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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
強狂怖大森林
8/66

乱入

 俺と竜騎士達は、ミネルヴァ団長の救出のため竜の背に乗り戦場に向かっている途中だ。

 俺はチェスカの後ろに乗せてもらっている。

 いやぁ、竜からしたらたかだか十数㎞なんだが、如何せん出るは出るは、空飛ぶ化け物。

 昆虫タイプは当たり前鳥タイプもね。珍しいのは羽もないのに空を駆けてくる動物達と、タツノオトシゴっぽい何か、あと何だかネバネバしてそうな無形生命体、……スライムだろうか?

 ここ、結構な高度なんだけどね。


 聞いてみたら、フライングスライムなんて名前がついていた。

 可成り厄介な魔物で、不意に空から降ってくるらしい。取りつかれれば強力な酸で溶かされ捕食されるそうだ。

 倒すには強い衝撃を与えて飛散させるか、燃やして蒸発させるのが有効だって話だ。

 現に飛んできたスライムに少女の一人が火球を放って倒している。


「もー、気持ち悪いんだから来ないでよ!」


 と、ぷりぷりしている姿は可愛らしいが、場にそぐわないんじゃないかな。


 そんなこんなで、足止めされ中々現場に着けないでいる俺達だ。

 急がなくては団長さんが危ないんだ、これ以上は出てくんなよ!

 飛び掛かる蜂の群れをレーヴァテイン(笑)で薙ぎ払いながら少々焦り始める。

 この魔物達も崩狐(コラプス・フォックス)の仕業だろうか。あ、今は崩狐じゃなくて(ペェリィシュ)(・フォックス)に進化してるんだっけ。

 出掛け前にグラウクスが言っていたのを思い出す。


『滅狐は崩狐の進化した魔物、その力はSランクに到達し事実上討伐不可能。主は決して助けに来るなと仰っていた。お前達に滅狐を倒すだけの実力はない、大人しく帰還せよ』


 そのグラウクスはヤクラの肩に乗り大人しくついてきている。ヤクラ達の必死の説得が功をなした結果だ。


 あの時、救出を決定した俺達は天幕を出た所でグラウクスと会いああ言われたのだ。正直SだのAだの違いが分からん俺には関係がない。ただ助けるだけだ。

 しかし、彼女達はそうはいかないのだろう。

 最大の尊敬と信頼を寄せる団長さん。その団長さんを打ち破るだけの実力を証明した滅狐に恐怖し、また何が何でも救出しなければと決意もした。

 で、帰還を第一に考えるグラウクスに案内を願い出て口論となり、激論を交わした末に協力を仰げた訳だ。内心グラウクスも主を助けたかったんだろう、どことなくホッとしたように感じられた。

 だが、こんな所で、もたついていては何時また『帰還せよ』なんて言われかねない。


「チェスカ!このままじゃ間に合わないかもしれない。二手に別れないか?」

「そうですね。選別はどうしますか?」


 チェスカも焦っていたのか、あっさりと賛成してくれた。


「地上から俺が一人で先行する。その方が目立たずに済むからな」

「なっ、それは危険過ぎます。せめて何人か連れていくべきです。私が行きます!やらせて下さい!」


 空から行く事は出来ない。何故なら戦力を分断して、同じように襲われれば対処出来ないからだ。


「いや、俺一人の方が動きやすい飛竜がいるとどうしても目立つからな。それに、ここでは俺は役に立たないから」

「そんなことはありません。今だって強襲蜂(アサルト・ビー)を追い払ってくれたではないですか」


 う~ん、早く助けに行きたいのは分かるけど、役割分担が出来ていない。

 本来、竜騎士であるチェスカは何の枷もなく空を縦横無尽に飛び回り敵を討つものだろうに、俺を乗せているせいでアクロバティックな動きを見せない。他の皆はそうしてるのにな。

 逆に俺は、大地に確りと両足を踏みしめて戦ってこそだ。空では足場に困るのよ。

 ってな訳で、やっぱり俺は地上から行きたい。


「悪いなチェスカ!俺は地上から一人で行くわぁ」


 言いながらとっとと竜の背の上から飛び降りてしまう。


「無理せず後から来いよチェスカ!」

「ちょっ!お兄さん————!!!」


 チェスカの驚きの声は、落下に伴う風圧で搔き消され聞こえなかった。

 ドスッ————!と、地面に降り立ち、上を見上げれば無数の魔物達と戦う竜騎士団の姿が見える。


「さてっと、どっちに行けばいいんだっけ?」


 方向がわからん。だが問題は無いと踏んでいる。何故なら俺には頼もしい仲間たちがいるからだ。


「おーい、超強い狐の魔物は何処か知らないか?」


 誰もいない場所で声を上げると、当たり前のように返事が返ってくる。


『向こうだよ。向こうで狐が暴れてたよ』

『行くなら気を付けなさいね。そこいらの魔物とは格が違うわよ』

『おう、アレに挑むとは根性の据わった奴だな。気に入ったぞ!』

『早く、早く行かないとお姉さんが死んじゃうよ!』

『狐は人だわさ』


 植物達である。

 最後に良く分からないことを言っている奴もいるが、助かったよ。


「ありがとう、感謝するよ」


 一声掛けてその場から走り出す。

 ここは深い森だが木々が密集している訳ではないので、割かし走りやすんだ。


 全速で走ること数分、今まで何故気付かなかった!ってくらいの凄まじいプレッシャーを感じる。

 豚将軍(オーク・ジェネラル)鬼悪魔(オーガ・デビル)とは比ぶべきもない格上だと直ぐに分かる。コレは早まったかな。一人で対処出来る相手ではないかもしれない。

 急がねば、覚醒の実を使って俺と団長さんで相手取る算段だが、彼女が殺られてしまえば俺一人で皆の撤退時間を稼がなくてはいけなくなる。

 背中に冷たい汗が流れるのを無視して走り続けると、戦闘の跡だろうか、デカいクレーターが二つ視界に入って来た。

 よりデカいクレーターの真ん中には純白の竜が倒れている。

 チェスカ達の竜とは明らかに違う高貴なオーラとでも言えばいいのか、そんな雰囲気を気を失った状態でも放っている。

 クレーターの脇では何人かの少女と飛竜達、一匹東洋風の龍が混じってはいるが、気を失い倒れている。

 あの娘達が団長さんの連れて行ったと言う古竜騎士団の精鋭達メンバーだろう。聞いていた特徴と一致する者達だ。

 だが、肝心の滅狐が見当たらない。勝利し立ち去ったか?

 ……いや、未だ奴のプレッシャーを感じる。バカデカい気配の為、正確な位置が特定できない。

 辺りを見渡してもそれらしき姿は見当たらないんだが。


「ん?」


 純白の竜の陰から誰か出てきたぞ。……おいおい!裸じゃないか。

 目のやり場に困り視線を逸らすと、


『目を逸らしちゃダメだよ!』

『アレが狐だよ!』

「!!!」


 は?アレはどう見ても人間————、いや、良く見ると狐らしいミミとシッポがふわふわ揺れている。

 って、しまった!ホンの一瞬気を逸らしただけで奴は距離を詰め、すぐそこまで来ている。


「ちっ!」


 レーヴァテイン(笑)で狐の爪撃を受け止める。


「!」

「くっ」


 一瞬、驚きの表情を見せた滅狐だが、瞬時に気持ちを切り替えたのか連撃を仕掛けてくる。

 その全てをレーヴァテイン(笑)で防ぎきるが、なんちゅう速度と馬鹿力だ。燭台切光忠を抜くことが出来ない!

 厄介なのは相手が裸なのがいかん。

 若い女性がなんちゅう格好で戦闘しとんねん!目のやり場にこまるし、なまじ美人なものだから集中出来ん!


 そんな余計なことを考えながら、滅狐の猛攻を受け止め続け視界に入る女性達を観察する。

 息はある、死んではいない。

 なら助けられる、早く覚醒の実を食べさせられれば救いはある。……が、滅狐がそんな時間をくれないでいる。くそったれ俺自身食べられないじゃないか!


「コイツのステータスは!」


 鑑定宝珠は収納環ではなくポッケに入っている。収納環だと取り出してから使わなければならないからだ。ポッケなら上から触るだけで鑑定が可能だ。だが、その隙すら与えてはくれない。鑑定は諦めよう。

 Sランク、まさかこれ程とはね。パワーもスピードも俺より上、稚拙な攻撃だから受け止めることが出来ているだけだ。ただ引っ搔きに来てるだけだからな。

 もっとも防ぐだけで手一杯だけどな。攻めたいけど攻められない、それ程の猛攻を何とか凌ぎ切る。

 くそっ、眼前で何揺らしてくれとんじゃ!


 実は打開策はあるんだよなぁ。謎の命名スキル【名前付与(ネーム・グラント)】を、装備している武具に使い性能を格上げしてやればいいんだ。

 良く分かっていないスキルだが、試す価値はあると思う。

 確か付けた名前に因んだ能力を得るんだったか。神話級の名前を付ければ強力な助けになるんじゃないだろうか。

 よし、試しに今履いているタラリアブーツに名前を付けてみよう。って、既に品名が神話級の名前じゃんか。

 これどうするよ、そのままタラリアでもいいのか?

 ……ええい(まま)よ、お前の名は今から【タラレバ】だ!


 ————————?


 はっ、間違えた!!!

 タラレバって何!タラリアでしょうが!

 ヤバイ、不味い不味いぞぉ~やり直しを要求するぞぉ!出来るのか?


 って、あり?何も起きないぞ。失敗?まさか声に出さないといけないとか?

 マジか、は、恥ずかしいじゃないか。


 !!!


 アホなこと考えている間に、滅狐が突如として今までにない動きで攻め始めてきた。爪だけでなく蹴りや魔術を織り交ぜてきたのだ。

 不味いな、単調な攻撃だったから今まで防ぎきれていたんだが、技を追加されると非常に厄介だ。

 くそっ、どうしても見ちゃいけないとこに視線がぁ~!

 だから集中しろよ俺!


 滅狐の蹴りを腕でガードしたら吹き飛ばされた。

 もう、集中できなさ過ぎて何が何だか分からなくなってきたぞ!


「だ————————、服ぐらい着ろよ!集中できんだろうがぁ~!」


 あっ⁉ 文句言ったら静止した。動かなくなったんだけど?何かに動きを阻害されているかのようにウゴウゴ藻掻いている。


 ————————————!!!


 な、何だ⁉ 突然滅狐の足元から闇の様なものが湧き上がり、それは脚を伝い徐々に上半身へと昇っていった。

 滅狐は嫌がりその闇の様なものを掴み剥がそうと藻掻くが一向に取れる様子はない。

 闇は滅狐を完全に包み込むと、もぞもぞと蠢き、次第に形を取り始めた。

 蠢く闇は、滅狐を覆う花魁が着用する漆黒の美しい打掛へと変化を果たした。


 漆黒の打掛は、朱を基調とした煌びやかな金糸の入った帯を前結びで留めている。

 この前結びには、「家事とは無縁の一夜妻」と言う意味もあると聞いたことがありんす。

 その一夜妻ま不思議そうにペタペタと着物を触って首を傾げている。

 俺も不思議や。誰の仕業なのか気になるところだが、鑑定するなら今がチャンス!


 《鑑定不能》


 この役立たず!

 鑑定出来れば打開策の一つや二つ見つかったかもしれないのにぃ!

 滅狐を凝視してしまう。……あれ?

 鑑定不能とは別に見えちゃってるんだけど?アレ何?


《種族:|(ペェリィシュ)(・フォックス)

 名前:なし  加護:なし  ランク:S

 称号:Sの壁を越えし者(+全能力補正・10000)


 生命力:40000(+10000)

 筋力:89000(+10000)

 速力:75000(+10000)

 肉体強度:60000(+10000)

 知力:38000(+10000)

 魔力:88500(+10000)

 魔力抵抗:99999(+10000)


 魔術適性:大気、大地、回復

 種族スキル:【大霊力】【受肉】【霊魂存続】【幻影】【気配感知】【気配遮断】

 固有スキル:【獣聚蟲卒】

 上級スキル:【地脈吸収】【霊魔障壁】

 スキル:【獣体術】【俊足】【飛翔】【吸収効果上昇】》


 なんじゃこりゃ、見なきゃよかった。


《冥黒の打掛、B級品、レベル1

 神の力で創造されレベルを得た着物。秘められた能力は計り知れない。

 防御:+2185、速力:+77、魔力抵抗:+1425

 スキル:【身体強化】【特攻緩和】【自己修復】【清浄】【主人登録(只一人の主)】》


鼈甲髪挿(べっこうかんざし)、C級品、レベル1

 神の力で創造されレベルを得た簪。べっ甲を素材とし、財産、長寿を象徴する物として申し分ない一品。

 防御:+35、魔力抵抗:+574、運:+125

 スキル:【大招福】【生命保険】【自己修復】【主人登録】》


《冥黒の花魁おこぼ、C級品、レベル1

 神の力で創造されレベルを得た下駄。動き難い見た目に反し速力を強化する。

 攻撃:+200、防御:+68、速力:+1839

 スキル:【脚力強化】【縮地】【自己修復】【主人登録】》


 何の冗談だ、ただでさえ強い滅狐が更に強化されてるじゃないか。

 これはマジでヤバイ、いろいろとヤバイ!

 どこの神だ!神が干渉してくんなよ!

 特にヤバいのは【特攻緩和】【生命保険】【縮地】の三つだろう。


【特攻緩和】……特攻攻撃をある程度緩和する。

【生命保険】……黄泉帰りが可能となる。たとえ霊魂が砕かれようとも蘇生する。但し、使用後は一定年数のクールタイムを必要とする。

【縮地】……地面を縮めたかのように一歩が広がる。熟練によっては一歩で数㎞を駆ける。


 獣に対する特攻は緩和され、倒したとしても黄泉帰り、逃げたところで瞬く間に追いつかれてしまう。

 滅狐自身死ににくいスキルが揃ってるし、数値がアホだし、やる気が削がれるし、どうするよこれ!


 自分自身を鑑定出来るか試した結果《unknown》としか出ないでやんの。

 はっ!じゃあ《タラレバ》は?


《品種:タラリアブーツ

 名前:タラレバ、A級品、レベル1

 もし~してい()()、もし~す()()をイメージじして(してない)名付けられた時空を駆けるブーツ、レベルに応じて、分岐点までの時間逆行を可能とする。もう誰にもザンネンブーツとは言わせない!

 攻撃:+560、防御:+700,速力:+2720、魔力抵抗:120

 スキル:【天駆】【気殺(けさつ)】【清浄】【時空回帰・Lv1】【自己修復】【主人登録】》


 おお!すっげぇー、間違えネーミングのタラレバさんが凄いことになってるぅ~。

 能力値が軒並み上がってるし、スキル性能が凄い!

 時空回帰ってのは……。

 

【時空回帰・Lv1】……タラレバを想像する分岐点まで時間を逆行させる。レベルにより、逆行出来る時間は伸びる。但し、神の御業故に大量の()()を必要とする。


 神気か。確か鬼悪魔が最後にそんなことを言っていたな。しまった、話は最後まで聴くべきだった。

 たしか神気を纏ってるとか何とか言ってたな。他の皆は何も言ってなかったけど大丈夫だろうか?

 不安はあるが、時間回帰を使うには覚醒の実が必要になる訳だな。残りの数は少ない、慎重に使い時を見定めなければならんな。


 滅狐は未だに身体をあちこち触っている。実は気に入ったんじゃないか?まぁ、お陰で鑑定する時間が出来て良かったよ。

 ハッキリ言って隙だらけだが、獣とは言え女性に不意は突きたくない。代わりに団長さんの居場所を把握しておこう。


 ………………………………。


 いた!硬い大地を抉り取り木々を薙ぎ倒した跡、それを辿れば、赤い髪の女性が、団長さんだ!

 不味いな、大量の出血に片腕がないじゃないか。急がないと手遅れになりかねない。

 そ~と、そ~とバレない様に移動して、出来る限り気配を消す。ふふふっ、タラレバには【気殺】という気配殺しのスキルがあるのだよ!……滅狐には【気配感知】があるんだけどね。


 タラレバレベル1の気殺と、滅狐の種族スキルの気配感知では、滅狐の気配感知の方が上な気がするんだけどね。……ほら、こっち見た!


「ちっ」


 思わず舌打ちしてしまった。速いんだもの、間に合わないんだものぉ!

 

 辛うじて奴の蹴りを躱したけど、団長さんには近づけていない。100m位あるだろうか。

 誘導する訳にはいかないのでこの場で踏ん張るしかない。迎撃しなければ!


「おおおぉぉぉ————————————!」


 気合一閃、レーヴァテイン(笑)を右薙ぎに振るう。軽く受け流されてしまうが、次々と攻撃していく。

 最初とは逆に攻めに転じているが、滅狐には余裕が垣間見える。ちょくちょくと反撃してくるのだ。

 お互い相手の攻撃を躱し、攻撃を仕掛けるの、繰り返しになってきた。

 だが、忘れてはいけないのは奴には魔術があるということだ。そう、滅狐は遠距離攻撃を可能とするのだ。

 鬼悪魔程度の魔術ならレーヴァテイン(笑)と玉龍鬣の外套でどうにかなるだろう。だが、奴があの程度とは思えない。距離を取るのは得策とは言えないだろうな。

 なんて考えてると、不意に滅狐が大きく後方に距離を取った。不味い、魔術だ!

 ちっ、俺は間を置かずに距離を詰める為前に出る。


『『『ダメ!避けて!』』』


 ————————————————————————!!!


 植物達の忠告に、間髪置かずに後退する。何だ!今度は何なんだ!


 バシュっと短く音を鳴らせ一筋の光線が地面を穿つ。

 一拍遅れて地面が赤く濡れる。大量の血液によるものだ。


「な、てっ、何しやがるテメェー!女性を背後から打ち抜くとはどうゆうつもりだぁ!!!」


 そう、撃たれたのは俺ではなく、奴に背を見せ立っていた滅狐の方なのだ。

 背丈は俺ぐらいだろうか?この世界には不自然な短パンとアロハシャツを着た若い男。

 波立つ深紅の髪にどす黒い赤の瞳、イラつく程落ち着いた態度で短パンのポッケに手を突っ込み、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


「はあ?可笑しなことを言う奴だな。結果的に助けてやったんだろうが。文句言われる筋合いはねぇなぁ」


 胸に大穴を開け倒れる滅狐が視界に入る。

 大地に真っ赤な池を作り、横たわる滅狐はピクリとも動かず、50000もあった生命力は今は0を示している。

 滅狐は団長さん達を痛めつけた敵だが、敵なんだがっ、どこか憎めないところを感じていたんだ。決して卑怯にも背後から狙って来ることはなかった!短い戦闘だったが、常に正面から真っ向勝負を挑んできた。そんな彼女に卑怯にも気配を消して近づき、背後から狙い撃ちにするなんて許せる筈がない!


「ああぁ!頼んでねぇし、寧ろ、いらんお世話なんだよ!」

「はっ、獣一匹死んだぐらいで吠えるなよ、小僧!」


 ああん、コイツは何を言ってんだ。コイツには今の滅狐が獣に見えるのかっ!

 着物が現れた時の不思議そうな、どことなく嬉しそうな姿は、子供っぽいが人のそれだったぞ。


「お前からはあの男の匂いがする。お前、奴の眷属か?」


 本当に何言ってんのコイツ?


「誰が、誰の眷属だって⁉知らねぇな、んなこたぁ!」


 覚醒の実を使って時空回帰して滅狐を助けるか?

 ん?何で助けるんだ?自然とそんな考えが浮かんだ。


「ああ、時間操作をしても無駄だぞ。神にはスキルなど利かないからな。時間の概念など俺達には無意味だ。神を倒したければ神能を使え」


 大それた奴だな、コイツは自分が神だと言いたいのか?

 そもそも神能ってなんだよ。


「俺を封じたあの男の眷属なら、消しておこうと思ったんだがこうも小物だったとは。奴は何を考えていやがるんだ?」

「小物で悪かったな!」


 何なんだコイツはマジでムカつくんだけど!

 しかし、あの滅狐を一撃で下した奴だ、気が抜けない。


「まあいい、憂いは断っておくか。そこを動くなよ小僧、今消してやる」

「はいそうですかっ、っていくかよ!阿呆が!」


 俺は瞬時に肉薄しレーヴァテイン(笑)を振るう。奴は動かない、当たる————!


「なっ!!!」


 奴はそのまま頭で受け止め、ハエでも払うかの様に片手で払い退けやがった!

 何の痛痒も感じない、そんな態度だ。


「おいおい、何だこの棒切れは。まさかそれで俺とやり合う気じゃなかろうな。そんなものでは俺に傷一つ付ける事は出来んぞ。神能を使え、お前には使える筈だ。あの男の眷属なら少しはやるってところを見せな」


 兎に角、攻撃の手を緩めるな!奴に反撃されては滅狐の二の舞になる。こうなったらもうレーヴァテイン(笑)を振りまくるしかない。俺には神能なんて無いし何かも分からないからな。


「はぁ、本当に期待外れな奴だ」

「うっせぇわ!」


 渾身の一撃も無視され焦りが出てくる。


「くそっ、テメェの身体はどうなってやがんだよ」


 びくともしない。


「はぁ、つまらん。小僧、貴様は本当に小物だったようだな」


 (おもむろ)に片手を突きだし、俺の胸にあてる。

 なんだ?あまりに自然な動作で避けられなかった。う、動けない!


「落ちるがいい。あの男の眷属にしてはまるでダメだったぞ、小僧」


 奴が言葉を発した次の瞬間に、奴の手の平から放たれる力の奔流に押し流されるかの様に、俺の肉体は砕け散り、飛散し、大地の肥やしになったのだった。


「冥府であの男に文句でも言いな」


 奴は来た時同様にゆったりと踵を返し歩き始めていった。


 くそっ、結局誰一人助けることが出来ないまま死んでしまったじゃないか。

 無念だ!!!





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