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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第3章 幽霊
37/139

3-11

 


「おい!バカティアナ!」


 レナルドと会ったのは幽霊事件があった二週間後のことだった。


 事件の翌々日、ハインリヒ様の執務室を訪れたサミュエル様から、レナルドを少しの間、実家に帰って療養させることになったと聞かされた。


 後悔はしないと決めたけど、もしかして彼を怖がらせてしまったかも知れない。そう思うと、今度は幽霊よりも私の存在が彼の重荷になってしまったのでは、と少し気を落としたりもした。



 久しぶりに弟子会に姿を見せたレナルドは、イリスに行った時より少し痩せたように見えた。


「······レナルド」

「久しぶりだな」


 声をかけたレナルドに、なるべく普通に話そうと思ったがさすがに私の声は弾まない。


「体は······平気?」

「ん、心配かけた。もう平気。それと······」


 レナルドはガバッと頭を垂れた。


「相談乗ってくれて、助けてくれて有り難う!すぐにちゃんと言えなくでごめん!」

「······体調崩してたんでしょ?しょうがないよ」


 レナルドは少しを赤らめながら顔をあげた。


「いや、その、体調不良っていってもずっと寝不足だったのと、あとはお前に顔あわせずらくて······」


 ああ。やっぱりそうか。

 心の何処かでもしかしたらと希望は捨ててなかったのだが、仕方ない。


「やっぱり私が気持ち悪······」

「アルレット様の絵のこと!内緒にしてくれ!」




「······んあ?」

 体のどこかから変な声がでた。


「いや、見たんだろ?!あの絵。マティアスさんにこっそり貰ったんだよ。誰にも言うなよ······いや、言わないでくれ!頼む!」


「······」

 何?何を言ってるんだろう。


「わかってるんだ。振り向いてもらえないことくらい。あの人は世界一の美しさで、お嬢様で、誇り高い魔術師で」


「ちょ····ちょっと」


「だから遠くから憧れてるだけで良かったんだけど、マティアスさんに話したらマティアスさんが描いたあの人の絵を分けてくれるって言われて」


「レナルド」


「あんな美しい絵を貰えるなんてもらえるなんて思わなくって、嬉しくて、二人で夜の海でアルレット様を思ってたくさん語ったんだ」


「レナルドー」


「帰り際に砂浜に綺麗な玉が落ちてたから、マティアスさんとあの人を語った思い出に持って帰ったんだよ」


 レナルドは私の話なんか聞いちゃいなかった。アルレット様の美しさとマティアスさんに貰った写実画のことで頭がいっぱいのようだ。


「ということで、助けて貰ったのにさらにお願いするのは申し訳ないんだけど、あれはおれの大事な秘密だったんだ。だから」

「いいよ。誰にも言わない」

「ホントか?!有り難う!恩にきるよ」


 レナルドは安堵したように笑った。


「それはそうと、お前、幽霊と話が出来る能力があるんだな」

「······は?」

「師匠に聞いたよ。ティアナは幽霊と会話が出来る数少ない特殊能力の持ち主なんだって」

「特殊能力······」

「幽霊なんかいないって言ったのは、俺を怖がらせないためだったんだな。うん。俺もティアナの特殊能力は人には言わないよ。約束する。ハインリヒ様は貴重な特殊能力があったからお前を弟子にしたんだな。やっと納得したよ」


 真正面から真面目そうな顔をしたレナルドに私は思わず吹いた。


「レナルドはさあ······あんな変な生き物と会話する私を見て怖いとか気持ち悪いとか思わなかったの?」

「なんでだ?あの時、お前の特殊能力がなかったら俺は未だに睡眠不足でノイローゼになってたはずだ。感謝こそすれ、気持ち悪いだなんて思うかよ」

 レナルドはケラケラと笑った。


「そう。それは······良かった」


 何日ぶりに心から笑っただろう。涙がでそうだ。


「ふふ······レナルド。私からも有り難う」

「は?何でだ?」

「知らなくていいよ。これからも友達でいてね」

「おう」

「魔術師資格試験落ちても友達でいてよね」

「いいぜ。俺が受かったら、金持ちになるから遊ぶときは俺がご飯奢ってやる」

「やったー!毎日最高級ステーキ食べ放題だー!」

「毎日とは言ってない!しかも何だ最高級ステーキって!」

「ワーイワーイ!!合格のお祝いにはレナルドの好きなスカイブルーの靴下たくさん買うね!」

「何だよ、その負の遺産は······」


「ティアナー!あ、レナルドじゃん!元気になったの?」

 後から講義室から来たララが、私達の元に走ってきた。


「久しぶりだな、ララ」

「うん、体大丈夫?幽霊はどうなったの?」

「俺の気のせい。試験勉強しすぎで寝不足だった」

「やっぱりね~!真面目すぎるんだよ、レナルドは」


 久しぶりに三人で過ごす時間に、心の底から喜びで満たされる。胸がポカポカして、笑みがあとからあとから湧いてくる。


 声には出さなかったけれど、心の中で何度も呟いた。


 有り難う、二人とも。

 有り難う、私の友達になってくれて。


 もう少しだけでいいから

 このまま二人と一緒に過ごさせてね



 胸の奥にある秘密と嘘に見えないように蓋をして、私はまた笑った。





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