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ヴァンゲンハイム家の魔術師  作者:
第2章 クラーケン
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2-2

 


 模擬試験の日程が決まったため、今年度魔術師資格試験を受験する人たちは剣術の稽古に来るより、自習室に行き勉強する人や、魔術練習室に籠る人が増えた。資格試験の対象外な私やララはいつも通り剣術の稽古をしていた。


「つまんないね。みんな勉強ばっかり」


 指導に当たってくれていた外来の剣術指南の先生も、試験が終わるまでは来庁回数を減らすというのでさらに参加者は少ない。


「ティアナも勉強すればいいじゃん。ハインリヒ様は模擬試験の結果悪くても何も仰らないの?」

「いや、多分めっちゃ怒るだろうなあ。アルレット様は?」

「師匠は、氷の笑みを浮かべそうだな」


 剣を下ろし汗を拭きながら私は遠い目をする。


「あーあ、なんか楽しいことしたいな。せっかくララと友達になれたのに。去年も何処にも行けてないし。一緒にどこか遊びに行きたいな」

「あ、それいいね!行きたい!せっかくだから遠出とか」

「いーね!夏になるし海とか!」

「わあ!私海行ったことないんだ!でも、遠出なら師匠の許可貰わないと······」

「そっか。そうだね」


 そうなるとハインリヒ様にもお願いしないといけないな·····と考えていた時だった。


「クラーケン」


「わぁ?!レナルド?!」


 ララの真後ろから現れたのはレナルドだった。


「クラーケンが出たらしいんだ。観光地イリス海岸で」

「クラーケン?でも情報が出たなら、魔術師が対処に行っているでしょ?」

「うん。師匠が呼ばれてる」

「サミュエル様なら大丈夫でしょ。レナルドも行くんでしょ?」

「うん······そうなんだけど」


 レナルドの目が泳いだ。


「こんにちは。可愛い弟子の諸君」


 またまたララの真後ろからニュッと出てきたのは、レナルドの師匠サミュエル・プレーガー魔術師だった。


「ははは、久しぶりだね。ララちゃんとティアナちゃん。しばらく見ない間に二人とも可愛くなったね」

「お、お久しぶりです······サミュエル様」


 サミュエル様は桃色の髪をフワリと揺らし笑った。目尻のホクロがやたらセクシーに見える。


「僕とアルレットとハインリヒには敬称つけなくてもいいって言ったのに。もっと親しげに名前で呼んでくれよ」

「それは······流石に、師匠に怒られます」


 ララは眉を下げて笑いながら答えた。


 サミュエル様とアルレット様、そしてハインリヒ様は若くして同期で魔術師になった仲間で、弟子会の頃からかなり仲が良かったという。各自の弟子が挨拶に回ると、決まって互いに氏ではなく名で呼ぶように言われるのだが、流石に天下の国家魔術師に向かって呼び捨ては出来ない。


「レナルドから聞いたかい?実はね、僕明後日からイリス海岸までクラーケン退治に行かなきゃ行けないんだよねぇ」


 両手を広げ、困ったように首を振る。


「た······大変ですね」

「頑張ってください」


 ララと私は取り敢えずレナルドの師匠に上部だけのエールを送る。困っている割にはやけに明るい。サミュエル様は昨年の魔物の退治数はハインリヒ様よりも数をこなしていたはずだ。心配など無さそうなものであるが。


「ほんと大変だよ。クラーケンのせいでイリス海岸は立入禁止になったんだ。夏のイリスなんて、美しい白浜と水着美女がいてこそ成り立つものじゃない?それをバカでっかいイカと、くそ真面目な弟子と過ごす?いやいやいや」


 サミュエル様は深く俯いたまま、また首を振りだした。


「君たちだって夏くらい青春を謳歌したいよね?ということで、二人とも一緒にイリスに行こう」

「ええ?!みんなでクラーケン退治にいくんですか?」

「いや、クラーケン退治はレナルドにやらせる。君たちは真新しい水着を着て僕とカラフルなジュースを飲んでくれるだけでいいんだ!」

「えっ?!師匠退治してくれないの?!」


 驚いたのはレナルドの方だった。なんだろうこの師弟は。


 サミュエル様はレナルドの突っ込みを無視し、私とララの肩に手をかけて瞳をキラキラと輝きながら話を続けた。


「大丈夫!さっきアルレットとハインリヒには依頼書を出したから!これで名目は三組合同のクラーケン退治だ。ね?きてくれるよね?何なら僕が二人の新しい水着一緒に買っ····へぶぉ!!」


 爛々と目を輝かしていたサミュエル様が視界から消えた。


 代わりに現れたのは、冷えた目のアルレット様と鬼の形相のハインリヒ様だった。




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