暗殺王アンバー vs 第二王子スクディア
駆ける駈ける翔ける!そして、切る斬るキル!
拠点を奔り、出会った敵を片っ端から斬りまくる。
既に地面は真っ赤な斑模様を描き朱色に染まった水溜まりが彼方此方に出来上がっている。
地面には横たわる無数の遺体。コダユーリオン兵も随分と殺られているが、それ以上に帝国兵の死者が多い。雨の効果で魔術を封じられた帝国兵が抵抗できずに殺られているのだろう。
俺は嘗て暇潰しに造った魔道具、気象制御装置(名前はまだない)を使うことにした。奴等が降らせた雨を打ち消す為に使用する。
亜空から金属で出来たボールのような、一抱えは有る銀の球を取り出す。それを大空高くへと蹴り飛ばすと、銀球は勢い良く真上へと打ち上げられ雨雲の中へと消えていった。
暫くすると雨雲が輝き出し霧散していく。雨は止んだ。
これで魔術やスキルが使用可能になり帝国兵は反撃に移ることができる。コダユーリオンの奇襲は失敗に終わる、これで一安心だな。
さて、ゼウスが再びこの地に訪れるのなら、俺の出番など一切無くなる。ので、少しでも多くの敵兵を屠り、少しでも良い印象を与え交渉に臨みたい。
奇襲を受けたのは俺の所為ではないにしても、俺がこの地に来てしまった事が一つの要因である事は確かなんだから。
目立つ手柄を立て、好条件で交渉出来れば御の字だ。懸念があるとすればアンバーだろうか?
アンバーBはヤケに呆気なく豚将軍に殺されていた。奴の実力を考えればもう少し健闘できた筈なんだが……?
おそらくアレの本体は死んでないんだろう。確認は出来なかったが、アンバーCが黒騎士団と共に北上していると考えた方が良さそうだ。
奴は俺達の目の前で殺されることで死んだと思い込ませたかったのかもしれない。……いや、そんな間抜けはいないか。分身を目の前で見せられたんだ、他にも居ると思うのは当然だろう。勝ち筋を潰された奴は、あの場を放棄しただけだと考えられる。なら奴は生きているだろう。
総司令官殿に豚将軍を護衛に付けたので彼等は安全だろう。残りの不安要素はスクディアだが、これも問題ない。だって、黒狼を二体も預けているからね。アンバーなら兎も角、並みの暗殺者なら問題なく蹴散らしてくれるだろう。
黒狼は暗殺者よりも暗殺者らしい戦い方をする。少し様子を見てみようか。
ちっ、フヅキが帝国の指令官の元へ行って直ぐに刺客達はやって来た。
俺はフヅキから受け取た剣と盾を使い刺客達の相手をしている最中だ。
こ奴等は暗殺者、突然影の中から現れ斬り掛かり、そして影へと消えていく。
戦闘能力自体は決して高くはないのだが、倒し辛い!
奴等を相手取るには、本来なら護ってはいけない。先手を取り先に仕掛ける必要があったのだ。
しかし、既に後手に回り奇襲を受けている。今もソファの影からダガーが飛び出してきたところだ。
「ちぃ、面倒な奴等だ!死角から次から次へと!」
忌々しい雨の所為で魔術が使えず苦戦を強いられていたのだが……。
突如「うわぁ」だの「きゃあぁぁ」だのと聞こえてきて、攻撃は止んだ。何だ?何が起こった!
答えは簡単で黒狼達だった。
黒狼達は、この雨の中でもスキルを使用していた。影の中へと潜り込み、影に潜む暗殺者を襲っていたようだ。影へ潜り、次に出てくる時には暗殺者の遺体を銜えて現れる。
影の中へと入り込んでは別の影から飛び出してくる【影渡り】と呼ばれるスキルだろう。暗殺者が使っているのは【隠密】であって【影渡り】ではない。
もしもこの黒き狼達が俺の命を狙っていたならばと考えると、正直言って恐ろしい。俺自身の影から突如現れれる獣に、俺は対応出来るのだろうか?
気配も無く突如として死角から襲われることになるのだ、自身がない。
暗殺者よりも暗殺をしている黒狼達が俺の傍へ来て座っている。顔を見るとどうも褒めて欲しそうにしていたので、頭をなで「良くやってくれた」と褒めておく。
次第に気持ちよくなったのか、黒狼達は二匹して寝転び腹を見せて撫でろとせがむ。
これがへそ天か?と、仕方なく両手で撫でてふと思う。俺は何をやっているのかと、敵はまだ大勢いる筈なのだが、無防備にも狼の相手をしている自分自身に少し呆れてしまう。
だが仕方あるまい。いくら恐ろしいとは言え、可愛いのだ!きっと、スキルには【魅了】が付いているに違いない。何だか無性に可愛く思えてくるのだから。命の恩人である彼等に感情移入してしまっているのだろうか?
だが、流石に敵も放って置いてはくれない。隙だらけな俺達だからな、俺でも放っては置かないだろう。そう、新手が来たのだ、再び影の中から猛毒のダガーが飛び交い始める。透かさず黒狼達が影の中へと潜り込んでいった。
敵は【隠密】の熟練度が高いのだろう、気配が一切掴めない。別のスキルを併用しているのかもしれないが、これは危機的状況だと理解する。
黒狼が確実に敵の数を減らしてくれているものの、無数に飛び交うダガーは自力で避けなくてはならない。黒狼達が居なかったらと思うとゾッとする。
右に左に、又は剣で弾き盾で防ぐ。一つでも掠り、傷を負おうものなら致命的な猛毒を受けてしまう。
俺は、と言うよりも王族は毒殺の恐れがある為、毒に対する耐性を付ける訓練を行う。だが、俺はある程度の耐性はあるが、未だに【毒耐性】スキルが発現してはいない。掠りでもすれば致命的だろう。
天幕の外へと出る事も考えたが、今は雨雲の所為で闇に覆われ視界も悪い。外へ出れば暗殺者の格好の餌食だ、それは避けなければならない。魔術を封じられている以上明かりを灯すことも困難だからな。
なら、俺のすることは一つしかない。いや、出来ないが正解か。
俺はひたすらにダガーを避ける。敵が姿を見せれば戦えるが、見えない敵を倒す術が俺にはない。狭い天幕内をひたすらに逃げ回る。
どれ程続いたか?黒狼達の頑張りのお陰で敵の手数が減って来た。だが、気を抜く訳にはいかない。
俺が気を引き締め直した直後の事だった。
「キャウィン!」
悲鳴を上げ影の中から弾き出された黒狼が一匹。
「なっ!」
狭い天幕の端へと飛ばされた黒狼がぐったりと横たわる。
駆け寄り傷を見てやりたいが、阻止された。俺の足元から男らしき腕が伸ばされ、その腕にはアサシンダガーが握られていたのだ!
咄嗟に盾で凌ぎ横へと飛び退く。何とか凌げたが長くは続くまい!既に腕は消えていた。
動きを止めれば再び腕が伸びてくる。俺は動きを止める事も出来ずに動き回る。このままでは体力が先に尽きてしまう。
アサシンダガーには【即死】に似た【一刺必殺】のスキルが付与されている伝説級の魔道具だ。傷の具合関係なく一刺しされただけで獲物を殺せる代物だ。
【即死】とは違い時間は掛かるが、呪いの様にじわじわと蝕み傷は広がり、如何なる回復魔術も受け入れず最後には死に至らしめる残酷なスキルだ。
アサシンダガーで傷を負わされたと思われる黒狼をどうにか助けてやりたいが、アレを喰らっているのなら既に手遅れかも知れない。
黒狼に近付くことも出来ず動き回っていると、先読みされ行く手にダガーが飛んでくる。数は極端に減っているが無くなった訳ではない。数の減ったダガーなら何とか躱せる。躱しつつ動きは止めない。
もう一匹の黒狼が心配だ。もう一匹が殺られれば俺の生存確率は極端に下がるだろうが、この際俺の事はどうでも良い。フヅキから預かった黒狼を二匹とも死なせるのは忍びない。何とか逃がしてやりたいのだが、それを許さない暗殺者達。
だが、気づくとダガーが飛んで来なくなった。黒狼が殺ってくれたのだろう。
いつの間にか倒れた黒狼の傍には無事な黒狼が佇み、相方の傷を労わる様に舐めていた。倒れた方は息が荒い、だがまだ死んではいない。微かだが希はあるかもしれない。
俺は傷を診ようと近付くと、再びアサシンダガーを持った腕が俺の影から伸びて来た。
ちぃ、コイツはまだ健在だったか!
無事な黒狼が威嚇し、影へと潜っていった。
不味いな、影の中では手助け出来ない!
そんな時、不意に雨音が止んだ。
雨が止んだということは……。
気づいた時には叫んでいた。
「姿を見せろ!コダユーリオンの騎士には正々堂々と戦う勇気ある者はいないのか!」
挑発してみるが相手は暗殺者だ、姿を隠して敵を屠るが本分、効果がないことは分かっている。
「【覇気纏い】【身体強化】【不屈】『パワー』『アクセラレート』『ワンハンドレット・アタック』!」
持てる強化を自身に施していく。
効果は見込めないと踏んでいた挑発に乗って、相手が影の中から外へと出て来たからだ。
「フヒョヒョヒョッ、勇ましい王子様だ。私と面と向かって戦おうと言うのですか?」
この男には見覚えがあった。コダユーリオン、アルカーヌムの門前でその姿を見ていた。
細長い体躯をした男、目元は窪み隈が出来、髪はバサバサと乱雑に跳ね、背を丸め、口元に下卑た笑みを浮かべているこの男は。
「貴様、確か名前はアンバーと言ったか!?」
「フヒョヒョッ、まさか私の様な卑しき者の名を覚えていてくれるとは、恐悦至極で御座いますスクディア第二王子殿下。あの時は邪魔が入りました故に碌に話も出来ず申し訳ありません。ですが、キヒヒッ、此度は非礼なきよう最善を尽くしましょう!『エフェクト・アビリティオール』!」
言った直後に魔術による武具強化を施し襲い掛かって来るアンバー。
「キヒヒヒッ、まさか王子ともあろう者が魔物を飼っているとは思いも寄りませんでしたよ。お陰で我が精鋭達は全滅してしまいましたよ。七人の豹人も消けされたようですしねッ!」
「くっ!」
アサシンダガーを避ける、いなす、躱す。しかし、百撃の魔術を掛けてやっとのことだ。
『ワンハンドレット・アタック』は手数を増やす魔術、剣の一振りが術者の力量に応じて多重に発生すると言うものだ。只の一撃が十にも二十にもなる俺の切り札でもある。俺の実力では一振りで三十五が限界だが、熟練者が行えば文字通り一撃が百撃へと変化する。
一閃の軌跡の後を追う様に三十五の剣閃が追随する。しかし、そのどれもがアンバーに届くことは無かった。
俺の多重攻撃は全て、アンバーの振るう只の一振りのダガーに阻まれる。それどころか、俺の連撃の隙間を通す様にダガーが差し込まれてくる。
アンバーは確実に俺よりも強く、俺独りではコイツには敵わないだろう。となれば複数で挑むまでだ!
「黒狼!」
俺の叫びと共に黒狼がアンバーの背後に延びる影から飛び出し牙を剥く!と、同時に俺の剣撃がアンバーを襲う。挟み撃ちだ!
「フヒョヒョヒョッ!」
笑いながらその全てを躱すアンバー。
「王子たる者が、サシでの勝負に獣を使いますか!いえいえ、構わないのですよ。殿下では私に届かないのですから獣でも何でもお使いなさいませ。でなければ貴方、死にますよ!さあさあさぁ、『ダークショット』!」
俺へと剣を振り回し、死角に居る黒狼へと視線も向けず魔術を放つアンバー。黒い霧のような無数の弾丸が凄まじい速度で黒狼を襲う。
黒狼は慌てて横へと跳ね弾丸を躱す。弾丸は天幕に衝突し弾けその場一体に闇を広げた。
ちっ、アンバーの実力はBランク半ばの俺より上、おそらく黒狼でBランクの上位か、Aランク下位だろう。それより上と言う事はアンバーの実力はAランク中位から上位に位置すると考えられる。
俺や黒狼よりも格上の相手、格上相手に一対一の勝負は自殺行為だ。何と言われようとも黒狼の助けは必須。
ミネルヴァの言が本当なら、フヅキが居れば勝てたかもしれないが、居ない以上俺と黒狼で何とか打開しなくてはならない。
俺は迫るアンバーを盾で牽制し剣を振るう。これは大きな失策だった!
アンバーは俺が盾の死角に入った一瞬の隙に影へと潜り込み、俺の剣は空ぶる。奴自身は先程の『ダークショット』で造り出した闇から即座に現れ、俺達を注視していた黒狼をアサシンダガーで刺したのだ!
「ちぃ———!」
俺は直ぐに刺された黒狼の元へと駆け寄る。その時にはアンバーの姿は再び闇の中へと消えていた。
「大丈夫か!くっ、傷が深い。『ヒール』!」
ぐったりと横たわる黒狼に回復魔術を施す。
俺には回復魔術の適性が無いため効果は微々たるもの、だがやらないよりマシだろう。
しかし、アサシンダガーの【一刺必殺】による傷は如何なる魔術をも受け付けない。このままでは黒狼の命は無いだろう。気休めになるが回復魔術を継続する。
その俺の背後の闇からアンバーが姿を現し襲い掛かってくる。
くっ、この位置関係は危険だ。俺の背後から襲うと言うことは、避ければ黒狼が攻撃を受けてしまう。
いくら回復の見込みがないとは言え、このまま見捨てる事など出来ずに振り向き盾を構える。
この盾、A級と思われるアサシンダガーの攻撃を幾ら喰らっても傷一つ付いてはいない。これもA級なのか?この際それはどうでも良い、奴の強化魔術の掛かったダガーを受け流し反撃できなければ終わる。
「キヒヒヒッ、獣を護りながら死になさいスクディア王子!『エフェクト・アビリティウェポン』!」
腕を伸ばしつつアサシンダガーに強化を重ね掛けする。【一刺必殺】の威力を上げ、攻撃力を上げ、更に加速した。
この男に【貫通】のスキルが無いことを祈り盾をダガーに押し付ける。
…………が、来るべき衝撃がなく、代わりにくぐもった呻き声が聞こえてきた。
「ぐぅぬぅー、あ、貴方は確かに【一刺必殺】を喰らった筈ぅ!」
盾を下げ状況を確認すると、アンバーのダガーを持つ腕に喰らいつく黒狼の姿があった。
それは最初に影から弾き出された黒狼。傷も癒せずに横たわっていた筈の獣。
何だ?何が起きている?
アサシンダガーの傷は癒せない筈だが? 何か特別なスキルでも持っているのだろうか?
如何に【一刺必殺】とて絶対ではないのだろうか? 現に先にやられた黒狼は元気にアンバーに噛みついている。
アンバーの引き攣った顔を見ただけで胸がスゥ―とする思いだ。だが、これは好機、ボーと見ているだけにはいかない。
「よくやった!はあぁぁぁぁ————!」
【覇気纏い】を全開で展開し借り物の剣でアンバーの首を狙う!
「がぁあぁぁ————!!!ア、『アンピュテーション』!」
流石と言うべきか? アンバーは四肢切断の魔術を使い、黒狼に喰われている腕を自ら切り落とし後方へと跳んだ。お陰で薙ぎ払った剣が空を斬る。
「クッ、ククッ、ククククッ。…………や、やってくれましたねぇ。ですが、ど、どうやって……【一刺必殺】の効果をむ、無効化したのですか? まさか獣如きが、こ、高位の解呪魔術でも使えるとでも言うのですか?」
青い顔をし、千切れた腕を抑えながら聴いてくるアンバーだが、どこか余裕を感じるのは気のせいだろうか?
「……成る程、たとえ【一刺必殺】と言えど解呪魔術なら癒せるのか。それは良い事聴いたな」
ならば早く決着を付けもう一匹の黒狼を治療しなくてはならない。帝国兵の中には高位の解呪魔術が使える者もいよう。
「誤魔化さないで頂きたいですねぇ。私の【一刺必殺】は絶対の死、受けた以上死ぬが道理でしょうに」
どんな道理だ! コイツは武器に宿るスキルを自分の物だとでも思っているのか?
その武器は千切れた腕が未だに握りしめ床の上で黒狼に踏まれている。アレをアンバーに拾わせる訳にはいかない。
「大した自身だな。それなら自ら自慢のスキルを喰らってみるのも一興だろう!」
俺は黒狼の踏みつけるアサシンダガーに手を伸ばす。
アンバーとてそれを悠長に見ているだけではない。腕が影へと沈み込んでいく。
だが、黒狼が素早く口を影へと突っ込み、直ぐに影から首を上げる。その時にはアサシンダガーを口に銜えていた。それのダガーを俺へと投げて寄越し、俺は盾を捨てアサシンダガーを掴む。
「ちぃ、厄介な獣ですねぇ!『ダーク・ジャベリン』!」
アンバーの放つ闇の槍の群集。その全てを魔力障壁で防ぎつつ歩を進める。
魔力障壁とは単純にマナを高質化させシェルターを造るスキル。
マナを込めた分だけ強度を増していく。
盾は捨てた。護りはこの障壁のみ、故に全魔力を込める!
「ちぃー、此方に来ないで頂きたいものですね!『ダーク・オブ・ダークネス』!」
既に影の中に逃げ込むだけの力がないのか?一歩も動かず魔術を連続して放ってくるアンバー。
いくら全魔力を込めた障壁と言えど、格上の魔術など何度も受けてはいられない。
バリバリと音を立ててひび割れていく障壁、だが関係ない、無視してダガーを振り上げる。
「フヒョヒョッ、掛かりましたね?【無心操術】!」
アンバーが黒狼へと腕を伸ばした。俺が黒狼から距離を取るのを待っていたのか!?
「さぁー、この王子を噛み殺しなさい!」
【無心操術】?操る術か? それが貴様の切り札か!
慌てて黒狼を見ると、疑問符を頭上に浮かべながら首を傾げる姿が映った。
復活した方の黒狼は、倒れた黒狼を護るかのように傍を離れない。
「ど、どうしたのですか?さあ、早く王子を始末しなさい!」
どうやら効いてはいないようだ。構わずアサシンダガーを振り下ろす。
アンバーは無事な腕で俺のダガーを持つ腕を抑える。だが、血が足りないのか?格上の力に抑えられているというのに、ジワジワと押し込めていけている。
「何なのですか!加護の力が及ばないなど、有り得ないでしょう!……まさか!まさか、あんな獣に加護を与えた神が居るというのですか!」
「生憎とそんなことは知らん!俺の友から借り受けた彼等を傷付けた貴様は絶対に許さん!」
ダガーがアンバーの顔の目の前まで迫る。
「し、仕方ありませんねぇッ!ここは退くとしましょう!」
アンバーの身体が自らの影へと徐々に沈み込んでいく。
「ちっ、逃がす訳にはいかん!『パワー』!」
魔術の重ね掛けで、ダガーを握る腕に一層の力を込める。
「がああああぁああぁぁぁ」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ズブズブと沈んでいく姿に焦る俺に、徐々にしか沈めない事に焦るアンバー。
だが、力を込めれば込める程アンバーは沈んでいく。
「最後に笑うのは私のようですね王子!」
「ちぃ————!くそっ!」
その時、アンバーの身体が空中にまで跳ね上がった!
「ガッハッ!な、なんなのです!」
アンバーの身体に喰らいつき、影から二匹の獣が飛び出してきたのだ。
「何故です!? 貴方まで傷が癒えているというのですかッ!な、何故だ————!」
空中で無防備に身体を曝け出すアンバー。今が最大の好機!
「これで終いだ!【一刺必殺】!」
「ああああぁぁぁ————————!!!」
アンバーの心臓目掛けアサシンダガーが突き刺さる!
「はっ、【一刺必殺】は絶対だったか?」
「グルルルルッ」
「ハ…………ハハッ」
黒狼に身体の一部を喰い千切られ地面へと叩き付けられる。既に言葉を発する力も無く無言で呼吸だけをしている。
次第に呼吸は弱弱しくなり、やがて完全に止まった。勝った?勝ったんだ!
二匹の黒狼が俺の横に来て身体を擦り付けて来る。
「よしよし、よくやってくれた。お前達が居なかったら今頃はソイツの代わりに俺が横たわっていただろう。有難う、礼を言わせてくれ。……それよりお前達、身体は大丈夫なのか?」
「「ワウッ」」
大丈夫のようだ。しかし、何故突然【一刺必殺】を無効化し傷が癒えたのか?
二匹の狼はへそを天へと向けて俺に撫でられている。撫でながら傷を確認するが、傷一つない様に見える。ま、無事ならそれで良い。何よりだ!
マナを使い果たした俺だが、【不屈】の効果で動くことは出来る。
外の兵達に手を貸しに行った方がいいだろうか?
……いや、外の喧騒は静まっている。もう、問題ないだろう。ここでフヅキの帰りを待つとしよう。
おお、アイツ等は大丈夫だったようだ。
黒狼が二体とも【一刺必殺】のスキルにやられたようでヒヤヒヤしたが、その程度では黒狼は死なない。
だって、黒狼達はリュルフの眷属で加護まで与えている二体だからな。
【無心操術】だってそうだ。リュルフは俺の神魂器だが、銀狼の王にして神獣の一柱だったりする。
格上の俺の神魂器で、しかも神獣の加護持ちだからアンバーの加護は無効化されたんだ。
これで残りは雑魚の暗殺者だけだ。
…………あれ?もう終わってんじゃん!
あんなに居た暗殺者達はもう一人も居なかった!




