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弟子会での模擬試験の結果が張り出されたのは、風が冷たくなってきた頃だった。
「おお!最下位じゃない!」
思わず自分の目を疑った。私の最下位転落を救ったのは剣術だった。筆記と魔術の実技は見る影もない。
魔術師資格試験は、大きく四つの項目に別れる。筆記試験、魔術の実技試験、銀の剣の剣術試験、そして面接だ。
模擬試験では面接以外の三試験を行い、己の現在の技量を確かめる。本番の資格試験はこれに面談も入るのだから、国家魔術師になるのは本当に大変だと思う。
「お前、それでも下から数えた方が早いじゃないか。ちょっとは落ち込めよ」
腕組みしながら横目でチラリとこちらを見るレナルドに、私は口を尖らせた。
「レナルドは?どうだったの?」
「ん」
顎を使って張り出された順位表を指した。レナルドの名前が真ん中より少し下に記載されている。
「幽霊の件があったからなあ。計画的に勉強はできなかったけど、今回はこんなものかな」
レナルドは筆記と魔術の実技が私よりはうんと良い。剣術は芳しくないが。
「ララは?」
「今日も見てないな。先週末から来てない。アルレット様の仕事についていってるんじゃないのか」
順位表を追っていくと、ララの名前は私とレナルドの真ん中位に記載されていた。三人の順位としては予想通りである。寧ろ私が最下位でなかったことが奇跡に近い。
「あ、マティアスさんの名前発見。凄い。上位だ」
「あの人、頭良いんだよ。魔術も上手だし。本当に魔術師にならないなんてもったいないと思うんだけど、アルレット様のお側に一生いられると思うと魔術秘書を選んで正解な気がするよなあ」
鼻の下を伸ばしてデレっとしながら「するよなあ」、と言われても私には同意しかねる。
弟子会での魔術練習を終えたあと、昼前にハインリヒ様の執務室に戻ると、アルレット様がいらっしゃっていた。
「あら、ティアナ。こんにちは」
「アルレット様!こんにちは!あれ、ララ今日来てませんでしたが、同行してないんですか?」
「ええ······それがね」
アルレット様は頬に細長い指をあててホウッとため息をつく。
「あの娘、今怪我をしてしまって。家で休ませてるわ」
「怪我?!だ、大丈夫なんですか?」
アルレット様によると、先週依頼のあった魔物を対処しに、ララとマティアスさんを連れて南部にあるカタレオ火山付近にいった時に、サラマンダーと対峙し火球の火の粉が足に当り火傷と転んでかすり傷を負ったそうだ。
「かすり傷のほうはともかく、サラマンダーの火の粉による火傷が少し重くてね。範囲は狭いけど、あの娘まだ若い女の子だから、傷が残ったら可哀想でしょう?魔物の治療に強い病院にすぐに連れていったんだけど、しばらく治療が必要なのよ。弟子会もしばらくお休みさせるわ。ごめんなさいね」
アルレット様が謝ることではないのに、彼女は私にまで謝罪した。
「で、ハインリヒ。後の事お願いできるかしら。事務官を通した方が良くて?」
「いや、いいよアルレット。直接依頼書もらったし」
「そう。この借りは必ず返すわ。ごめんなさい」
「返さなくていい。友人の頼みぐらいいつでも受けてやるさ。サミュエルにも声かけたのか?」
「いいえ。彼、秋のお見合いパーティーで今週は忙しいと聞いていたから。邪魔しちゃ悪いわ」
「パーティーって·····あいつ春も行ってなかったか?」
「毎月行ってるわよ」
アルレット様とハインリヒ様は和やかに話されていた。
少し離れたところでその光景を見ながら、美男美女の立ち話に内容はともかく絵面が良すぎて私は鼻血が出そうだなと、一人薄ら笑いをしていた。




