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「遅かったな」
「ごめんなさい」
講義が少し長引き、お昼までに戻れなかった私は急いでハインリヒ様の執務室に行くと、彼は椅子から立ち上がりスタスタと前を歩き出す。
「ほら、ランチいくよ」
「あ、すみません」
笑いながら私を促すハインリヒ様の後をパタパタと後を追った。
ハインリヒ様は真面目で優しい。今だって、時間になったら置いていってもいいのに、わざわざ終わるまで待っていて、ランチに連れていってくれる。
「今日はどれにするの」
「あ、これがいいです!今日の日替わり定食!」
「日替わり二つ下さい。あとコレも」
会計のおばちゃんに二人分のお金を払ってくれたが、渡された定食のトレイには私の分だけイチゴが二つ乗った小皿があった。
私はくすりと笑った。これはハインリヒ様なりの優しさなのだ。弟子になって外で食べる時はいつも私にデザートをつけてくれる。何故かは知らないが女性はみんなスイーツが好きだと彼は思い込んでいるようなのだ。
「んむ。ハインリヒ様、今日もランチ美味ひいでふ。有り難うございまふー」
「そうか」
もぐもぐと笑顔でランチを頂く私に対し、無表情で背筋を伸ばしてランチを食べるハインリヒ様は、朝つけた赤いリボンをなんと無しに触っていた。
「リボンお嫌でしたか?とりましょうか」
私が手を伸ばすと、プイっと顔を背けた。
「別にこのままでいい。それより今日は誰と剣術したんだ?」
「アルレット・ヘルマン魔術師の弟子のララです。あとサミュエル・プレーガー魔術師の弟子のレナルドですね」
「当然勝ったんだよね?」
「勝ちましたけど······」
「けど?」
「レナルドの方が魔術が上手なので、発動する前に足払いかけてやりました」
「ぶっ······くくく、まあいいけど。魔術の勉強頑張らないとね」
「はい、すみません」
アルレット・ヘルマン魔術師とサミュエル・プレーガー魔術師はハインリヒ様の同期でありご友人だ。彼らの弟子とはたまたま仲良くなったのだが、ララやレナルドとの交流をハインリヒ様は楽しそうに聞いてくださる。
こ機嫌にランチを食べるハインリヒ様を見ながら、こんな笑顔見せられたらまた頑張ってもいいかなと私も笑いながら
「イチゴ半分こしましょう、ハインリヒ様。はいどうぞ」
と口に入れようとした。
途端にかあっと顔を赤らめたハインリヒ様は
「と、年上をからかうなよ」
と不機嫌に視線を外した。眉間に皺を寄せてランチを食べきった彼は
「もういくぞ」
と席を立った。
「??なに怒ってんだろ。またなんか間違えちゃったかな······」
ハインリヒ様にあげようとしたイチゴを自分の口に入れ、私も席をたった。




