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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第3章 幽霊
29/139

3-3

 


「ハインリヒ様、あの!明日の夜、サミュエル様のお屋敷にお泊まりしたいんですけど」

「······は?!」


 弟子会からハインリヒ様の執務室に戻るなり、ハインリヒ様に外泊のお願いをした。流石に初めて友人宅にお邪魔するとなり、恥ずかしさと照れから顔を赤くしてハインリヒ様に伝えたら、彼は酷く動揺した。


「サミュエル?!おま····っサミュエルと何があった?!何されたんだ?!」

「??何もされてませんが」


 ことの顛末を話すと、椅子から立ち上がり頭をガッと掴まれた。


「ティ~ア~ナ~!話はきちんと!正確に!伝えろ!誤解されるような仕草をするな!」

「いだだだだ!ごめんなさいぃ!誤解って何のことですかー?」


 涙ながらに謝罪するとハインリヒ様は渋い顔をして、やっと頭から手を離してくれた。


「幽霊とやらを見るだけなら泊まる必要はないだろ。一人で行ってお前の力が露見して魔女だとバレたらどうする?」


「だって幽霊とやらは夜に出るらしいんですよ。日によって時間も違うから、タイミングよくお屋敷にいないと見れないじゃないですか」


 レナルドの話によると、幽霊はイリスから帰って来た翌日から、突如現れたらしい。最初、自室で試験勉強をしている時に現れ、以降毎夜レナルドの部屋に現れるようになったと言うことだ。


「で、肝心の家主は何をやっている」


 サミュエル様はレナルドの報告を受けて、遭遇したレナルドの部屋に行ったが、目の前にいるのにサミュエル様には幽霊は見えないと言われたと言う。


 状況を説明するとハインリヒ様は片眉を上げて訝しんだ。


「気のせいじゃないか?イリスから帰って来たばっかりで疲れてたんだろ?」

「疲れのせいで毎日現れるんですか?」

「勉強のしすぎとか」


「それはあり得ますが、そうとも言いきれないと思うんです。私の予想ではあるんですが、この幽霊とやらは見える人と見えない人がいるはずなんですよ」


「どういうことだ?」

「まだ確証はないので、まずは確かめないと。マジメなレナルドが勉強にも手がつかないほど悩んでいるなら友達として黙っていられません」


 ハインリヒ様は口を閉じて顎に手を当て考え込んだ。おもむろに私の手をつかむと、目をじっと見つめる。


「泊まるのか······男の家だぞ?」

「『友達』の家です。何をそんなに心配しているか分かりませんが、ハインリヒ様も一緒なら許してくれますか?」

「一緒に?」

「少なくとも私は、頼って相談してくれた、しかもやっと出来た友達に対して『行かない』という選択肢は選びません。私一人で行くことが駄目なら、同伴者になってついてきてください」


 なおも食らいつく私に美しい髪を軽くかきあげて眉を寄せる。


「でもな······」

「ハインリヒ様、私は友達を助けたい。魔女とバレて嫌われてもいい!やっと出来た友達なんです。それに、本当に隠しているのは、魔女であることじゃないもの」

「ああ、そうだったな。······わかった。俺も行こう。一人で行かせるには心配すぎる」


 ため息を漏らすハインリヒ様に、私は微笑んだ。


 私は知っているのだ。


 いつもはどんなに厳しい師匠のフリをしていても、いざとなったら彼が私に甘いことを。



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