2-13
翌朝、私達は名残を惜しみつつイリスの街を後にした。
イリスから転移門を抜けて王都転移門に到着し馬止めに行くと、小高い丘にあるこの転移門からは王都の街並みが見えた。
一気に現実に引き戻された気がして、ララもレナルドも悲しそうにしていた。レナルドに至っては口をへの字にして目が潤んでいる。
「楽しかったね。また行こうね!」
「うん、またみんなで遠出したいね」
軽く挨拶を交わしそれぞれ別の馬車に乗った。
「楽しかったか?」
馬車の中でハインリヒ様は優しく聞いてきた。
「楽しかったです。楽しすぎて、終わってしまったことが悲しいです」
「また、行けばいいさ」
「······ハインリヒ様は楽しかったですか?」
「ああ。あいつらとつるんだのは何時ぶりかな。たまには悪くない」
フッと笑みを溢すハインリヒ様に私は安心した。
「ハインリヒ様はお土産は買いましたか?」
「ああ、家の者に少し。お前は?」
「私もメイドさん達とパパとママに。あと、これ」
ガサゴソとバックから出したのは小さな紙袋だ。
「これはハインリヒ様に」
「俺に?」
「リボンです」
クラーケン退治の際に、大事なリボンを紛失してしまったので代わりのものを買ったのだ。
紙袋からそっと取り出してハインリヒ様に2種類のリボンを見せた。
「無くした紺色はストライプでしたが、これは白と紺色のグラデーションなんです。素敵でしょ?あと、イリスの海色のエメラルドグリーンのリボンも買ったんです」
「お前はなんでいつも俺の髪にリボンを着けたがるんだ?」
「駄目ですか?」
「駄目じゃないが······なんでだ?」
首を傾げるハインリヒ様は、アイスブルーの長い髪がサラサラと揺れる。
「あなたみたいな綺麗な人、見たこと無かったから」
訝しげに見ていたハインリヒ様の瞳が大きく見開かれ、唇がキュッと結ばれる。
照れながら私はえへへと笑った。
「ハインリヒ様の綺麗な髪大好きです。美しいリボンを結ぶと、絵本の中の王子様みたいに見えるんですよ。いや、本当に王子様なんだけど」
折れないようにをそっと両手で包んでいたリボンを丁寧に巻いて紙袋の中に入れた。
「ヴァンゲンハイム家は私にとっては大事な場所だけれど、それとはまた別でハインリヒ様は大事な人なんです。あなたは私が見てきた中で最も美しい人だから汚したく無いんですよ。綺麗なものは大切にしないと。大事にしないと。壊れちゃうのも傷つくのも嫌だから。だから、私が守らなくちゃ」
「ティアナ······」
「私には宝物みたいに見えるんですよ。あなたの髪も、その綺麗なお顔も、このリボンも」
本当はもっと上手な言葉で伝えられたら良かったけど、今の私にはこれが精一杯。
視線の先にいる彼は、最初に会った時よりも、守ると勝手に誓ったあの冬の日よりも、美しく見えた。
「ハインリヒ様に買ったリボンだけど、やっぱり私が保管します。明日の朝、何のリボンを結ぼうか考えるのが楽しみだから。色はね、私が選ぶんです。へへ。私の宝物には、私が自分で決めた色のリボンで飾りたいから」
きゅっと紙袋を抱き締めた。
「····なのは俺じゃなくて······」
「····え?何ですか?」
うまく聞き取れず聞き返すとハインリヒ様はプイっと顔を窓に向け、視線を逸らしてしまった。
「今度はお前が着飾るものを俺が買ってやる」
「······ハインリヒ様?」
「俺は、お前に髪を結われるのは嫌いじゃない」
「本当ですか?!では、以前からお願いしてた通り、夜の手入れもやらせてください!」
「だめだ」
「どうしてですか!嫌じゃないっていったじゃないですかぁ」
うーと唸りながら私は口をへの字に曲げた。
「お前······夜に男の部屋に入るって、どういうことかわかってんのか?」
「え?どういうことなんですか?」
「······何でもない」
「何で顔が真っ赤なんですか?」
「うるさい······!」
「なんで怒ってるんですか??」
「怒ってない······!」
なんかまた、間違えたらしい。私は定期的にハインリヒ様の地雷を踏む癖があるようだ。
屋敷に戻るまでずっと、彼は窓の外を真っ赤な顔したまま眺めていた。真っ赤な顔でも綺麗な顔立ちの彼は絵になるなと私は思った。




