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「ふぐっ!!ふぁいんひひひゃはふぉいひーへふ!」
「落ち着けティアナ、はしたないぞ」
ハインリヒ様のお話を邪魔し、地獄のファンファーレのような音をお腹から鳴らした私は、ヴァンゲンハイム家先代当主のアレクシス様のお屋敷でなんとも美味なランチを頂いていた。
「いいんだよ。たくさんお食べ」
「んん~♡こにょお肉がやはりゃふておひひ」
「ふふ、可愛いな。そう思わないかハインリヒ」
アレクシス様の用意してくれたのはチキンのソテーとグリル野菜だ。バターの香りがするお肉は柔らかくパリパリの皮が香ばしい。色とりどりの野菜も見目美しく食欲を誘う。添えたパンも香りがとても良く美味しい。
モグモグとお腹いっぱい食べたはずなのに、デザートのチョコレートアイスが出てくると、私の胃袋はすぐさま収納場所の確保に応じた。
「冷たくて美味しいです。ご馳走して頂き有り難うございます」
「いやいや、こんなに喜んでくれるならいつでも用意するよ」
アレクシス様はコーヒーを飲みながら、にこやかに笑った。反対にハインリヒ様は何となく機嫌が悪い。恐らく、私がお二人の会話を腹時計で邪魔したせいだ。
アイスを口に含みながらコーヒーを静かに飲むハインリヒ様を見ていたら、アレクシス様が言った。
「今日明日、急ぎの仕事はあるのかハインリヒ」
「いえ。依頼された対処は終了してますからあとは報告と事務作業だけです」
「なら、今日はここに泊まっていきなさい。1日くらい休みは取れるんだろう?」
「師匠?」
「ここは田舎だからね、毎日退屈してたんだよ。一晩だけでいいから酒と話し相手に付き合ってくれ」
「しかし、いきなりご迷惑では」
「弟子が相談に来てくれるなんて、師匠冥利につきる。お前も一人立ちして二年半、そろそろ突き当たる壁もあるだろう」
二人の大事なお話に私が関与するのは不粋だろう。
「あの、先程は会話を邪魔してしまいすみません。私、離席しますからゆっくり話して頂いて······」
席を立つ私に、アレクシス様が言った。
「いや、話は夜にしようか。お前もそのほうがいいだろう?」
「······はい」
「ならば、せっかくだから午後は魔術の指導をしようか。ティアナ」
「魔術の指導······ですか?」
「ああ、興味深くてね。なんせ、魔女が魔術師の弟子になるなんて聞いたことがない。構わないか?ハインリヒ」
「もちろんです」
「では、庭に移動しようか」
案内された庭は簡素だった。魔術師の家はあまり庭を作らない。草木が隠れ蓑になって侵入者に魔法陣を展開されては困るからだ。どの家も、外壁以外は石畳を敷き、それ以外の遮蔽物をあまり置かない。
広い石畳の上で、アレクシス様はポキポキと腕を鳴らす。
ハインリヒ様は腕を組んで黙ってこちらを観ていた。
「認識阻害の魔法陣を敷こう。これで家人にも見られない。好きなように動いていい」
「使っていいのは魔術だけですか?銀の剣は?」
「いいよ。何を使っても。君の全てを受け止めよう」
アレクシス様が腕を伸ばしてからちらりと見た視線に、一瞬ゾクリとした。微かに笑みが漏れている。
この人、強い──···!
腰から愛刀の銀の剣をスラリと抜いた。
相手は長年『審判の魔術師』を務めた手練れ。私のユルユル魔術だけじゃ、恐らく歯が立たない。
少しでも相手になるように、鍛えた剣と共に戦うことにした。
アレクシス様の亜麻色の柔らかな髪が靡く。
私は一気に駆け出した。




