかさずハインリヒ様が盾の魔法陣で火球を逸らしてくれた。


「今だ!放て」


 ドバっと大量の水が口を開けたサラマンダーに襲いかかった。


「そうだ!そのまま、続けて」


 ハインリヒ様程の勢いはないが、ザバザバと音を立てて水は流れしばらくして水を止めると先ほどのサラマンダーがプカプカと浮いた。


「·····やった!やりました!ハインリヒ様」

「ああ、よくやった」


 初めて魔術で魔物を倒した私は嬉しさの余り、奇声を上げた。ノエルの力でも、魔法の力でもない。私が学んで身につけた魔術でやっつけたのだ。


「嬉しい!出来た!きゃー!」

「わかったから、落ち着け」


 浮遊の魔法陣で足場を作ってくれていたハインリヒ様と手を繋いだまま私はピョンピョンと跳ね、ハインリヒ様の首に巻き付き、勢い余って上から押し倒した。


「うわ····っ、お、おい!ここ魔法陣の上······」

「見ました?!私、魔術使ったんですよ!ハインリヒ様と覚えた魔術なんですよ!」

「あ、ああ。そうなんだけど······」


 倒れた瞬間に、魔法陣上でハインリヒ様に跨がってしまったが、完全に喜びに浸った状態の私は、ハインリヒ様の肩に首を埋めたまま笑って腕の力を強める。


「ハインリヒ様、好き!」

「··········は····?」


 顔を上げた私は、なんだか頬が赤いハインリヒ様に言った。


「私、勉強したことがちゃんと出来たことあんまり無いの!ハインリヒ様って最高の師匠!有り難うございます!」

「····そ、そうか。好きって········。あ······そういうことか」

「??お顔赤くないですか?体調悪いですか?」


 そっと頬を両手で触り、顔を近づけると、彼は何故か益々顔を赤らめた。触っている頬が熱い。


「やっぱり熱ありますよ、顔赤いですもん」

「わ····わかったから離れてくれ····頼む」


 そういえば、勢い任せで押し倒していたことに気づいてすぐに体を離したら、ハインリヒ様ははあ~っと長いため息を漏らして顔を手で覆った。



「あ、魔石!どうしましょうか?」

「え。ああ、とっていくのか?」


 魔石は、魔物や魔獣からとれる石であり人間社会では燃料として使われる。魔術庁の仕事は魔物退治が終われば魔石の有無については問わない。希に大学や研究所からの依頼で希少魔石を採ることはあるが、他の魔石については対処をした魔術師に任されている。


「でもサラマンダーの数が多いなあ······ノエルー!」


 リン······と鈴の音が鳴り、ふわふわの真っ白な髪を靡かせて彼は私を抱えるように現れた。


「おい、ノエルにやらせるのか?」

「この間、死んだ魔物から私が魔石を取り出してたらハインリヒ様泣きそうな顔してたから」

「この間は30体近くあっただろ。嬉々として魔石をとるお前の姿を見たら気分が悪くなっただけだよ」


 先日レッドボアの対処に高原に行った際、思いの外の数が居たがハインリヒ様が一網打尽にしてくれた。レッドボアは体当たりされると骨が砕けるが、火も吹かないし固い鱗もないため、魔石を採るには最適な魔物なのだ。


 魔獣より魔物の魔石の方が質が良いため、せっかくだからと討伐した全ての個体から銀の剣で魔石を採っていたら、その様子を見ていたハインリヒ様に凄い顔をされたのだ。


「私は剣は得意だし、魔石を採るのも割と手早いほうなんですけどね。ハインリヒ様がまた苦い顔をするから」

「まさか30体全部から採ると思わなかったんだよ」

「まあ、採れるものは採っておきましょうよ。フォルカーさんにも魔石は頼まれてるんですよ」


「······僕が殺してあげたのに」

 ボソリと呟くノエルに、私は首を振った。


「ノエルがやると存在そのものを粉砕しちゃうんだもん。私は魔石だけ欲しいんだよ。出来れば洗浄の必要が無いように綺麗な状態で」

「わかった。」


 ノエルが私から手を離し、泥の湖の上にフワリと降り立つ。


 彼が目を細めた瞬間、プカプカと浮いていたはずの魔物がザシュっという音と共に一瞬でブロック肉になった。

 泥の湖のあちこちで赤黒い血が広がって斑の血の池が出来上がり、そこからプカリと出てきた魔石は赤く煌めいていた。10個全ての魔石が浮かび上がりそのまま私の足元にポンポン飛んできた。


「これでいい?」

「うん。有り難うノエル。······ハインリヒ様ぁ」


 甘えたように声を出したらハインリヒ様にギッと睨まれた。


「ダメだ。ノエルは使わない。転移門で魔術庁に帰るぞ」

「えー······」

「日常的に他の人間と同じようにしてないと、お前の友達の前のでどんなボロが出るかわかんないんだぞ」

「うー·····それを言われると······ごめんね、ノエル。魔石、全部私の部屋に置いといてくれる?私、ハインリヒ様と魔術庁に戻る」

「いいよ。僕の魔女」


 ノエルは魔石と共に姿を消した。


 私はハインリヒ様と浄化の魔法陣を使い辺りを綺麗にした。


 魔物は全て土の下に埋め、斑の血の池と化した泥水は血の浄化だけ行った。

 チマチマと狭い範囲を浄化していたら、ハインリヒ様があっというまに血の浄化を行い。辺りは泥水だけになった。


 ここは山肌に木々はほとんどない。乾燥した火山地帯だからしばらくしたらこの泥水も自然に蒸発して無くなるだろう。


 私はハインリヒ様に促されエンブレムキーに手を当て

「ティアナ・クルル、魔術庁へ帰還」

 と呟く。同じようにハインリヒ様も声紋認証をし、転移門が開くと二人で門を潜り、カタレオ火山を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ