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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第2章 クラーケン
22/139

2-9



 バシャーン!と大きな音と共に私とハインリヒ様は海上に出た。勢いでそのまま高く宙に浮かび、ハインリヒ様はそのまま自身に浮遊の魔法陣を展開して宙に留まる。


「····っ!ハインリヒ?!無事か?!」


 叫ぶサミュエル様が私達に魔法陣を展開し、海岸まで二人で抱き合ったまま宙を浮かび移動させ、砂浜にドサリと落ちた。


「クラーケンはどうしたハインリヒ?!幼体がいただろう?!」

「倒した」

「は?1人でか?海中で?」

「ああ」


 ハインリヒ様は濡れた自分の髪をかきあげてから、じっと私を見た。


「怪我はないよな?」


 落ちた瞬間に離れたのに、ハインリヒ様は再び腕を掴み離そうとしなかった。


「ありません······あっ!!」

「なんだ?」

「リボンが、無くなってる······」

「ああ。仕方ないさ。······サミュエル、アルレット、とりあえず一旦俺たちは引き上げる。ティアナの体が冷たい。クラーケンはもういないからお前らは遊びたいなら遊べばいい」

「いや、それどころじゃねぇだろ。ごめんなティアナちゃん、囮に使うべきじゃなかった。一度皆で戻ろう」


 ララやアルレット様が私やハインリヒ様にタオルをかけてくれた。自分で歩くと言っているのにハインリヒ様はさっきから聞こえないフリをしたままコテージまで抱き抱えた体を離してくれなかった。


 コテージに戻るなり、熱いシャワーを浴びるように言われた。お湯を浴びると、思っていた以上に体が冷えていたのがわかり自分でもビックリした。


「ティアナ、体調は平気?」

「全然平気。ララは?」


 体を心配してくれたララが、涙目で私の髪を自身の魔術で乾かしてくれた。ララの魔術はまだ不安定で風が、強くなったり弱くなったりしながらやっと乾いた。


 アルレット様はなんだかいい匂いのする化粧水と乳液を顔じゅうに塗ってくれた。


「ティアナ、夜はコテージ前でバーベキューだって。食べれる?」

「食べる!食べたい!」


 元気を取り戻した私はコテージを飛び出して、ララと調理の準備に加わった。


 魔術庁への報告を既に終えた師匠達はベンチに座りワインを先に呑んでいた。


 私達は、串にお肉や切った野菜を刺して焼いていく。野菜もお肉も大きくて直火で焼くととてもいい匂いがした。


「レナルド焼くの上手だね」

「俺、師匠の家だと料理もつくるんだぜ?」

「え?!嘘!」

「だって家には俺と師匠しかいねーもん」

「執事さんやメイドさんは?シェフはいないの?」

「は?いるわけねーだろ。家事は雇ってる通いのバーさん達だけだぜ。おまえんとこ執事がいるのか?」

「いるよ。私、魔術師資格試験落ちたらメイドで雇ってもらうつもりだもん。ララのとこは?」

「いるよ執事さん。メイドさんもシェフもいるよ。アルレット様、元は商社社長のお嬢様だもん。でも、サミュエル様ってアルレット様遠縁でしょ?」


「遠縁だからうちの親は商社にはいないんだよ~。普通に農業してるよ~」


 師匠達の家事情を語りながらどんどん串を焼いていると不意にサミュエル様が現れた。


「レナルド、串焼けた?お腹すいた~」

「はい、師匠。どうぞ」


 私も焼けた串を皿に入れて、ハインリヒ様に持っていった。

「ハインリヒ様、焼けましたよー。どうぞ」

「ああ、有り難う。体は平気か?」

「バッチリです。ハインリヒ様も体温めましたか?さっき冷たかったので」

「ああ、俺もシャワーを浴びた」


 少し安心した。でもいつも丁寧に梳いている髪は生乾きで下ろしたままになっていた。部屋から櫛を持ってくれば良かったと少し後悔してハインリヒ様の髪を手櫛で梳いた。


 横をみるとアルレット様もララから串を受け取り頬張っていて、その横でマティアスさんがワインをついでいた。


 三者三様の師弟関係、みんな違うけど、こうやって仲良くして親しくなれるのがとても嬉しかった。人間の友人が出来たのも師匠が出来たのも初めてだけど、仲良くなれるってこんなに楽しいものなんだと改めて思う。


「楽しい······嬉しいな······」

 フフっと独り呟いていたら

「良かったな」

 とハインリヒ様が隣で笑っていた。



 食後コテージに戻り再びシャワーを浴び直し、就寝前にアルレット様から美容体操を教わり、私達はベッドに入った。


 リン······と鈴の音が聞こえ、傍らにフワフワの毛皮がくっついているのを感じた。


「今日有り難うノエル。お陰でとっても楽しかったよ」


 こっそりと口にし、私は獣を撫でて瞼を閉じた。


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