森で蛸を発見したよ
俺は今、嘗て古竜騎士団と共に魔物達の群れと戦いを繰り広げた強狂怖大森林の広場へと来ている。
目的は森の北方面へと抜け、エルト王国とエネミル王国との戦争を止めるためだ。
インペラートル王国はヴァンチトーレ帝国へ降伏し、帝国と共にコダユーリオン戦へと移行するだろう。
因みに牢屋に囚われているガドンレス君は、尋問を受けて傷を負っていた。
何だか見てるのも痛ましい怪我だったので、薬草から回復薬を造り治療してやった。そしたら元気になったらしく聞いてもいない事を次から次にと話し始めた。
曰く、「自分はコダユーリオンの間者である」「間者は一人ではなく、他に数名入り込んでいる」
曰く、「コダユーリオンの女王には懐刀の影部隊が存在する」(これ、おそらくアンバー達のことだな)
曰く、「切り札作成をスクディアに阻まれたコダユーリオンは、更なる魔道具の製造に取り掛かっている」
曰く、「新たに製造されている魔道具は、阻止された魔道具を上回る大量虐殺兵器である」
だそうです。
全部ゼウスにリークしといたから問題ないだろう。面倒事は全部ゼウスに丸投げで良い気がする! うん、そうだそうだ!
俺は俺に与えられた仕事をするだけ。そう、北方の戦争を止めることだ。
てな事でやって来た訳なのですよ。
以前来た時と変わりなく、何も無い草原。魔物の群れが荒らしたこの場所が、何事も無かったかのように爽やかな風を運んでいる。
魔物達の腐敗した遺体が転がってる訳でもなく、戦いで抉られた大地が荒れ果てるでもなく存在している。どうなってるやら?綺麗な草原だ。
「まっ、いっか! 覚醒の実をくれたじっちゃんに挨拶しにでも行くかのん!」
覚醒の実には世話になったからな。アレのおかげで命拾いした。
『ほい、久しぶりだのん。元気そうで何よりだのん』
「うぃす!」
老樹のじっちゃんも元気そうで何よりだのん。
それからじっちゃんと四方山話を時間を掛けてのんのんと楽しんで別れた。
じっちゃんの話では、大量にあった魔物の遺体は数日もしないうちに大地に呑み込まれていったそうだ。
その呑み込まれた魔物の遺体に残留するオドを使って、大地が荒れた己を元に戻したとのこと。
この大地、まるで生き物みたいだのん。 俺もこの地で死ねば残された遺体を吸収されてしまうのかな?
『最近は何かと物騒な気配がするで気を付けりんよ』と忠告もされている。
と、それはさておき、今日はここで野宿だ。 久しぶりにハデスから貰ったキャンプセットを使う時が来た。
草原へと戻った俺は、魔除けテントをセットする。
相変わらずのデカいテント、中身も勿論広い。人家族を余裕で住まわせられる広さで宝箱の様な箱以外には何もない。何か入れておこうかな?
まぁいいかっ。飯の準備でもしておこう。
焚き火台を造り、燃料たる小枝を集め回りふと気づく、魚が喰いたい!と。
嘗て獲ったダツモドキは修行中に既に喰ったのでない。 アレは激ウマで師匠も気に入っていた。
ここは一度湖まで行って新鮮な魚類を確保しておくのも悪くはない気がする。
「よし、早速行ってみるか!」
まだ俺が此方に転生した初期のころ、この湖には世話になった、って程でもないけどここで獲れたお魚さんは美味だった。
現状この湖は、黒い肌したエルフ達と化け物級の巨大蛸との戦場と化している。何で?
いや、知ってたけどね。薪を集めている最中から戦闘音や殺気がビシバシと感じ取っていたからね。
案の定、亜空を使い転移したら目の前で戦闘を繰り広げられていた。
「何故この場に人間が居るッ! 邪魔だ消えろ!」「此処は危険ですッ!早く逃げて下さい!」「人間なんぞ放っておけッ!」って言ってるのはダークエルフの戦士達。
「Gaaaaaaaa」って言ってんのが大蛸。って、今のは魔術発動のトリガーだったみたいだ!
瞬時に周りは火の海、此処は綺麗な湖だったのにッ綺麗に蒸発してしまっている!
澄み切った湖は炎の熱により蒸発、優雅に泳いでいた魚たちは焼き魚を通り越して炭へと変わった。
おのれッ、許すまじ! 俺のダツモドキを返せッ!
「助太刀する!」
ただ見ているだけではダツモドキの仇は討てないので参戦する事にした。
「なッ、何だ貴様ッ!」「人間如きがでしゃばるな!」「人間が味方してくれるのか?」「あれは化け物だ、人間一人で何ができる!」と、のたまう黒いエルフ達。
ガヤガヤと騒ぐダークエルフの群れを無視して炎の海の中へと跳び込む。
その間に俺は【加減乗除】で下げていた能力値を元に戻しておく。これで今の俺はTランクの実力者だ。ちょっとやそっとでは死ななくなる。
大蛸の眼前にまで近付いた俺は燭台切光忠を抜刀し右薙ぎ。
この大蛸の全長はおそらく30mはあるだろう。頭だけでも可成りデカい!
盾の様に翳された蛸の足が俺の右薙により切断された。 その瞬間に「おお~」「すげぇ」と観客と化した戦士達から感嘆の声。
それにしてもこの大蛸、とんでもない化け物だった。
そのまま胴体を両断する積もりで放った右薙を、Tランクの本気の斬撃を、足の一本の被害で食い止めた!
それに切断した足が即座に再生していく。
油断したら今の俺でも危険かもしれない。急いで方を付ける必要がある、長期戦では犠牲者が多数でるだろう。
「おいっ、あんた、味方してくれるのか? だ、大丈夫なのか、炎の海へ入って行ったりして?」
広がっていた炎を魔法を使い消し去ったら、ダークエルフの一人が俺へ近付き声を掛けてきた。
ダークエルフってのはもっとこう、人間嫌いなイメージだったんだけど、違うみたいだ。普通に接してくれる。
「ああ、大丈夫だ。それよりも下がれ、次が来るぞッ!」
「GAAaaaaa」
「「「!!!」」」
再び大蛸の魔術。俺を中心として直径数m、高さは分からん程の火柱がたった。
少なく見積もっても数千度はある、いや、万に届いていそうな超高温。
こんなのを喰らえば俺は兎も角、隣のダークエルフは一溜まりもない。
俺は自身と彼を覆う結界を創り出し炎の魔術を防ぎ、彼を担ぎ上げて大きく跳び退く。
その間に大蛸を凝視する。
《種属:上級悪魔
名前:魂食いの大蛸
ジョブ:魔王 ランク:SSS レベル:35
加護:他化自在天
称号:大悪魔(+【即時再生】【精神汚染】【魂喰らい】)
称号Ⅱ:鱗無き悪魔(+【束縛】【衝撃吸収】【無限触手】)
称号Ⅲ:覚醒魔王(+【レベル】【神族特攻】)
生命力:250000000
筋力:150000000
速力:98700
肉体強度:6505000
知力:58000
魔力:1050050000
魔力抵抗:400300000
運:650
信仰魔法:第六天魔王波旬
魔術適性:|火炎、暗黒、特殊
固有スキル:【魂飛魄散】【眷属召喚】【状態異常無効】
上級スキル:【悪運】【猛毒牙】
スキル:【麻痺牙】【投擲】【斬撃緩和】【魔力回復】【必中】【権謀】【魔術抵抗強化】
》
うん、ヤバイ奴だ。能力値が高くスキルも豊富だ。
善神が神兵とするために召喚した者が勇者であり、邪神や魔神などが召喚した者を魔王と呼ぶ。
この世界に魔王は居ないと思っていたがどうも居たらしい、それもとびっきりのヤバイ奴が。ジョブに魔王、称号に大悪魔と覚醒魔王を持っている。
これ、勇者如きに倒せる相手じゃないと思うんだけど? それとも勇者も覚醒すれば同じ位強くなるのだろうか? 今のところキララにその兆しはないよ。う~ん、まさか勇者は数押しなか?
ランクで言えば俺より格下になるが、奴には【神族特攻】が有るため俺の天敵になり得る。
魔力に至っては同ランクだし、本気で魔術を使われたらここら一帯が焦土と化すな。
【魂飛魄散】持ちだし、【魂喰らい】まで持ってやがる。
【魂飛魄散】で体から魂を剥ぎ取り肉体を爆散させ、その後【魂喰らい】で魂を喰らうという凶悪なコンボスキル。
因みに神の魂には、“荒魂(勇)”“和魂(親)”“幸魂(愛)”“奇魂(智)”の四つが在り、一霊四魂と言う。これは四つの魂を一つの霊(直霊と言う)が制御するっていう神道の概念だ。
奴のスキルがどこまでの魂を喰らえるのか分からないが、神の魂を喰らう事は不可能だろう。神を殺せるのはハデス一柱以外には有り得ない。
問題となるのが周りに居るダークエルフ達だ。彼等は魂を食べられてしまう恐れがある。
冥神として魂食いは断固として阻止せねばならん!
他化自在天とは、仏教の世界観に於いて欲界六天の最上位である天界のこと。つまり、天上界で人々が欲望に捉われて生きている浅ましい世界の最高位ってこと。
ここでの快楽は全て他者と共有できるという。その全てを第六天魔王が甘受しているのだろう。
第六天魔王波旬は、他化自在天を住処とし仏教の教えを妨げる存在、又はそのものとされる。俺と冥界の関係と似たようなものだ。召喚された魔王とは格が違う本物の魔王だ。
彼の織田信長が名乗ってた名前だね。アレは武田信玄の天台座主沙門に対抗して名乗った名前なんだよ。
っと、解説はそれ位にしてどうするかを考えないとな。
俺はダークエルフを抱えて彼のお仲間の元まで下がり、大蛸の魔術から彼等を護る。
強狂怖の結界内で良かった。外でこの魔術を使われていたら国の一つや二つ吹き飛んでいた事だろう。
が、ここは結界内、俺が魔法で抑えているのもあるが、凶悪な威力であっても被害が極力抑えられている。本来なら数㎞に渡る火柱が立っていただろう。
「危険な奴め。一人で突っ込むなど自殺行為であるぞ」
大蛸を警戒していた俺に、ダークエルフの一人が近付き言ってくる。彼等の代表格だろうか? エルフの割には年老いて見える男が俺の隣に立った。
「ああ、悪かったな。あれ程とは思わなかったんだよ」
「アレは古に封じられた悪魔だ。人一人の力でどうにかなるモノではないぞ」
「封じられた悪魔? 封印が解かれたのか?」
「うむ、調べさせたところ、愚かな事だ、奴を封印していた封印石を何者かが破壊したようだ」
誰だ! そんな阿保なことしたバカタレわぁ!
「襲撃魚の頭が封印石に突き刺さっていたそうだ。不敗度から見て数日前の事だろう。襲撃魚を捕獲しようとして盾にでもしたのだろうな」
「へ、へぇ~…」
い、言えねぇ~、そんな過去が私には有りました、とは口が裂けても言えねぇ~!冷汗が止まりません!
「その愚か者は何処ぞへ消えてしまったが、封印を破った魂食いの大蛸はこの場に残ってしまった。森の奥まで行ってくれれば竜共が始末してくれたやもしれぬのにな」
「長老、援軍の獣人族はまだなのですか? このままでは全滅も有り得ます!」
先程助けた若者が長老さんに声を掛ける。援軍を呼んでいたらしい。
そしてもう一人、美しい女性が近付いてきた。おう、豊満。何がとは言わないが、ミネルヴァが視たらもぎりそうなデカさだ。
「獣人族は皆この場から離れていきました。我等もこの場を放棄した方が得策では…」
彼女は官能的の美とでも言うべきだろうか? 纏う衣装が女性としての曲線が際立たせメリハリのあるボディラインを強調する。しなやかな肢体は若さの象徴たるに足り、露出された肌はきめ細かく瑞々しい。
真直ぐな白く長い髪は滑らかで、翠の瞳はどことなく鋭い。スラリと長い手足に、赤くぷっくらとした唇、見る者が視れば彼女の美の虜になるは必至だろう。
「アルティオか、それはならぬぞ! 我々は封印の守人よ、アレに喰われた者は転生すら叶わぬ。奴を倒さぬ限り喰われていった者が救われぬ。我等はこのまま滅び去ろうとも、過去に喰われた者、この場で喰われた者のためにもここは退けん! アルティオよ、汝はこの場を離れ同胞へこの事を伝えよ。我等で無理ならば同胞に託すしかあるまいぞ」
「それは出来ません。同法を死地に送るなど、私には出来ない事です。やりたければ御自分でなさって下い」
「って、言ってる場合かっ! 次が来るぞ!」
長老達が悠長に話している間に、大蛸の奴は次弾の装填を済ませたようだ。
あれだけの魔術だ、タメも大きかろうに! 話し込んでたために奴に時間を与えてしまったようだ。
————GHRAaaaaa!!!
今度の魔術は大地から黒い靄を発生させるものだった。
この靄には認識阻害の効果があるらしく、直ぐ隣に居た筈の長老の気配すら掴めなくなってしまった。
更に大地の至る場所から触手が生えてくる。
触手を感知できないダークエルフ達が次々に捕らえられ吊るされていく。
ハッキリ言ってダークエルフが何人集まろうと、この魔物は倒せないだろう。
ダークエルフは見たところBランクが主でAランクがチラホラと居る程度だ。
Sランクにすら届かない者がいくら集まろうとも上位者には敵わない。せめてキララ並みの実力者が数名は欲しいところだ。
「ちっ、動くなよ。今助ける!」
俺は目の前で触手に絡まれ上空へと持ち上げられている長老とアルティオを助ける為に光忠を振るう。
黒い靄の認識阻害は俺には効果が薄い、何故なら片っ端から魔法で消去しているからだ。しかし、いくら消そうが靄は即座に地面から湧き上がってくる。
二人を拘束する触手を斬り飛ばし救出し結界を張り保護し、他の者達の救出に向かう。
そんなことを何度か繰り返していた時、凄惨な光景が俺の眼に跳び込んできた。
吊り上げられていたダークエルフ達が一斉に爆散したのだ。
頭上から降り注ぐダークエルフ達の血肉、悲鳴を上げる間すら与えられずに死んでいった者達。
血の雨に洗い流されるかのように靄は消えていった。
そして知る、仲間達の悲惨な結末を。
辺りに悲痛な叫び声が木霊する。
仲間の無念に涙し、嗚咽を漏らす。地面に座り込み気力を失う。叫び大地を拳が痛むまで叩き続ける。
親に子、恋人に夫婦、失われた命は数多い。失われた命以上に悲しむ人がいる。
この光景は見たくはなかった。
先程のは大蛸の持つ【魂飛魄散】のスキルだ。
この直後にアレが来る!
「させん!」
俺は本体にアクセスし冥神としての力を使い魂を回収する。
そうしなければ【魂喰らい】によって彼等の魂は大蛸に喰われてしまう。そうなれば魂は冥府へ行けずに大蛸の中で未来永劫の苦しみを味わう事になるだろう。
冥神の意地に掛けても一つたりとも喰わせたりはしないッ!
大蛸の【魂喰らい】が発動する。
俺は全ての魂に標準を合わせ冥府へと送っていく。
奴のスキルと俺の神としての力では、言うまでも無く俺の力が遥かに上だ。
一つの漏れも無く魂を回収できた。だが、それに怒り狂った大蛸が暴れ回る。しかし、怒れるのは奴だけではない。
生き残ったダークエルフ達が一斉に魔術を放ち始める。
大蛸からしたら大した威力ではないだろう。しかし、動きを牽制する威力はあったんだ!
「チャンスッ!」
執拗に放たれる魔術に動きを止められた大蛸に大きな隙が生まれた。
その隙を逃す俺ではない。
生死を司るのが冥神、故に、生死に関わらず絶対的な優位性を誇る。
俺は大蛸の死を願い刀を振り上げる。
ただそれだけ。
強く願った。
それだけで大蛸は死んでいた。
振り上げた光忠が、虚しく陽光を反射して光っていた。
……………………………………あれ?




