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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第2章 クラーケン
24/139

2-11

 


 しっかりと昼食をたいらげ、私達一向は水族館へ向かった。海辺の水族館だけあって、海水をそのまま引き込み大型水槽を幾つも並べ大小様々な魚を回遊させている。


 青く少し暗い水槽を見ているとまるで自分が海の中にいるようだ。


 昨日海中で、ハインリヒ様が一人泳いでいる姿を思いだした。あの時、ノエルが見つけてくれて本当に良かったと今さらながら思う。



 ララやレナルド達はふれあいコーナーで餌をあげるのに夢中だったのたで、少し離れた大型の水槽のエリアを私は1人で見ていた。


「餌やりはしなくていいのか?」


 ぼーっと見ていると、声をかけてきたのはハインリヒ様だった。


「餌もごはんも毎日あげてる身ですから。今日はいいかな」


 冗談のつもりで言っただけなのに、ハインリヒ様は少し悲しそうな顔をした。


「昨日、海の中まで助けに来てくださったお礼、まだちゃんと言ってませんでした。有り難うございました」

「あんなの、礼を言われるほどのことじゃない」

「嬉しかったんですよ」

「助けるなんて当たり前のことだろ」


 ハインリヒ様は真っ直ぐに私を見ていた。青い水の光がガラスを通して彼の体も青く染めているように見える。


「でも、無理はなさらないでくださいね」

「······どういうことだ?」

「私はいざとなったらノエルがいるから、いくら意識を無くそうが血を吐こうが傷つこうが、おそらく生き残ると思うんです。でもあなたは生身の体一つだから······。自分のこと大切にしてほしいんです」


 大きな水槽で泳ぐ魚達を見ながら、あの時彼が溺れでもしたらと思うと少し怖かった。


「······お前なら血を吐いて傷ついても構わないと?」

「私にとって大事なのはあなたが笑って生きてくれることなんです、ハインリヒ様」

「お前が泣いていても構うなと言うのか?」

「泣かないですよ。私はメンタル鬼強いんですよ。だって弟子会入るまで人間の友達1人もいなかったんですから」

「そんなことで胸張るなよ。俺は······お前にだって笑ってて欲しい。傷ついて欲しくないし、泣いて欲しくもない」


 どうしてこの人は······と思った。


 人のことばかり考えて、あなただって、苦しいことたくさん抱えているくせに。


 私のことじゃなくて、自分の幸せを願って欲しいのに。


 目線を水槽に戻し、悠々と泳ぐ魚達を眺めた。


「昨日は焦っていたけど、水の中って綺麗ですね」

「ああ」

「海にこんなにたくさん魚が泳いでいたなんて、知りませんでした」

「海はもっと広い。もっとたくさんの魚がいる」

「ハインリヒ様と来れて良かった。凄く楽しいです」

「また、一緒に来れるよ」

「ふふ、楽しみですね」


 深くて青い大きな水槽を二人で見つめた。


 泣かないと言ったのに、海より深くて優しい青を知ってしまったから、ほんの少し目頭が熱くなるのを私は必死に誤魔化した。




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