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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第2章 クラーケン
25/139

2-12

 


「きゃー!凄い!パチパチいってる!」

「ピンク色の火だ!凄いな」


 コテージに戻ってきた私達は、夕食の後花火をすることにした。


 師匠達は昨日のようにベンチでワインを呑んでいた。


 私達は小さな焚き火を作り、帰り際に買った沢山の花火を次々に点火させる。色とりどりの火がパチパチと音を立ててとても綺麗だ。


「楽しーなあ」

「何でそんな悲しそうな顔しながら言うの」


 ララに突っ込まれながらも、レナルドは眉は八の字のまま花火を点火した。


「だってさ、明日には王都に帰るんだぜ?」

「あー!それ言わないで!」


 ララは耳を塞いでイヤイヤと首を振った。


「レナルド達は二週間いるんじゃないの?」


 私は緑と黄色の火花が散る花火をぼんやり見ながら見ながら言うと、レナルドはゆっくり首を横に振る。


「師匠が休暇は冬に持ち越して、今回は王都に戻るってさ」

「帰ったら試験勉強しなきゃね」

「うっ!やめろよ。しかも一番勉強してないお前が言うなよ」

「真面目なレナルドにしては珍しいね。勉強得意なくせに」

「······あんまりにも楽しかったからさあ。なあ、マティアスさん?」

「そうですね。あんなアルレット様や、こんなアルレット様を多方面から見れて僕も大満足です」


 相変わらず、マティアスさんはアルレット様のことしか気にしていないようだ。


「失礼ですがマティアスさん。なんかアルレット様の弟子と言うより専属秘書か執事みたいですね」


 旅の恥も失礼さも、せっかくなのでぶつけてみると、マティアスさんは眉一つ動かさず私をチラリと見た。


「当たりだよ、ティアナ」

 ララが言った。

「何が?」


「僕は今は弟子としてアルレット様にお仕えしてますが、あと半年したら魔術秘書になる予定です」

「へ?マティアスさん、魔術師にはならないんですか?」


 驚きのあまりすっとんきょうな声が出た。


「なりませんよ。魔術師になったらアルレット様の元から独立しなくてはならないじゃないですか」

「そうですが······独立するの嫌なんですか?」

「ええ嫌です。僕のアルレット様への愛はそんじょそこらの人間には語れないぐらい深く重いです。だからこそ、僕は彼女の元を離れる気はありません」

「そ、そうなんですか······あの、魔術秘書って具体的にどんなことするんですか?」


 初めて聞いた職業に私は興味深々だ。


 マティアスさんは新しい花火に火をつけ始める。赤い火が出てバチバチと音がした。


「弟子会である程度知識や実践を学んだ弟子は試験に合格しなくても十分魔術に精通してます。そういった知識のある補助役が魔術師の側で、仕事の細かい調整から魔術の下準備まで行うのが魔術秘書です」

「なるほど。そんな職業があったんですね」


 魔術師の他に魔力を使える仕事があったなんて。しかも試験がいらないなんて最高だ。


「ええ。但し表立って仕事は出来ません。資格を保持してませんから。あくまで魔術師の名前を借りて動くサポート役です。ただ上層部の魔術師には必ず優秀な魔術秘書がついてますよ」

「え?そうなの?」

「お前はもうちょっと勉強しろよ」


 レナルドに怒られた。つまり、魔術師達の中では当たり前の仕事であるということか。


「でもやっぱり優秀でないといけないんですよね」

「いや、むしろ何があっても師匠を裏切らないという気概の方が必要です。資格が無い以上、いつ首を切られても文句は言えません。ですから、何を命令されても受け入れるという忠誠心は絶対に必要になります」

「ち、忠誠心······」

「ティアナさんは、例えばハインリヒ様に何を命令されても、あなたは受け入れられますか?それがどんなに酷い所業であっても」

「酷い所業?!」


 マティアスさんは火花が散る花火を私に向け、銀ぶちの眼鏡をくいっと上げた。


「僕はアルレット様に鞭で打たれようが、魔法陣で焼かれようが彼女の側にいます。何をされたとしても、何があってもです。例えアルレット様に配偶者が出来ても、愛人が出来てもお仕えします。彼女は僕の全てですから、僕の人生を賭してアルレット様の仕事も人生を守りサポートしていきます」


「す·····凄い気迫です。アルレット様の公式ストーカーみたいな感じですね」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めてませんけど······でもある意味尊敬します」


 ララはじっと私の方を見ていた。


「ティアナもハインリヒ様の魔術秘書になりたいの?」

「······どうだろう。わかんないな」


 忠誠心を持って、 魔術師の補助をする魔術秘書。何をされても受け入れる、か。私はハインリヒ様をどこまで受け入れられるだろう。


 火が消えた花火からは煙がくゆる。魔術秘書になった自分を想像してみたけど分からなかった。


「聞いてくる!」

「え?!ティアナ?!」


 私は花火を持ったまま、ワインを呑んでいるハインリヒ様のところに走った。


 息を切らして走ってきた私を見てハインリヒ様は少し驚いていた。


「どうした?何かあったか?」


 心配してくれる優しい師匠を目の前にして、私は一度心を落ち着かせてから聞いた。


「ハインリヒ様、あの」

「なんだ?どうした?」

「わ······私が魔術秘書になったら鞭で打ったり、魔法陣で焼いたりしますか?」

「は?!」


 隣でクスクスと笑う美しい声が聞こえる。


「マティアスに何か吹き込まれたのね。それは完全にあの子の妄想よ?」

「そうなんですか?でも······」


『配偶者が出来ても、愛人が出来てもお仕えします』


 マティアスさんの言葉が頭を掠めた。


 ハインリヒ様に配偶者や愛人が出来た時、私は今と同じようにお仕えできるだろうか。


「ハインリヒ様、作るのは配偶者までにしてください」


 結婚はどのみちするだろう。これだけ見目麗しい元王子だ。女性達が彼に群がっているのを見るのは一度や二度ではない。


「何言ってるんだお前は」

「愛人はちょっと······」


 それでもやっぱり、愛人は止めて欲しい。私の受け入れ枠はマティアスさんのそれより狭いらしい。


 がっと大きな手で頭を掴まれた。


「ティ~ア~ナ~!」

「いたたたたた!!痛いです!!」

「勝手に何を想像してるんだ!」

「愛人は応援できません!アルレット様みたいな美人の奥様を娶ってください!」

「誰も娶らん!妄想するな!」


 ぎゃあぎゃあと喚く私とハインリヒ様の横でアルレット様とサミュエル様はニコニコと笑っていた。



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