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何もしてないのに神になった俺! ……何でだ?  作者: やまと
動くコダユーリオン
62/66

二つの戦場

 黒騎士団を迎え撃つため南下した新生第一第二軍団、また、魔銃騎士団を迎え撃つてめに出撃したアポロ、ディアナ率いる魔術騎士団(エンキ・ナイツ)は接敵すると同時に戦闘となった。

 王国軍と帝国軍を混成させ編成された第一、第二軍団、魔術騎士団の方は純粋な帝国軍だ。


 第一、第二軍団の指揮官はマルスとスクディアだ。

 帝国側からは、何故敗者を指揮官として戦わなければならないのか? と、不満の声が続出した。それでも、皇帝の命だと仕方なしに従っていた。

 そのような状態で連携が上手く取れる筈もなく、敵に虚をつから中枢まで攻め込まれ窮地に陥っていた。

 敵は不気味にも無言で突撃してくる。聞こえるのは味方の声のみ。

 死を恐れず、全身黒い鎧で覆われ表情すら見えない敵に、味方は気圧され浮足立っている。


「ちぃ、どうするッマルス、このままでは陣が瓦解するぞッ!」


 眼前の敵騎士に剣を振り下ろしながらスクディアが兄に向かって怒鳴った。

 彼が振るうはヴァッテレソード、嘗てフヅキに渡した剣だ。

 フヅキがユピテルに渡し、それが再び彼の元へ帰ってきたのだ。


「分かっているッ! しかし、帝国兵の奴等の士気が低い、逆に黒騎士団の士気は見ていても良く分からない! 余りにも不気味、これでは押し返すのは難しい!」


 此方も宝剣サングリエを振り下ろす。

 お互い敵に囲まれながらも、何とか二人背中合わせで共闘することで自身の身を護っていた。

 続々と敵騎士が雪崩れ込んでくる、その勢いは止まらずこのままではいずれ二人も力尽きるだろう。


「くっ、混戦状態で大規模魔術は使えん。地道に倒していくしかないッ!」

「しかし、数で勝っているとはいえ恐れを知らん奴等だ、時間を掛ければ瓦解するッ!」


 それを防ぐのは指揮官の役目だが、帝国から宛がわれた二人の副官達は既に何処かへと行ってしまい姿が見えず、指示を全軍に行き渡らせるのも一苦労だ。

 ジュピター皇帝はどうして軍を混成させたのか疑問に思う二人だが、今は余計な事を考えている余裕などない。


「こうなれば軍団長の首を落とすしか道はないッ!」

「待て、スクディアッ! 軍団長の黒騎士は先日化け物と化し討伐されている。奴の代わりをしている者が居る筈だ。奴等は何処から指示を出しているか見定める必要がある」


 黒騎士団の団長は表向き黒騎士だということになっている。本当の団長はアンバーであるが彼等はそれを知らない。

 先日黒騎士はテュポーンの欠片に憑りつかれ、トモエに憑依した黄泉津大神によって討伐されている。マルスはその報告をミネルヴァから受けている。


「何処から指示を出している。まったく指示する声が聴こえてこないぞ。これでは指揮系統が見定められん!」


 聞こえてくるのは味方の声と、金属がぶつかり合う音だけだ。


「ああ、……それにしても不気味な奴等だ。一言も声を漏らさず、斬られても呻き声すら出さないとは異常だ」


 また一人切り倒すマルス。すると、倒れた敵騎士の兜が剥がれ顔がむき出しになった。


「!!! なんだコイツ等はッ! すでに腐っているぞッ!」

「腐乱死体ッ! コイツはゾンビかッ! 馬鹿な腐臭などしないぞッ!」


 その顔は凄惨で、瞳は濁り白濁とし、肌は浅黒く変色、部分的には剝がれている。

 戦闘中故にチラ見に終わったが、確りと両の目で確認した二人は戦慄を覚える。

 腐乱死体がそこら中で戦闘をしている中、腐臭一つしないのは魔道具で匂いを抑えている為だろう。


「くそっ、敵の指揮官はネクロマンサーの能力者かッ!」

「或は死者を操る化け物かだな。不快だな、黒騎士団とは死者の軍団だったのか」


 嘗てみた黒騎士団はそのようなことはなかったと記憶しているスクディアだが、現に目の前の黒騎士団は死者が戦闘を行っている。

 元々ゾンビだったのか、それとも殺されてゾンビとなったのかは不明だが、どちらにしても非道な事をする。


 そして斬り倒された筈の敵騎士達が再び立ち上がる。

 味方からは悲鳴が上がり、恐怖の色が見え始める。このままでは敗走すら有り得るだろう。

 そこでマルスが大声を張り上げる。


「皆の者、聴けぇッ!ゾンビ共は火系魔術で対応しろ! 指揮官を見つけ出せッ! 指揮官ははネクロマンサーだ、奴を探せッ! そいつを倒せば全て終わるッ!」

「「「お、おおッ!」」」


 マルスの声に希望を見出し士気が一気に高まる。しかし、味方の軍勢は、恐れのあまり入り込んで来た敵を無視して敵陣へと流れ込んでいってしまった。


「なっ、まずいッ! 陣が崩れたッ!」

「馬鹿者共がッ! 戻れと言っても戻りはしないだろう。ここは陣そのものを押し上げるしかない!」


 我先へとバラバラに走り出した兵士達。コレを元に戻すには足の速い者に合わせて速度を上げさせ、一塊になる必要がある。


「だが、入り込んだコイツ等を放置すれば背後から攻められるぞッ!」

「少人数で対応させる他あるまい。マルス、お前は遅い者のケツを引っ叩いてこい。この場は俺が抑える!」

「な、なに? いくらお前でも不死身のゾンビを少人数で抑えられる訳あるまい!」

「いや、ゾンビとて不死身ではない。四肢を切り飛ばせば動けず、首を狩ってしまえば死ぬ。それに俺にはコイツ等が居る」


 スクディアの影から飛び出して来る二匹の獣。黒く艶のある毛並みの狼達。黒狼はスクディアに懐き両脇にチョコンと座った。


「な、なんだコイツは?」

「フヅキが俺に預けた頼もしい相棒達だ。名がないと言うので勝手に付けさせてもらった。コイツがブラック、コッチがダークだ。ブラックもダークも一騎当千の猛者だ、ゾンビ如き問題はない」


 フヅキが名を付けると名前付与(ネーム・グランド)の影響を与えてしまう。その為名付けしていなかった。スクディアは名がなければ都合が悪いと名前を与えていた。

 二匹の獣はスクディアの号令と共に影へと潜み、そして、ゾンビの影から現れ首を狩り取る。それをひたすらに繰り返していった。


「す、凄い。これならいけるッ!」

「ここは俺達に任せて行けマルスッ!」


 マルスは戦闘中で手の離せない者以外を連れて敵陣に突っ込んだ我が軍を追い、スクディアの方はゾンビ共に組み敷かれる者を助けながら戦場を回って行く。

 そして出会う。

 ゾンビの身体で覇気を放つ異常な個体を。

 スクディアはこの男の顔に見覚えがあった。それは嘗てアルカーヌムにて相見えた相手、名をサエビジアと名乗った男。

 印象では体格がガッチリとし良く喋る相手だったと記憶している。が、今はあれ程がなり立てていた男が一言も喋らず、巨漢と言える体格も随分と印象が変わって見える。


「ふん、少し見ない間に随分と落ちぶれたようだな」


 スクディアの皮肉に無言で巨大な斧を振り上げるサエビジア――。


 一方マルスの前には顔色の悪い、目の下にクマが出来た男が立ち塞がっていた。

 細く長い身体をやや前傾に曲げ不気味なニヤケ顔の男。

 マルスの知らない男だが、こちらもスクディアがアルカーヌムであった男。つい先日にフヅキに、スクディアと黒狼達によって殺された筈のジャック・ザ・アンバーだった。

 分身に分身を重ね暗殺に向かわせ、本体は安全圏で分身を操作していた。この期に及んで、眼前のこのアンバーとて分身である可能性もある。だが、マルスはアンバーが分身を創り出せる事を知らない。


「分かるぞ、お前がネクロマンサーかッ!」

「フヒョ、フヒョヒョッ! ネクロマンサーときました。貴方は見当違いをしているようですねぇ。あれはゾンビなどではないのですよ。あれは只の死体、死体を操り人形として動かしているだけなのですよッ!」


 応えた。それはつまり、この男が指揮官である事を示している。


「どちらでもいい、お前を倒せば終わりだということは変わらないッ!」

「フヒョヒョッ、その辺は当たってますね。確かに私を倒す事が出来ればアレ等は止まりますよ。倒せればの話ですがね。あれは頭を落としたくらいでは止まりませんよ。早くしないと大事な弟さんが死ぬこととなりましょう」


 思わず振り向くマルスだが、見えるのは仲間達が混戦状態で動く屍と争う姿だけだ。スクディアを確認する事はできなかった。

 それでも、遠くからの歓声が聴こえてきた。それはマルスや黒狼達が大いに活躍している証だともいえる。


「ふん、ハッタリはよせ。聞こえるのは歓声ばかりで悲鳴は聞こえてこない。どちらにせよお前を倒せば終わりだッ!」


 マルスは宝剣サングリエを構える。

 そこへ周りのマルスの部下達が主を護るようにアンバーを囲みむ。


「奴を殿下に近付けるなッ! 総員、かかれぇ――!」


 彼は嘗てギルティアラの鑑定に成功した兵士の上司、ユリウスだ。

 そのユリウスの命で一斉に襲い掛かるインペラートル兵。だが、アンバーは慌てる事無く冷静に対処してみせた。

 アンバーは跳びかかって来る兵士達の人数を素早く確認し、その人数と同じだけ分身体を創り出す。

 分身体を四方から襲い掛かる敵へ一人ずつ迎撃させ、寸分違わず急所へとアサシンダガーで刺し貫く。その後独りに戻るアンバー。


「フヒョヒョッ、無駄ですねぇ。数で圧したところで私の相手は務まりませんよ。もう少し実力をつけてから掛かって来なさい」

「そ、そんな馬鹿なッ! 一瞬で全員を……、くっ、すまぬユリウス」


 今の一連の戦闘とも呼べぬ行為に、否応なく実力の差を理解するマルス。

 必死で思考を巡らせ打開策を模索する。しかし、目の前で大事な部下達が呆気なく、無残に殺された場面を目撃し冷静に思考するのは難しかった。


「数ではランクの差は埋まりませんからねぇ。貴方も油断すればこうなりますよ」


 マルスを視ながら足元に転がる骸を、死者を愚弄するように脚で弄びだすアンバー。

 ガシガシと踏みつけ、爪先で蹴とばし、グリグリと踏み躙る。

 それを見たマルスのタガが外れる。


「貴様ッ! 正々と戦った者に対して無礼であろうッ!」


 サングリエを構え突撃を仕掛ける。


「正々? 異なことを言いますねぇ、一人に対して大勢で囲むことは正々と呼べるのですかねぇ?」


 剣を振るうマルスを子供の様にあしらうアンバー。


「黙れぇ、貴様も言ったであろう。ランクの差は数では埋まらん。だが、それでも、勝たねばならんのなら数を揃えるのは当然だ!」

「クククッ、確かにそうですねぇ。私が間違っていたようですが、元々私は正々堂々とは無縁の暗殺者です。何を言われようと関係ありませんよ。非道こそが我が正道ッ!」


 アンバーが言い終わるや、先程アンバーに殺されたインペラートル兵が、死した部下達がムクリと立ち上がった。


「なッ! き、貴様ァー! 使者を冒涜するのもいい加減にしろッ――!」


 元部下達に囲まれるマルス。部下達が一斉に跳びかかる。


「お前達、許せッ! 許せユリウス!」




 一方、魔術騎士団(エンキ・ナイツ)は魔銃騎士団との戦闘の真っ最中だった。


「ハハハッ、やっちゃえやっちゃえ!」

「お兄ちゃん、あんまり前に出ると危ないよ!?」


 無意識の内に一歩また一歩と戦場へと近づくアポロに注意を施すディアナ。


「大丈夫だって。相変わらずディアナは心配性だなぁ」

「で、でもぉ、相手は魔銃を使って来るんだよ。ここにも銃弾が飛んできても可笑しくないよぉ」

「大丈夫だって。ディアナは僕がちゃんと守るからね。心配いらないよ」

「心配なのはお兄ちゃんだよ……」


 この戦場ではお互いの軍が向かい合い、魔銃と魔術の打ち合いが始まっている。


「ハハハッ、魔銃如きで僕たちの魔術に勝てる気でいるんだから面白いよねぇ~」

「油断は禁物なんだよお兄ちゃん」


 魔銃騎士団の放つ魔弾はアポロの居る本陣にまでは届いてこない。

 しかし、何の策も無く魔術騎士団に面と向かって仕掛けて来る敵などいない。

 もし、魔銃にそれだけの自信と信頼があるのなら、疾うに先陣は崩されていても可笑しくはない。

 魔術師の防御能力は然程高くない。

 確かに魔術の強化は強力であるが、決して万能ではない。マナ量による回数制限や術式を展開する為の集中時の硬直時間と弱点が存在する。その為に長期戦には向かない。

 状況によっては容易く沈められるのが魔術騎士団の最大の欠点だ。

 弱点を補うため、本来なら接近戦を得意とする部隊を同行させるのが定石。しかし、今回の編成にその様な部隊は存在しない。一歩間違えれば殲滅られかねない編成なのだ。

 ディアナが指揮官である兄を心配するのは当然だった。


 魔術と魔弾の応戦中に、ポツポツと雨が降り出してきた。

 雨雲は急激に成長しだし、晴れやかだった空模様は一変した。


「ハハハッ、アイツ等も天に見放された訳だぁ~。銃使いが雨の中でどれだけやれるのか見ものだねディアナ!」

「う~ん、都合が良過ぎないかなぁ」


 雨は次第に激しさを増してゆき、何時しか豪雨へと変わった。


「ハハハッ!」


 笑うアポロの頬を一閃の銃弾が通り過ぎる。


「……え?」


 頬が裂け、赤い血が垂れる。


「な、なんで? おいッ! 防衛隊は何やってるんだッ! 銃弾がここまで飛んできたじゃないかッ! あそこからここまでどんだけの距離があると思ってんだよ。止めろよッ!」

「ア、アポロ様ッ! ま、魔術が発動しません、魔術が封じられました! 魔力障壁が発動せず、弾丸がそのまま此方まで通ったと思われます!」

「なんだって! 魔術封じだって!? そんな大掛かりな仕掛けを何時しってんだよッ!」

「お兄ちゃんッ!」


 ピュンピュンと弾丸が飛び交う中、アポロは障壁も張れずに立っている。

 兄を心配し呼ぶ妹に大丈夫だと答え、アポロが周りのマナを探る。と、直ぐに理由が判明した。


「雨だッ! この雨粒一つ一つにマナが含まれ領域のマナを乱してるんだッ! これじゃ制御が出来なくて魔術が使えないのも当然だよッ!」

「大変、お兄ちゃん。前線が崩されたみたいだよッ!」


 魔術を封じられ魔弾を防ぐ事が出来ずに前線が破られた。

 魔銃騎士団は、離れた安全圏からの一斉射撃を行い次々と敵を屠っていく。

 雨の効果で魔術を封じられた魔術騎士団では、防ぐ術がなく魔弾を撃たれる度に兵は倒れていく。

 前線どころか、このままではいずれ本陣にまで被害が拡大することは目に見えていた。


「総員に通達! 魔術封じはあくまで制御を乱すモノ。深く集中し、一つ一つの雨粒まで計算にいれれば魔術は発動する! 距離を取り深く集中しろッ! ディアナ、僕たちは魔法を使うよッ!」

「う、うん。でも、魔法は封じられてないの?」

「大丈夫だよ。これはあくまでマナを乱したもの。魔法は神気を遣うからマナは関係ないんだよ」

「うん、わかったよ」


 普段から子供じみた態度のアポロとて軍団の長だ。このような状況に陥ったとしても直ぐに対処できるだけの能力は持ち合わせている。

 アポロは部下達に細々とした対処法を伝えてから魔法の準備にかかる。


『光明の神アポロンよ。窮地へと落とされし哀れなる羊に、僅かばかりの光明を与え給え!』


 アポロの魔法の効果が発揮され、アポロの頭上の雨雲が脇へと追いやられていく。

 厚い雨雲に覆われていた空から光が差し込み、兵士達から歓声があがった。


『気高き貞淑なる女神アルテミスよ。我が身を汚す愚かなる者へ、厳粛なる一矢を与え給え!』


 続いてディアナの魔法の効果によって空中に淡い光を放つ矢が幾本も現れる。


「いっけ――!!!」

「やぁ――!!!」


 アポロの魔法が魔封じの雨を退け、ディアナの魔法の矢が敵陣へと放たれ、敵の先頭集団へ次々に突き刺さってゆく。


「ちッ! やはり魔法の使い手がいやがったかッ!」


 魔銃騎士団が団長スヌレムスの舌打ちは雨音にも負けずに響き渡った。アポロの魔法効果はここまで及んでいなかった。

 想定内とは言え、バタバタと倒れていく味方を見るのは極めて強いストレスとなる。急ぎ反撃に出る必要がある。


「総員、次弾に備え魔力障壁を張れ! 雨を退けた以上魔術が飛んでくるぞ! 氷結魔術の準備をしておけッ、俺等は魔銃だけじゃねぇことを教えてやれッ!」


 コダユーリオンの軍には、魔術封じの雨を相殺する魔道具が持たされている。

 その為、この魔封じの雨の中でも攻撃することが可能であった。しかし、魔法の存在が一方的になる筈だった展開を覆してしまう。

 スヌレムスが指示した魔力障壁では魔法を防ぐ事は出来ない。が、物理攻撃や魔術への対処は可能だし、精神的安定にも繋がる。

 その為に少しでも防御力を高め安定した状況下で、雨を利用した大規模氷結魔術で一気に方を付ける算段を立てていた。


「魔法を使っている奴は軍団長であるアポロとディアナで間違いないだろう。奴等は本陣奥深くに居る筈、狙いを違えるなよッ!」


 魔力障壁はディアナの魔法の矢を受け苦も無く打ち破られていく。


「氷結魔術放てぇ――!!!」


 スヌレムスの号令と共に放たれる氷結魔術が、真直ぐとアポロ達へと突き進む。

 魔術の通り道に居た者達は、見る間に凍り付き砕け散っていった。雨により濡れた身体は随分と凍りやすかったようだ。

 人だけではなく、通り道に存在する全て物もが凍り付き砕けていく。それは、大地とて例外ではなかった。

 魔術の通った跡には何も残らず、只々氷の道が出来ただけだった。

 それでも止まることなく突き進む魔術は一直線にアポロへと向かう。


『『主よ、護り給えッ!』』


 アポロとディアナは予期していたように、流れる様に再度魔法を使う。

 短い祈りに応え二柱の神が二人に神気を送り込む。

 二人を包むかの様に結界が展開され、それえは急激に拡大し後方の兵士達まで包み込んでいった。


 氷結魔術は結界へと激突して激しく四散して辺りを瞬時に凍らせる。しかし、結界の内側には一切の温度変化が起こらず、アポロ、ディアナの後方に居た誰一人として凍り付く者はいなかった。


「ハハハッ! 残念だったね、僕達にその程度の魔術が効く訳ないだろッ! さあ皆、敵は今ので激しくマナを消耗している筈だ! やっちゃえぇ――!」

「「「おおおッ!!!」」」


 二人の後方に控え無事だった兵士達が二人を追い越し駆けて行く。


「はッ! 引っ掛かりやがったッ!」


 スヌレムスが構えるのは大砲。魔銃とは桁違いの大きさを誇る大筒を小さな身体で抱えていた。


「この時を待っていたんだよッ! くたばれ帝国の犬どもがッ――!!!」


 あくまでも大規模氷結魔術は囮だ。本命はこれまで温存しておいた極大魔砲!

 スヌレムスはこれまでに一度として魔術を使ってはいなかった。その為、彼女はマナを一切消耗せず、万全の状態でこの魔砲を撃てた。

 彼女がありったけのマナを込めた魔砲にようる一撃は、彼の竜の吐息に匹敵する。それも、古竜騎士団の一騎士たちが騎乗する竜の亜種であるワイバーンではなく、テルピュネのような正真正銘の竜のブレスと比肩する威力を誇る。

 スクディアによって阻止された魔道具の代わりに作成された大量虐殺兵器だ。


 放たれた魔砲は再びアポロとディアナに標準が向けられていた。

 再度向かってくる魔砲に慌てて魔法の結界を張ろうとする二人だが間に合わないッ!


「ちぃ――!」

「間に合わないッ!」


 先の号令で二人よりも前に出てしまった兵士達は綺麗に消滅、このままでは二人とてそうなる。


「おおお、お二人を何としても護りぬけぇ――!!!」

「「「おおおッ!!!」」」


 二人の前に生き残った兵士達が集まり魔力障壁を重ね掛けしていく。


「な、何をしてるんだお前達ッ! 早くそこを退けよっ」

「そ、それは出来ませぬ。こ、ここでお二人を失ってはぁ、陛下へ申し開きができませぬぅ――オオオオッ――!」


 何十、何百と重ね掛けされた魔力障壁が、一枚一枚まるで紙のように引き裂かれていく。


「お、お兄ちゃん! 早く結界をー『主よ、護り給えッ!』」

「あああ、くっ『主よ、護り給えッ!』」


 漸く展開され魔砲を遮る結界。だが、短期間での魔法の連続使用により子供の身体に掛かる負担はアポロとディアナには耐えがたいものだった。

 二人は膝をつき肩で息をしていた。


「はんッ、誰が一発きりだと言ったよッ!」

「「「!!!」」」


 再び放たれる魔砲、今度は結界を張る程の体力が二人には残っていなかった。


「くっそ――――ッ!!!」




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