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剣を握り締め、間合いまで一気に走り込み袈裟斬りにした。だが、大振りの攻撃はビュッと空気を斬るだけでまた避けられる。
「攻撃が安直すぎ······」
余裕の言葉を吐いたアレクシス様と目が合い、私は笑い、その瞬間広げた左の手の平から薔薇の花弁がブワッと飛び出し、螺旋状に次から次に涌き出す赤い花弁がアレクシス様の視界を奪った。
「···っ?!なん·····」
まるで真っ赤な雪の嵐のようで、目を開けているのも辛いだろう。
バサバサと何千枚もの真っ赤な花弁がアレクシス様を襲い、両腕で顔を覆ったのが見えた瞬間に私は動いた。
「失礼。薔薇は嫌いでしたね、アレクシス様」
アレクシス様がゆっくりと腕を下ろした時には花弁はひらひらとあたりを舞っていた。
私は何故か胸に広がる嬉しいような高揚するような、自分でもよくわからない気持ちに浸り、彼のきょとんとした表情を見て堪らなくなってくすくす笑い出してしまった。
目を見開いたアレクシス様の喉元に銀の刃が鈍く光った。私は未だ笑みを浮かべてアレクシス様を見たが、彼の目に浮かび上がったのは明らかな困惑だった。
「······エレオノーラ······」
◆◆◆
暫く呆然としていたアレクシス様は屋敷に戻ると、先程のように微笑みを取り戻していた。
家に入りリビングでアイスティーを頂きながら休憩をし、ハインリヒ様に流石に私の態度が失礼過ぎたか聞いたら
「師匠はそれくらいじゃ怒らないよ。けど······」
「けど?」
「お前、最後魔法使っただろう。あれはルール違反だぞ。魔術の指導するっていってくれてただろう?」
「そっか。そうだった」
戦いに熱中する余り、つい我を忘れて花の幻影魔法を使っていた。しかも途中からへんな映像を見たお陰で気持ちがそっちに引っ張られてしまった気がする。
「師匠はお前が魔女なのを知っているからいいけど、外でやったら一騒動だからな。気をつけた方がいい」
「すみません·····」
注意されてシュンとしているとアレクシス様が美味しそうなチョコレートケーキ片手にリビングに戻ってきた。
「やあ、待たせてすまないね。ティアナ、ケーキは好きかい?」
「はっ、はいいぃ~!!」
美しくデコレーションされた小さなチョコレートケーキに目が行くと、途端に落ち込んだはずの気持ちが急浮上した。
口に含むと濃厚なカカオの香りと甘さで蕩けるようだ。
まったりとしたコクのあるチョコレートがとても美味しい。アレクシス様は私と好みが一緒なのかも知れない。先程のチョコレートアイスも、このチョコレートケーキも私の大好きな食べ物だ。
いや、チョコレートは全て好きなのだが、味付けと風味食感が非常に好ましい。
「美味しい!有り難うございます」
ニコニコしながらモグモグと口を動かしていたら、隣でハインリヒ様がペコリと頭を下げた。
「師匠、すみません。ティアナが失礼をしました。魔術を見て下さると言ったのに、魔法を出してしまったようで······」
アイスティーを飲むアレクシス様は私を見たままぼーとしていたが、ハインリヒ様に話しかけられてやっと口を開いた。
「ん?ああ、ティアナは本来は魔女だからね。咄嗟の事態には魔術より、反射的に魔法が出てしまうのは仕方ないのさ。人前では少し危ないがね」
「す······すみません」
口にフォークが入ったまま項垂れた。ハインリヒ様の弟子失格である。
「いや、久しぶりに見たよ花の幻影魔法。前と変わらず美しかった。選んだのがよりによって薔薇でもね」
「選んだ訳じゃないんですが、なんか体が勝手に····すみません」
「····あれは君自信が意図して発動した訳じゃなかったのか?」
「うーん····私にもよくわからなくて」
アレクシス様は少し不思議そうに私を見ると、フッと笑みを溢した。
「······チョコレートケーキ、美味しいかい?」
「え?あ、はい!すごく美味しいです」
「そうか。それは、良かった」
アレクシス様はとても優しく笑い、私がケーキを食べる様を見ている傍らで、ハインリヒ様が不機嫌そうに眉を寄せているのを私はその時気づいていなかった。




