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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第2章 クラーケン
23/139

2-10

 


 翌朝、支度を終えた私は朝食より少し前にハインリヒ様のとサミュエル様のお部屋を訪れていた。


「今日はレモン色のリボンにしますね」

「何でもいい」


 丁寧に櫛を入れて絹のようなハインリヒ様の髪を梳かす。昨日海に入られたので傷んでいないか心配だったが相変わらずの美しいアイスブルーの髪で安心した。


「ティアナちゃん、毎日これやってんの?」


 髪を梳かす様を見ていたサミュエル様がベッドに横たわりながら聞いてきた。


「はい。朝のお(ぐし)の手入れは私が志願してやらせてもらってます。誰にも譲りません」

「お(ぐし)って······貴族じゃあるまいし。ああ、でも毎日女の子に髪触られるとか、本当に羨ましいんだけど」

「レナルドに触ってもらえば良いのでは?」

「全然嬉しくないぞ。あいつは男だ」


 さらりと流れる髪にリボンを結んだ。


「出来ました!ハインリヒ様」

「そうか。じゃあ、行こう」


 アイスブルーの髪を優雅に揺らしハインリヒ様は先に階段を降りていく。私も後を追って降りるとサミュエルさまがボソリと呟いた。


「ハインリヒもホントお坊ちゃん体質だよな。髪の手入れを当たり前にさせてるんだもんな」

「私はホントは夜もやりたいんですが、ハインリヒ様はシャワーを終えるタイミングで呼んでくれないんです。声をかけてくだされば夜中でも櫛を持ってお部屋に伺うのに」

「うん······ティアナちゃんはティアナちゃんで世間の男女関係を少し学んだ方がいいかな。なんか二人ともずれてんだよな」



 今日は、皆で市場見学と昼ご飯を食べに行くことにした。もう一度海で遊びたい気持ちもあったが、市場なんて初めてだったので、これはこれで面白そうである。


 市場は見たこともない魚や貝がたくさん並んでいてとても面白かった。クラーケンの被害からいつもより漁獲が少ないとお店の人が言っていたが、私には充分量があるように見える。

 私やララはこうした光景を見るのは初めてだったが、ハインリヒ様は以前にもみたことがあるようで私がキョロキョロと見るのを逆に面白そうに笑っていた。


 レナルドとマティアスさんはなんだか仲良くなっていた。二人でこそこそニヤニヤと笑いあっているのを何度か見かけた。レナルドに新たな交遊が生まれたことが何となく嬉しい。


 市場を抜けるとたくさんのお店が並んでいた。ララがフルーツジュースの店を見つけ、皆で飲みながらウインドウショッピングを楽しんだ。


 通り沿いに大小様々なお店が並ぶ中で、可愛らしい小さな雑貨屋を見つけた私はララと中に入った。

 ワクワクしながら幾つかの商品を手に取り、どうしようか悩んで唸る。


「何か欲しいのか?」


 様子を見にきたハインリヒ様が声をかけてくれた。


「俺が買ってやろうか?」

「だ、ダメです!これは私が買うんです!」


 焦りながら商品を手の中に隠して私は店員さんのもとに向かうと、ハインリヒ様は私の怪しげな態度に首を傾げていた。


 そこからまた歩き、近くのお土産屋さんも覗く。ヴァンゲンハイム家のメイドさん達やパパとママのお土産を買うとなかなかの荷物量になった。ララも持参したバックがパンパンだったし、アルレット様は大量の荷物をマティアスさんに持たせていた。


 お昼はサミュエル様がシーフードレストランを予約してくださっていた。


「ティアナは何にする?私シーフードパスタにしようかな。トマトのやつ!」


 私はララとメニュー表を睨んでいた。


「シーフードグラタンかシーフードピザで悩むなあ······むー」

「迷うなら両方頼め」

「え?!さすがに食べきれません!ハインリヒ様」

「俺が半分食べる」

「ハインリヒ様が食べたいもの食べれなくなっちゃいますよ?」

「いいから頼め。ほら、デザートは?」


 半分こしてくださるだけじゃなく何時ものようにデザートまで配慮してくれる優しいハインリヒ様に私は感動してしまった。



「ハインリヒやっさしー♡」

「うるさい」


 サミュエル様はニヤニヤと笑いながら頬をつっついていた。流石同期、仲がいい。


 運ばれてきたピザもグラタンもとても美味しくて、みんなで食べれることが嬉しくて、半分ことか言いつつ6割は私が食べた上にデザートはレモンパイまで頬張る。


「ハインリヒ様、美味しいですね」

 とても幸せでそう言ったら

「そうだな」

 と笑ってくれた。


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