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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第5章 サラマンダー
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5-3

 


 それから3日後、私達はサラマンダーの対処に向かうことになった。


 いつもは魔術庁のエンブレムの入ったローブを着ている私達だが、今日は魔獣ファッケルハーゼから作ったマントを羽織った。サラマンダーの火の粉は、通常の火よりも燃焼力が高い。サラマンダーには劣るが同じ火属性の魔獣から作られたマントはある程度の火は防御してくれる。


 魔術庁の専用転移門から現地に飛ぶため、ハインリヒ様と私は互いに両耳に魔術庁のエンブレムキーであるピアスがきちんと嵌まっているか改めて確認しあう。


 エンブレムキーはかつてはネックレス型であったが、切れにくく重い金属を使用しているため、意外と肩への負担があり、最近の魔術師は切れる心配は無いピアス型を使用している。軽量の金属で出来ており、鍵の魔法陣ではずれないようにロックをする。


 私は鍵の魔法陣を未だ手く使いこなせないため、毎度ピアスをハインリヒ様にロックをしてもらっているのだが。


「昔の魔術師はネックレスのエンブレムキー無くしたらどうやって帰ってきたんですかね」


 両耳を触られながら目を閉じ、漠然と質問をぶつける。


「さあね。最悪徒歩かな」

「エンブレムキーは無くして誰かが拾っても他人には使えないんですよね」

「声紋認証が合わないからな」

「ハインリヒ様が無くしたら、私が飛翔魔法で抱えて王都まで運んであげますね」

「俺が無くす可能性より、お前が無くす可能性の方が高そうだ。さあ、準備はいいな。いくぞ」



 別棟の転移門に向かう。足元はいつものローファーではなく、固くて長い編み上げブーツだ。


 カタレオ火山の中腹に降り立った私達は、サラマンダーを集めるため持参した暖炉用の枯れ木と木材の束にマッチで火をつける。


 サラマンダーは魔法や魔術で出した火を好まない。この世界で純粋に作り出された火を好むため、手間でもこうして火を起こす必要があるのだ。


 枯れ木に点火し、木材に火が燃え上がるのを見てから、少し離れて高い岩場から様子を見ていると、しばらくしてから、のそりのそりと炎に体を包まれたサラマンダー達が集まって来た。


「ハインリヒ様、来ましたよ」

「結構いるな。今年は俺で5人目の魔術師だ。なのにまだこんなにいるのか」


 ざっと数えただけでも10体近くいる。中には産卵期とおぼしき体の大きなサラマンダーもいた。


「じゃあ、戦いの前にもう一回昨日のおさらいだ。復唱しろ」

「サラマンダーは火属性。口から火の粉を吹き出すため、十分な距離をとりつつ口を開いたタイミングで水の魔法陣を展開し、十分な水量を体内に取り込ませる」

「そうだ。本来なら一人で複数の魔法陣を展開できるようになってから対応すべき魔物だ。複数体の場合は火の粉の効力を弱めるため、土の魔法陣、水の魔法陣を使いあいつらを半分泥中に沈めながら戦う」

「どうしましょう。私が水の魔法陣を使って、ハインリヒ様が土の魔法陣を使いますか?」

「いや、お前の水量が小さすぎる。ギリギリまで俺が片付けるから、手順を見てろ」



 トン、と岩場を蹴って地上に降り立つハインリヒ様は両手を翳した。


 右に水の魔法陣、左に土の魔法陣、軽く指先を曲げると、二つの魔法陣が重なり大渦を巻いて土と水が混ざり合う。地鳴りのような音が辺りに響き、彼が地を蹴り、両腕を勢いよく下げると、混ざり合った泥が一気にサラマンダーに降りかかった。


「すごいなぁ······」


 ハインリヒ様の魔術は完璧だ。崩れない魔法陣形、発光する構築式、繰り出された魔術は、重さと力、勢いと量、全てが噛み合って魔物を捉える。


 ハインリヒ様の足元が、ポウ······と光り大きな陣が展開された。浮遊の魔法陣だ。そのまま後ろに数歩下がりなから階段を昇るようにポンポンと宙を跳ねた。


 しばらく宙に留まり、眼下に広がる泥沼を見ているとモソモソと泥の中で蠢く幾つもの影があった。


「──来る······」


 口にした途端、泥沼のあちこちから火球が飛んできた。人間の頭位の火のボールが勢いよく飛んできて、ハインリヒ様は足元の二つの魔法陣を維持したまま空中で火球をヒラリヒラリと避け、そのまま両手でそれぞれ大きな魔法陣を展開し、火球を放つために口を開けたサラマンダーめがけて一気に水を放った。


 まるで瀧のような水量の水が、魔法陣から轟音を立てて地上のサラマンダーに浴びせられ泥沼に足をとられたままの魔物は、その水量に姿が見えない。


 その間も、別の方向から火球が飛んできたが、ハインリヒ様は踊るように体を捻り、すぐに水の魔法陣を火球が飛んできた方向に向けた。



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