11ー6 十代目『贄の魔女』ティアナ 6
椅子から少し体を起こし、広いデスクの上で頭を抱えたヴァンゲンハイム魔術師は、私とノエルを見比べてため息をついた。
「本当に魔女か?」
「本当に魔女なんです」
「冗談だろう?······魔法をどこで覚えた?」
「妖精から教えてもらいました」
「······妖精が······見えるのか?話せるのか?······妖精が魔法を教えてくれるのか?」
「最近は話せます。小さい頃は何言ってるかよくわかんなかったですけど」
彼の眉間の皺が深くなる。
どうにも私は彼には不審に見えるようだ。まあ仕方ない。傍にはノエルもいる訳だし、私は絶滅したはずの魔女とか言うし。それはそれは不審に見えるだろう。
「前世······、前世から悪魔と友達なのか?前世覚えているのか?本当に?」
「はい。私が覚えているのは初代の『贄の魔女』だった頃の記憶だけですけど」
「初代······何度生まれ変わってるってるんだ?」
「私で10代目だとノエルから聞いてますけど」
「僕、ずっと友達だったよ」
ノエルはぶっきらぼうに合いの手を入れる。
「はははは······。壮大な友情だな。それで、悪魔を友達に持ち魔法まで使える君が、なんだって魔術師の弟子を希望する?」
から笑いのヴァンゲンハイム魔術師は若干目が虚ろだ。大丈夫だろうか。非現実的な話ばかりしていたので疲れてしまったのかもしれない。
「だから、魔力を使った稼ぎ口なんて、いまの時代魔術師しかないんですよ。魔法なんて、安易に外で使えないし、『魔女として生きていく』なんて言ったらパパもママも私が脳の病気になったと思っちゃうじゃないですか!」
私は手を握りしめ、必死に説明するが、彼の眉間の皺は深くなる一方だ。
「パパと····ママ······お前、いま何歳?」
「15です」
「魔女にも親はいるんだな。魔法使いとかじゃないのか?」
「パパは王都の役所で事務員してます。ママはお花屋さんでアルバイトしてます」
「······絵に描いたような幸せ家族じゃないか」
ヴァンゲンハイム魔術師は深いため息を漏らしてそのまま執務机に伏して、動かなくなってしまった。
「あの、やっぱりダメですかね?ダメならせめて魔術師様の家のメイドにしてもらえませんか?就職先、探してるんです。ダメなら他の魔術師にも当たらないといけなくて」
やっと顔を上げた彼は困ったような顔をして首を傾げた。長いアイスブルーの髪がさらと揺れる。こうして落ち着いて見るとやはり彼はすごく綺麗な人だ。
「随分現実的な魔女だな。ちゃんとした親御さんに育てられたお嬢さんじゃないか。はあ······わかった。他の魔術師のところに行かれると面倒だ。俺の弟子になるのを許そう」
「ほ······本当に?」
「ああ。ただ本来魔女である君に本当に魔術を使いこなせるかはわからないぞ。それと」
「それと?」
「俺の方にも魔法のいろはを教えてくれ。魔法も魔女も見たのは初めてなんだ·······」
「はい······!有り難うございます!わあーい!やったあ!!就職決まったあ!」
「良かったね、ティアナ」
疲れきっているヴァンゲンハイム魔術師の前で、私は万歳して喜んでいた。




